第37話 命を賭けた脱出 (2008年)
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慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン2
「アマデウスの謎」
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前回までのあらすじ
2012年、女子大生リナの妹が誘拐された。
霊能力を持つ1つ下の後輩・慎吾を連れて実家へと戻るリナ。誘拐犯から1週間以内に1億円を用意しろと要求され、羽鳥邸にいた面々は不安になる。
話は・・・ 4年前の2008年。
リナの新しいピアノ講師、そして彼氏となるヒロ・ハーグリーブス。
リナの父親・魁斗は、覆面をつけたテロリストらに誘拐されてしまう。
リナも2度にわたるテロリストの襲撃を受けるが、ヒロが守り通した。
イギリスから帰国したリナの母親・瞳。レインボーブリッジで身代金の引き渡しをするが・・・
リナの無事を瞳が確認した直後、羽鳥魁斗が都立病院にいると後藤に連絡が入った。
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第37話 命を賭けた脱出 (2008年)
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2008年12月10日(水)、午後6時4分。都内某所。
羽鳥瞳がレインボーブリッジに到着する3時間前・・・。
羽鳥魁斗は3本のタバコを見ていた。
魁斗「・・・ ・・・」
部屋の中には、トイレと簡易ベッドがあるだけ・・・まるで牢屋だ。唯一の出入り口である重い扉は、しっかりと施錠されている。さらに扉の外では、武装した屈強な男が見張っていた。
誘拐、監禁されてから、ずっとここから出る方法を考えていた魁斗。辿り着いた答えが・・・
タバコだった。
マスターと呼ばれる男との会話を、IQ180の頭脳は全て記憶している。その会話もここを出るために重要な情報だ。
(魁斗「おそらくこの作戦なら・・・
ここを出られる。しかし・・・」)
魁斗はこの作戦の危険性を、誰よりもよく知っていた。何故なら・・・
(魁斗「失敗すれば・・・、死ぬ・・・」)
だが、娘リナの命もかかっている。迷う暇はないと判断した魁斗は、作戦を実行に移す事にした。
トイレまで歩いて行き、トイレットペーパーを50cm程度引きちぎる。それを床に置くと、タバコ1本をむしって中の葉を取り出した。
魁斗「・・・ ・・・」
爪の先でタバコの葉を、トイレットペーパーの上に押しつけていった。
・・・ ・・・。
30分後。
トイレットペーパーを確認した魁斗は、それを丁寧に折りたたみ、ズボンのポケットに入れる。
(魁斗「まず1つ・・・」)
次にコップを手元に持ってきた。監禁されてはいるものの、温かい食事が1日に2回は運ばれてくるし、水も与えられる。
マスターとの会話からしても、彼が魁斗の体に気を遣っているのは明白である。
魁斗「・・・ ・・・」
食事の際に与えられた飲み水を、魁斗は飲まずにとっておいた。水が入ったコップを見て、残り2本のタバコを手にする。
2本とも葉をむしり、コップの中へと入れ、指でかき混ぜた。
魁斗「・・・ ・・・」
茶色に変色した水を見ながら、しばらく沈黙する魁斗。
魁斗「リナ・・・」
娘の名を一言口にした直後、意を決してコップの水を一気に飲み干した。
・・・ ・・・。
魁斗を監禁している部屋から、5m程離れた小さな部屋。見張りの男が1人、タバコを吸いながら暇そうにテレビを見ていた。
ドンドンドン!
背後から音が聞こえた。振り返ると、魁斗を押し込めた部屋からだ。
ドンドンドンドンドン!
誘拐してから今まで、魁斗が部屋の扉を叩いた事は1度も無い。不審に思いながらも、男は音を無視して、再びテレビに視線を移す。
ドドン!! ドン! ドンドン! ドドドドン!!
扉を叩く音が大きくなってきた。部屋にある物を扉に投げつけているようだ。男はしばらくテレビを見続けていたが、集中できない。
男「ちっ!」
舌打ちをした男は銃を握り、魁斗を監禁している部屋へと足を運んだ。扉の前に立つと、先ほどまで鳴り響いていた音が、急に静かになる。
マスターの指示通り覆面をかぶったあと、銃の安全装置をはずした。そして、静かに扉の鍵穴に鍵を差し込む。
男「・・・ ・・・」
銃口を部屋の中に向け、警戒しながらゆっくりと扉を開いた。扉を開くと・・・
男「!?」
魁斗が倒れていた。
顔からは大量の脂汗を流し、両手でお腹を抑えて体を震わせている。よく見ると、口から泡を吹いている。
男「な・・・」
男は慌てて魁斗の肩をつかんで、体を起こす。
男「どうした!? 何があった!?」
白目をむいてる魁斗の頬を、手の平でパチパチと叩いた。魁斗は息をきらしながら声を出す。
魁斗「わ、私はあと2時間で死に至る・・・」
男「何だと!?」
魁斗は手をガタガタふるわせながら、男の襟首を掴んで声を振り絞った。
魁斗「びょ、病院へ・・・ 私が死ねば・・・
マスターの計画も・・・ 水の泡・・・ 」
男「な・・・」
男はしばらく呆然とした。事態を理解すると、頭をかきむしり出す。時折魁斗を見ながら、どうしていいか分からないという表情を浮かべた。
魁斗「・・・ ・・・」
自分を死なせるのは、マズイと感じている・・・薄れる意識の中、魁斗は男の表情から、その心理を読み取った。
魁斗の計画はこうだ。
時計も何もない部屋なれど、わずかに体に伝わる振動があった。
それを地下鉄の振動だと特定し、おおまかな時間を割り出した。さらにマスターと呼ばれる男が、特定の時間しかこの建物に現れない事を突きとめた。
脱出を試みるなら、マスターがいない時だ。
通常、タバコを直接食べると成人男性の場合、2~3本が致死量と言われる。タバコの種類や個人差はあれど、2本も食べると生命の危機にさらされる事は間違いない。
特にタバコの葉を水に溶かして飲めば、直接食べるよりも急激に体内にニコチンが摂取されてしまう。つまりそれだけ早く死に近づくわけだ。
これまでのマスターとの会話から、
(魁斗「彼が、私を死なせるような事は無い・・・」)
と確信した。マスターの言っていた「プロジェクト・ノア」と呼ばれる計画に、魁斗の開発したアルゴリズムが必要不可欠のはず。
だからマスターは、直接自分でなく家族の命を狙うと脅してきた。
ならば・・・
今、ここで自分が死ぬ事は・・・ マスターの意に反するはず。自分が死ぬ事は、計画も諦める事になる。
あえて自らの命を危機にさらし・・・病院へ運ばせる。
それが魁斗の描いた・・・命をかけた脱出作戦だった。
魁斗「ぐ・・・ ぐぐ・・・」
経験した事のない猛烈な腹痛に襲われながら、魁斗はちらりと見張りの男の様子を見た。さっきからずっと頭をかきむしっているだけだ。
どうやら、マスターとは連絡が取れないらしい。薄れる意識で魁斗は状況を確認し、男に声をかけた。
魁斗「チ、チアノーゼ症状が出始めている。
い、1時間・・・持たないかも・・・」
あえて専門用語を言い、男を混乱させる。
魁斗「私が死ねば・・・ マスターはどうなる・・・?」
意識が飛びそうな状態で、魁斗は声を振り絞った。
魁斗にとっては・・・
イチかバチかの賭けでもある。もしマスターが魁斗の意に反し、あっさり見殺しにするようであれば・・・
犬死にするだけだ。
そして家族の命も、どうなるかわからない。
魁斗「私が死んでも・・・ いいのか・・・?」
男「くそー!!」
男は魁斗を肩に乗せると、早足で歩き出した。長い階段を登り、外に出る。魁斗は時々視界に入る景色を見るが、どこだかわからない。
どこかの駐車場らしき場所に足を運んだ男は、数台ある車の中から1台の車を選び、キーレスエントリーで鍵を開けた。
車の助手席に魁斗を押し込み、勢いよく車を発車させる。
魁斗「・・・ ・・・」
車に押し込まれたのはわかるが、目がかすれてナンバーを読み取る事は出来なかった魁斗。
運転手の男は覆面を取り、携帯電話をかけた。
男「航空自衛隊、目黒基地の前で男が1人倒れている。
救急車を至急頼む。詳しい場所は・・・」
(魁斗「目黒基地・・・目黒か恵比寿、代官山辺り・・・?」)
ひどい腹痛と震えに耐えながらも、携帯電話の会話や男の顔を必死に覚える。しばらくすると魁斗は、助手席から外へ放り出された。
細い路地で人通りがいない所だ。風が冷たく、さらに体温が下がっていく。しばらくすると、救急車のサイレンが聞こえてきた。
意識を失いそうになりながらも、どこからサイレンが聞こえてくるのかを聞きとろうとする。そして見張りの男が119番してから、救急車が辿りつくまでの時間も必死で計算していた。
魁斗を放り出した男は、すぐにまた携帯電話をかける。
男「緊急事態が発生した! メンバーを集めろ! すぐにだ!
マスターが来るまでに、何とかせねばならん!」
・・・ ・・・。
午後7時半。
魁斗は都立病院に救急搬送された。激しく揺れる担架の上で、魁斗はこの世の物とは思えない腹痛に耐え続けている。
医者「あなたは急性ニコチン中毒です。
今から薬物投与で、胃の中の物を吐き出させます!」
白衣の男が何かを説明しているが、頭に入らない。
魁斗「はぁ・・・ はぁ・・・」
しかし何かを思い出したように、ズボンのポケットに手を入れた。そして最後の力を振り絞り、目の前の男に声をかける。
魁斗「こ、これを・・・」
魁斗は震える手で、自分に声をかけた男に何かを手渡した。
トイレットペーパーの切れ端だ。
それを受け取った医者は、魁斗に笑顔を見せる。その笑顔に安心したのか、直後魁斗は意識を失った。
しかし医者の笑顔は・・・錯乱状態の患者に安心を与えるためのもの。
切れ端をすぐにポケットにしまい、ICU(集中治療室)に入っていった。
・・・ ・・・。
午後9時10分。お台場海浜公園。
双眼鏡を覗く、全身黒ずくめのヒロの姿があった。目立たないよう、木を背にして体を隠している。
双眼鏡の視線の先には、羽鳥瞳がリュックを背負ってレインボーブリッジを歩く姿が見えた。そしてレインボーブリッジ周辺には、多くのパトカーが止まっているのも見える。
(ヒロ「東京湾にも、うじゃうじゃいるとはね・・・」)
東京湾を見ると、湾岸警備隊のボートが巡回し、沿岸では機動隊やSAT隊員が待機しているのが見えた。
ヒロ「・・・ ・・・」
再びレインボーブリッジに視線を移し、瞳がポイントに来るまで静かに待つ。
すでにリナは羽鳥コーポレーションに移動させ、羽鳥家警備主任の井上、およびチームを組んでいる安田が側についているはずだ。
瞳がポイントに入ったのを確認すると、ヒロは携帯電話をかけた。数回の呼び鈴の後、電話が繋がる。
ヒロ「よく来てくれた」
瞳「娘は!? 夫は!?」
電話の相手は、双眼鏡の視線の先・・・羽鳥瞳だ。
ヒロ「落ち着け。携帯を手にしたまま歩き続けろ」
瞳「・・・ ・・・」
しばらく瞳を歩かせたヒロは、ちょうどレインボーブリッジの中央辺りでリュックを置くように指示した。
ヒロ「よし。そのまま真っ直ぐ歩いて、反対側の出口まで行け。
携帯はそのまま持っていろ。
折り返し連絡して、家族のいる場所を伝える」
瞳「わ、わかった・・・。必ず家族を返してよ!!」
ヒロ「約束する!」
電話を切ったヒロは、羽鳥コーポレーションにいる安田にメールする。
【10分後、リナに電話をかけさせろ。
お前からもらったプリペイド携帯にだ。羽鳥瞳が電話に出る】
メールを送信した後、ヒロは公園を出た。周りを警戒しつつ、路上の片隅に止めておいたバイクにまたがる。
ヒロ「さて・・・」
フルフェイスメットをかぶると、ヒロは急発進をしてレインボーブリッジへ向かった。
・・・ ・・・。
その頃、魁斗は病院のベッドの上にいた。急性ニコチン中毒と診断され、投薬により嘔吐を誘発。そして胃の洗浄処置が施された。
ゆっくりと目を覚ました魁斗は、右腕に点滴の注射針が刺されているのに気づく。死ぬほどの痛みを与え続けた腹痛・・・痛みはまだ残っているものの、ピーク時の痛みに比べれば、かなりマシだ。
とはいえ体中がムカムカする感覚に襲われ、まだ意識も朦朧としている。万全と言うにはほど遠い。
ふとポケットに手を入れた。
魁斗「・・・ ・・・」
あのトイレットペーパーはない。記憶にはないが、あの切れ端を誰かに渡したようだ。
ここまでは魁斗の作戦通り。
(魁斗「後は・・・切れ端を受け取った相手が・・・
行動を起こしてくれれば・・・」)
そう思いながら魁斗は、再び眠りに就いた。
・・・ ・・・。
魁斗を治療したドクターは、魁斗の治療後も他の救急患者の処置におわれていた。ちょうど仕事が一山越え、自分のデスクに戻ってくる。
医者「ふ~・・・ ん?」
大きく深呼吸をすると、ポケットからはみ出しているトイレットペーパーの切れ端に気づいた。
(医者「これは確か・・・ 急性ニコチンの患者の・・・」)
ただのゴミと思い、そのままゴミ箱に捨てようとする。
(医者「ん?」)
何かに気づいた。
(医者「絵・・・?」)
絵のようなものが描かれていると気づいた医者は、それを拡げてみた。切れ端に書かれいたのは絵でなく、茶色の文字だった。
「ワタシハ、ハドリカイト。ユウカイサレ、ヌケダシタ。
コレヲミタラ、スグニ110バンセヨ」
ペンや鉛筆などない部屋で、魁斗がタバコの葉っぱで書いたメッセージだ。
まれに、酔っぱらいがタバコを誤飲して救急搬送される時がある。
魁斗もそうだろうと、医者は思っていた・・・
そして手渡された切れ端も、酔っぱらいのいたずらか何かだろうと・・・。
医者「・・・ ・・・」
万が一の事を考え、医者は電話を手にした。
医者「あ、すいません。警察ですか?
都立病院の者ですが・・・ 患者の中に・・・」
・・・ ・・・。
バイクを運転するヒロは、台場側からレインボーブリッジに向かっていた。警察の使用している電波は傍受済みで、彼等のやりとりはイヤホンを通して全て伝わってくる。
ヒロはちょうど軽トラックの真後ろを走るよう、スピードを調整してレインボーブリッジに入ってきた。
(ヒロ「もしここで正体がばれれば・・・」)
入り口を固める警官らによって、袋のネズミとなるだろう。
ヒロ「・・・ ・・・」
警戒しながらレインボーブリッジに入ると、すぐ左手に羽鳥瞳がいるのが見えた。ちょうどリナからの電話に出ているところだ。
ヒロはスピードを上げず、ゆっくりとレインボーブリッジ中央までバイクを走らせる。そして背中から縦に銀色の長い棒を取り出し、左手に持った。
(ヒロ「後はタイミング・・・」)
直接目でリュックを2つ確認したヒロ。道路とプロムナードの間には、低いガードレールがある。バイクをゆっくり走らせつつ、タイミングを見計らい、ヒロは1m程に伸ばした銀色の棒でリュックを狙った。
本来人の腕を通すはずのリュックの輪っかに、銀色の棒が突き刺さる。ガードレールの上から、2つのリュックを同時につり上げたヒロ。自動的に2つのリュックは、ヒロの左腕にするすると流れてきた。
ヒロは、銀棒をそのまま背中にしまい込む。
藤岡「源さん! リュックに動きが!!」
いち早く捜査官の藤岡が反応する。その声は電波を傍受しているヒロの耳にも届いていた。
ヒロ「・・・ ・・・」
ヒロはリュックの1つを手にすると、前を走る軽トラックの荷台に放り込んだ。そしてもう1つのリュックを肩にかけたまま、一気に加速してレインボーブリッジを渡りきる。
渡りきる直前・・・ メットの中からではあるが、ヒロと藤岡捜査官の目が合った。
藤岡「バ、バイクです!
黒ずくめの男がリュックを左肩にかけ、目の前を通り過ぎました!
ヘルメットで、顔は確認出来ませんが・・・
芝浦ふ頭に向けて走っていきました! すぐ追跡を!」
後藤「何だと!? わかった!」
藤岡はもう1つのリュックが、違うスピードで動いている事に違和感を覚える。
(藤岡「な、何故!? バイク男以外にも、誰かいるのか!?」)
この件と無関係の軽トラックに、リュック1つを押し込んだヒロ。追跡の攪乱が目的だ。
後藤「ふ頭方面にいる者はバイク男の追跡せよ!
フルフェイスメットで黒ずくめ。左肩にリュックを担いでいる!」
後藤の声を傍受したヒロが、さらにバイクのスピードを上げようとした時だった。
後藤「台場側にいる連中の半分は、羽鳥瞳の警護に!
残りは都立病院へ向かえ!」
(藤岡「都立病院?」)
(ヒロ「都立病院!?」)
ヒロも藤岡も、後藤の指示を不思議に思うが、すぐにその意外な理由を知る。
後藤「つい今しがた連絡が入った。都立病院に・・・
羽鳥魁斗がいる!」
藤岡「何だと!?」
ヒロ「何!?」
(第38話へ続く)
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次回予告
魁斗は作戦通り、監禁場所から抜け出す事に成功。しかし、体を動かすことはままならない。一方、覆面男らはチームを従え、病院周辺に待機。再び魁斗を奪う準備をしていた。
ヒロは、警察のしつこい追跡から逃れるため、バイクを走らせる。
魁斗さえ助け出しさえすれば・・・この事件は全て終結の時を迎える。
そう思い、追跡をかわしながらも都立病院に向かうが・・・
次回 「 第38話 魁斗救出(2008年) 」
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