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アマデウスの謎  作者: 伊吹 由
第2章 リナの過去
37/147

第36話  レインボーブリッジ(2008年)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


  慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン2


       「アマデウスの謎」 


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前回までのあらすじ


2012年、女子大生リナの妹が誘拐された。


霊能力を持つ1つ下の後輩・慎吾を連れて実家へと戻るリナ。誘拐犯から1週間以内に1億円を用意しろと要求され、羽鳥邸にいた面々は不安になる。


話は・・・ 4年前の2008年。

リナの新しいピアノ講師、そして彼氏となるヒロ・ハーグリーブス。


リナの父親・魁斗かいとは、覆面をつけた男らに誘拐されてしまう。そしてマスターと呼ばれる男に、自らが開発したソフトのアルゴリズムを要求された。返事に躊躇を見せる魁斗に、マスターはリナを殺すと宣言。


リナは2度にわたるテロリストの襲撃を受けるが、ヒロが守り通した。


イギリスから帰国したリナの母親・瞳は・・・誘拐犯を演じるヒロからの電話を受け、身代金を用意した。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


   第36話  レインボーブリッジ(2008年)


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2008年12月10日(水)、午前7時31分。羽鳥邸。


瞳は震える手で受話器を握りしめ・・・  


落ち着いて声を出す。


瞳「用意したわ。5000万・・・」


こみ上げる怒りを抑え、受話器の向こうのヒロに声をかけた。


ヒロ「今から3つの指示を出す。順序よく指示通り動くんだ。

    1つ。5000万を2つに分け、別々のカバンに入れろ」


瞳「え?」


ヒロは瞳を無視して、次の指示を出す。


ヒロ「2つ。午後9時半までに、レインボーブリッジ中央まで来い。

    プロムナード(遊歩道)サウスルートを使って、1人で来るんだ」


瞳「ちょ、ちょっと待って・・・」


電話の向こうのヒロは、早口で説明を続けた。


ヒロ「3つ。そこに携帯電話を置いてあるから、それを受け取るんだ。

    来たらすぐわかる。以上だ」


瞳「ま、待って。早すぎてわからないわ。もう一度さ・・・」


瞳の言葉をヒロがさえぎる。


ヒロ「この会話は録音されているんだろう? 聞き返せばいい。

    くれぐれも一人で行動する事だ。家族と再会したければ」


そして電話は切れた。横にいた藤岡は首を横に振り、前回同様逆探知が失敗した事を伝える。



邸内に沈黙の時が流れた。


しばらくして、指揮を執る後藤が口を開く。


後藤「カバンを2つ用意。それぞれに追跡装置を取り付ける。


    SAT、および機動隊をレインボーブリッジ周辺に配置。

    また、覆面捜査官を展望台の内部で巡回させる」


藤岡「東京湾からの逃走ルートも抑えるべきです。

    湾岸警備隊や、JSSへは俺が連絡します」


※JSS 

 Japan Security Service(警備保障事業)


後藤「相手は、爆破行為も辞さないテロリストだ。

    警視庁航空隊にも応援を要請する」


藤岡は驚いた顔を見せた。


藤岡「警視庁ヘリまでですか?」


後藤は険しい表情を見せる。


後藤「あぁ。この事件は、警察の威信もかかっている。

    最優先は、誘拐された羽鳥魁斗・リナの安全。次に犯人の確保!


    わかったら気を引き締めて動け!」


後藤は両手を大げさにバチンと叩いて、周りの人間に気合いを入れた。その合図で現場にいた連中は、すぐにレインボーブリッジに向けて動き出した。



・・・ ・・・。


午後9時2分。お台場周辺。


芝浦ふ頭、および台場周辺に多くのパトカーが止まっていた。藤岡と後藤は、芝浦ふ頭側に位置し、これからの事を綿密に打ち合わせている。


レインボーブリッジでは多くの車が往来しているため、出来る事なら封鎖をしたかった・・・ しかし、警察のその要請は通らなかった。


藤岡「遊歩道は今の時期、午後6時には閉まっています。

    港湾局に事情を説明して、今は通れるようにしました。


    10名の覆面捜査官を、展望台内部に配置。

    展望台スタッフに紛して、巡回しています」


指揮をる後藤はインカムを通じて、各場所に配置された数名のリーダーに指示を入れる。


後藤「今から5分後、羽鳥瞳がレインボーブリッジ遊歩道に入る。

    台場側もふ頭側も、入り口周辺に警戒の目を光らせろ!


    何かあれば、逐一連絡を入れる事。わかったな!」


背後のパトカーの後部座席から、羽鳥瞳が降りてきた。藤岡は2つのリュックを瞳に見せる。


藤岡「どちらも約2.5kgあります。

    女性には文字通り重荷になると思い・・・


    カバンではなく、肩に担げるリュック2つにしました。

    2500万円ずつ入れてあります」


藤岡はリュックを自らの肩にかけ、瞳を誘導した。


藤岡「こちらです」


藤岡と瞳は、芝浦アンカレイジという建物の中に入り、サウスルート用のエレベーターに2人で乗る。エレベーターの中で藤岡は、これからの事を瞳に説明した。


藤岡「どちらのリュックにも、GPSが付けられています。

    防水ですから、例え東京湾に落ちても追跡出来ます」


瞳は無言で頷く。


藤岡「レインボーブリッジの両出入り口だけでなく・・・

    展望台付近にも、警備の者を配置しています。


    東京湾には、湾岸警備隊も巡回していますので」


エレベーターはゆっくりと・・・7階を目指し、上っていった。


藤岡「それと先ほども説明しましたが今一度。

    あなたの胸元につけたボタン」


藤岡は、瞳の胸ボタンの1つを指さす。


藤岡「小さなビデオカメラが内蔵されています。

    こちらで映像と音声をチェックしています」


瞳は、その胸ボタンを軽く握った。


藤岡「万一あなたが危険な状況になれば、我々がすぐに踏み込みます。

    そして右耳につけたイヤホン・・・」


藤岡の指は、瞳の胸ボタンから瞳の右耳へと移動する。


藤岡「それを通して、こちらから指示を出します。

    相手は羽鳥邸を爆破した相手。


    くれぐれも単独行動は避けて下さい」


説明を聞いた瞳は深くうなずいた。


エレベータは7階で静かに止まった。外に出た2人を、12月の東京の風が襲う。左手にはすぐ、レインボーブリッジを通過する車が走っていた。


藤岡は瞳に2つのリュックを渡す。


瞳「・・・ ・・・」


瞳はそれを、左右の肩にかけた。ズシリとお金の重みが伝わってくる。


藤岡「俺はここまでです。

    ハーグリーブスの指示では、ここから1人で行けと・・・」


瞳は小さく藤岡に礼をした。


瞳「ここまで、ありがとうございます。

   必ず夫と娘を・・・助け出して下さい」


藤岡「全力を尽くします」


それを聞いた瞳は、藤岡に背を向け・・・

 

左手すぐに車が走る中、2つのリュックを背負ってゆっくり歩いて行った。



本来この時間は、閉鎖されているはずのプロムナード(遊歩道)。その横幅は2m程度だ。すぐ横では大きな音をたて、車が何台も走り去ってゆく。


瞳は冷たい風の中、夫と娘のため前へと進んでいった。瞳の背中を見ながら藤岡は


藤岡「羽鳥瞳がプロムナードを台場に向け、いま歩き出しました」


インカムを通じて後藤に連絡する。


後藤「了解。そのまま、そこで待機せよ。

    不審な車や人物がいないか、周りを確認してくれ」


藤岡「わかってます」


藤岡は瞳の背中を見つめながら、持ってきたノートパソコンを開いた。


瞳の胸ボタンに内蔵されたカメラ。その音声と映像、さらにはリュックに取り付けられたGPSDATAを、パソコンのディスプレイに表示させる。


(藤岡「この状況の中で・・・ どう動く? ハーグリーブス」)


レインボーブリッジ・・・そのプロムナード(遊歩道)は全長1.7km。約5kgの重荷を背負う瞳なら、40分もあれば渡りきるだろう。


瞳がプロムードを歩き始めて15分が過ぎた頃。


瞳「 ・・・ ? 」


遊歩道の真ん中に、茶色の紙袋が置かれているのを見つけた。


風でとばぬよう、レンガブロックで抑えられている。明らかに不自然に置かれたその紙袋から、突然音が聞こえた。


リリリリリーン・・・  リリリリリーン・・・


ヒロが指示した「携帯を受け取れ」だと確信する。


瞳は紙袋の中を恐る恐る手にし、中を開くと・・・携帯電話があった。


瞳「・・・ ・・・」


それをゆっくり取り出し手に取ると、着信ボタンを押し左耳にあてる。


瞳「もしもし・・・」


電話の向こうから、予想通りハーグリーブスの声が聞こえてきた。


ヒロ「よく来てくれた」


瞳にとって忘れる事など出来ない、憎むべき声だ。


瞳「娘は!? 夫は!?」


ヒロ「落ち着け。携帯を手にしたまま歩き続けろ」


瞳「・・・ ・・・」


携帯を握る手が震える瞳。その震えは、けして寒さのせいではない。こみ上げるいろいろな思いを押さえ、指示された通り再び歩き続けた。


ボタンのカメラを通じ、瞳が携帯を手にした様子を見ていた藤岡。


藤岡「今、羽鳥瞳が携帯を手にしました。

    相手の声は聞き取れませんが、何かを指示したようです」


後藤「了解。動きがあればすぐ伝えろ」


藤岡は後藤に連絡した後、イヤホンを通して瞳に指示を出す。


藤岡「携帯の音量を最大にして、右耳にあててください。

    音声がこちら側にも聞き取れるように」


瞳は指示された通り、携帯の音量を上げ、さりげなく携帯を右手に持ちかえた。携帯電話を受け取ってから40mほど歩いたところで、電話の向こうから声が聞こえる。


ヒロ「そこで止まれ」


(藤岡「・・・ ・・・」)


ヒロの声をイヤホン越しに確認した藤岡は、違和感を感じた。瞳はヒロに言われた通り、立ち止まる。


ヒロ「そのままリュックを置くんだ。左側にな」


言われた通り、瞳は2つのリュックを左側の足下に置いた。


(藤岡「間違いない!」)


このヒロの指示を聞いた藤岡が、すぐに後藤に連絡する。


藤岡「源さん! 容疑者のハーグリーブスは、近くにいます!」


後藤「なに!?」


藤岡「確かヤツは・・・

    羽鳥邸に連絡した時、カバンにお金を入れろと指示しました。


    しかし今はリュックと言ってます。

    近くで直接見ながら指示を出しているんですよ!」


後藤「そうか・・・」


藤岡「それに今、羽鳥瞳に的確な指示を出しています。

    間違いなく、彼女を見ています!」


後藤「わかった!」


後藤はすぐに現場の連中に、ヒロの捜索を指示した。


ヒロ「よし。そのまま真っ直ぐ歩いて、反対側の出口まで行け。

   携帯は持っていろ。


   折り返しその携帯に連絡し、家族のいる場所を伝える」


瞳「わ、わかったわ・・・。必ず家族を返してよ!!」


ヒロ「約束する!」


力強いセリフの後、携帯は切れた。瞳は携帯を強く握りしめ、リュックを置き去りにして再び歩き出す。



レインボーブリッジ周辺では、多くの警察官や機動隊が容疑者の捜索に全力を注いでいる。


合計5000万円の入った2つのリュック。瞳が置いた位置から、動きを見せる事はない。


リリリリリーン・・・  リリリリリーン・・・


瞳が出口に辿り着く直前、持っていた携帯電話が鳴った。すぐに電話に出る。


瞳「もしもし!?」


電話の向こうから・・・


リナ「ママ! 私!」


長女の声が聞こえてきた。


瞳「どこ!? 今、どこにいるの!?」


リナ「今、パパの会社にいるの。私は大丈夫。

    井上さんと安田さんも側にいるし、会社の人も大勢いる」


瞳「お、お父さんも側に?」


リナ「ううん・・・ パパは別の場所にいるみたい。

    でも、もうすぐ顔を見せるはず・・・」


瞳「・・・ ・・・」


リナが無事という事を聞いて、安心はしたが・・・まだ夫の安否が確認出来ていない以上、素直に喜べない。



ちょうどその頃、後藤に2つの連絡が入る。緊急用番号で携帯電話が鳴ったので、後藤はすぐに電話に出た。


後藤「後藤だ! どうした!?」


電話の向こうから、驚くべき情報が入る。と、同時にインカムを通じて藤岡からも連絡が入った。


藤岡「源さん! リュックに動きが!!」


藤岡のパソコン・・・そのディスプレイに表示されていた、リュックのGPSから発信される信号。突然その信号が、急な動きを見せていた。 


羽鳥瞳が通った道を、逆走するような動きをしている。すなわちリュックは、藤岡の位置に近づいていた。


藤岡「リュックがかなりのスピードで、レインボーブリッジを・・・」


声を出す藤岡の目の前を、黒いバイクで通り過ぎた。その運転手、黒いフルフェイスメットの男が、一瞬藤岡を見たような気がした。


藤岡「!?」


バイク男の左肩に・・・あのリュックがかけられていたのを、藤岡は見逃さない。


藤岡「バ、バイクです!

    黒ずくめの男がリュックを左肩にかけ、目の前を通り過ぎました!


    ヘルメットで、顔は確認出来ませんが・・・

    芝浦ふ頭に向けて走っていきました! すぐ追跡を!」


後藤「何だと!? わかった!」


藤岡は今一度パソコンのディスプレイを見る。


バイク男のリュック信号は、すでにレインボーブリッジを出て芝浦ふ頭を移動しているが・・・


もう1つの信号は、まだレインボーブリッジ内。しかし、この信号もある程度のスピードで移動している。


(藤岡「な、何故!? バイク男以外にも、誰かいるのか!?」)


藤岡から情報を受け取った後藤は、すぐに現場に指示を与えた。


後藤「ふ頭方面にいる者は、バイクの男を追跡せよ!

    フルフェイスメットで黒ずくめ。左肩にリュックを担いでいる!」


連絡を受け取った連中は、すぐに動き出す。


後藤「台場側にいる連中の半分は、羽鳥瞳の警護に! 

    残りは都立病院へ向かえ!」


(藤岡「都立病院?」)


後藤の指示を不思議に思った藤岡は、すぐにその意外な理由を知る。


後藤「つい今しがた連絡が入った。都立病院に・・・



     羽鳥魁斗がいる!」


藤岡「何だと!?」



             (第37話へ続く)

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次回予告


事態は一気に動き出した。

レインボーブリッジから、突如動きを見せる2つのリュック。


羽鳥コーポレーションにいるリナ、そして都立病院にいる羽鳥魁斗。


マスターと呼ばれる男から、3本のタバコを得た魁斗は・・・そのIQ180の頭脳で、監禁された場所からの脱出を試みた。


次回 「 第37話  命を賭けた脱出 (2008年) 」

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