第35話 Unknown(2008年)
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慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン2
「アマデウスの謎」
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前回までのあらすじ
2012年、女子大生リナの妹が誘拐された。
霊能力を持つ1つ下の後輩・慎吾を連れて実家へと戻るリナ。誘拐犯から1週間以内に1億円を用意しろと要求され、羽鳥邸にいた面々は不安になる。
話は・・・ 4年前の2008年。
リナの新しいピアノ講師、そして彼氏となるヒロ・ハーグリーブス。
リナの父親・魁斗は、覆面をつけた男らに誘拐されてしまう。そしてマスターと呼ばれる男に、自らが開発したソフトのアルゴリズムを要求された。返事に躊躇を見せる魁斗に、マスターはリナを殺すと宣言。
リナは2度にわたるテロリストの襲撃を受けるが、ヒロが守り通した。
イギリスから帰国したリナの母親・瞳は・・・誘拐犯の電話を受け取り、娘リナの声を聞いた。
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第35話 Unknown(2008年)
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2008年12月9日(火)、午前7時33分。羽鳥邸。
瞳「リナ!!」
受話器の向こうから、聞き間違えるはずのない声・・・リナの声が聞こえてきた。
瞳「リナ!! 今どこなの!? すぐに助けてあげるからね!」
リナ「わ、私は大丈夫。それよりパパ・・・」
途中でリナの声が途絶える。
男「そこまでだ。金さえ渡せば、2人とも無事に返す」
瞳「待って! 夫の声も聞かせてちょうだい!」
男「36時間後にまた連絡する」
そういうと、電話は一方的に切れた。
瞳「待って! 夫の声を!!」
ツーーー・・・・
受話器の向こうからは、空しい機械音だけが鳴り響く。
瞳は受話器を握りしめたまま、泣き出した。
藤岡「・・・ ・・・」
横にいた藤岡は、逆探知機器を操作しながら首を横に振る。電話の男・・・すなわちハーグリーブスは、逆探知を阻止する細工を電話に施していた。
藤岡は、録音した電話のやりとりを再び聞き返す。
藤岡「ハーグリーブスで、間違いありません」
藤岡はファイルを取り出すと、そこにあったヒロの写真を瞳に見せる。
瞳「・・・ ・・・」
瞳はハンカチを顔にあて、泣きながらもヒロの写真を凝視した。
瞳「この男が・・・ 夫と娘を・・・」
少しずつ・・・
少しずつ、瞳はハーグリーブスの名前に対して、嫌悪感を持つようになる。
瞳「ハーグリーブス・・・ 絶対に・・・ 絶対に許せない・・・」
その感情はやがて憎悪となり、瞳の心の中を巣くっていった。
・・・ ・・・。
午前7時35分。都内、とあるビジネスホテルの一室。
ヒロ「ふ~」
携帯電話を切ったヒロは、大きく一息ついた。
リナ「あれで・・・ よかったのかしら・・・」
横にいたリナが、不安そうに声をかける。
ヒロ「あぁ・・・ リナの母親には申し訳ないが・・・
ミスターカイトを救うためだ」
リナ「でも・・・ 出来ればママを・・・安心させてあげたい・・・」
暗い顔を見せるリナの頭を、ヒロは優しくなでた。
ヒロ「すまない。ミスターカイトを誘拐したヤツは・・・
俺を誘拐犯に仕立てようとしている」
前日ヒロに電話してきた男・・・。黒幕であろうその男の指示した通り、ヒロは羽鳥瞳に電話をかけた。
瞳や警察からしたら、ヒロ本人が誘拐犯である事を疑う余地はない。
ヒロ「だが、そこにスキがある。
36時間後に、現金受け渡しをする事になっているが・・・
そこで、ミスターカイトの居所を掴んでみせる」
全幅の信頼をよせているという目線で、リナは静かに頷く。
ふとヒロの携帯がバイブした。
ヒロ「失礼」
着信を確認したヒロはすぐに電話をとり、バスルームへと走っていく。その後ろ姿を、リナは不安そうに見つめていた。
ヒロ「俺だ」
電話の向こうから、安田の声が聞こえてくる。
安田「羽鳥邸に入る事は出来なかったが、1つ情報を掴んだ。
【Unknown】(アンノウン)という組織は知っているか?」
ヒロ「噂でなら・・・
本当にあるかどうか・・・それすらわからない秘密組織だろ?」
安田「あぁ。
殺された珍が、PLA特殊部隊から姿を消す直前・・・
ある組織と、コンタクトを取っている。
イタリアの【P2】という組織だ」
ヒロ「【P2】って・・・
Propaganda-Dueの事か?」
安田「そうだ。【P2】の事は・・・説明不要だな?」
P2・・・プロパガンダ・ドュエ。
イタリアにおけるフリーメイソン支部の1つである。いや・・・1つであった。
元ファシスト党員だったジェッリという男が、1971年【P2】のグランドマスター(代表)になる。彼はこの組織を、犯罪的な秘密結社に仕立てあげていった。
南アメリカにおけるミサイルや戦闘機の売買に携わり、銀行家と結託して右翼勢力やマフィアの闇金を「使える」金に替える、いわゆるマネーロンダリング(資金洗浄)にも関わっていた。
また1978年9月のヴァチカン法王暗殺事件や、1980年のボローニャ駅爆弾テロ事件などにも関与していると言われる。
P2のメンバーで、マフィアの金を扱っていた銀行家シンドーナ。彼は金融破綻を起こして、アメリカに逃亡するも、ニューヨークで逮捕された。
これが発端となり、P2に捜査のメスが入る事になる。
ジェッリの別荘捜索の際、自筆のP2会員名簿が出てきた。そこには・・・法務大臣を含む現職のイタリア閣僚3名を筆頭に、官庁や軍のトップ、警察や諜報機関などあらゆる組織のトップの名前が、実に962名も連なっていた。
俗に言う「P2事件」である。日本のリクルート事件よりも大規模な上、武器売買、法王暗殺、爆破テロなど、多くの事件に関与されていたとされる【P2】は、当時のイタリアに大きな衝撃を与えた。
後のイタリア首相、ベルルスコーニ。彼の名が名簿にあった事は、有名な話である。
フリーメイソン委員会は1981年10月31日、フリーメイソン・ロッジ(支部)の【P2】を正式に破門。グランドマスターのジェッリは、極右テロに対する資金的援助の容疑で逮捕された。
しかし彼は、後にマフィアの助けを得て脱獄。2003年、【P2】再生プランを発表するも、未だその組織が表だって出てくる事はない。
ヒロ「あぁ・・・【P2】の事はよく知っているが・・・」
安田「【Unknown】は、【P2】のあるメンバーが・・・
秘密裏に組織したものらしい」
ヒロ「なんだと!? じゃぁ、【Unknown】ってのは・・・
【P2】の後継的な組織って事か?」
安田「そう考えるのが妥当だろう」
ヒロ「待て待て。情報源は確かか?」
安田「あぁ。CIA絡みの情報さ」
ヒロ「CIAか。確かに【P2】は・・・
CIAやKGBなども関わりがあったと言われているが・・・」
安田「出所は確かだ。そしてもう1つ、有力な情報がある」
ヒロ「何だ?」
安田「ジェッリは、いわゆる【P2】の表の顔として活躍していたが・・・
裏で【P2】を操っていた人物も存在している。
その裏の人物が【Unknown】を立ち上げたらしい。
現在ごく少数のメンバーで、活動している所まで突き止めた」
ヒロ「裏の人物?」
安田「あぁ。今、あらゆる情報を整理して、その人物を突き止めている。
今の所はまだ・・・『Unknown』(知られざる者)さ。
あんたの携帯に、今までの事は詳細な資料として送ってある。
目を通してくれ」
ヒロ「そうか。わかった、助かるよ。
その情報を元に、SISでも探りを入れてもらうとしよう」
今までヒロは、羽鳥魁斗の開発したセキュリティソフトを狙ったテロ組織の情報を探っていたが・・・有力な情報は、ほとんど得られない状態だった。
リナが襲撃された時、直接テロリストの一味と戦った。諜報員、いわゆるスパイは、遭遇した出来事を詳細に覚えるよう訓練されている。
リナを危険な目に合わせたが、テロリストと接触した事は、相手を探る上で結果的には大きかった。
(ヒロ「確実に・・・確実に事件の核心に迫っている・・・」)
ヒロは事件解決に向け、確かな手応えを感じていた。
安田「お嬢様は無事だよな?」
ヒロ「あぁ、もちろん」
安田「後は社長だな・・・」
ヒロ「あぁ。ミスターカイトを守るのは、元々俺の仕事。任せてくれ。
そちらは相手の正体を、出来るだけ早く突きとめてくれ」
安田「わかった。じゃぁまた何かあれば連絡する」
そう言うと電話は切れた。ヒロはふ~っとため息をつき、バスルームを出る。
心配そうな表情を浮かべたリナが、扉の前に立っていた。
ヒロ「大丈夫。ミスターカイトを守るための情報だったよ」
ヒロは笑顔で声をかける。リナは無言でニコッと笑った。
・・・ ・・・。
12月10日(水)、午前0時半。都内某所。
男「久しぶりだな」
羽鳥魁斗は、マスターと呼ばれる男と3度目の面会をしていた。
数日ぶりに男と対面した魁斗は、驚いたように口を開く。
魁斗「いいのか・・・ 顔をさらして?」
過去2度の面会で、男は大きなマスクとサングラスをかけ、その素顔を知られないようにしていた。しかし今回は顔を覆う物はなく、その端正な顔立ちがはっきりとわかる。
男「まぁな。もうすぐこの件も片付く。
安心させるつもりはないが・・・先に言っておこう。
今の所、羽鳥家は全員無事だ」
魁斗が一番聞きたかった事を、男はすぐに教えた。それを聞いて魁斗は、ふ~っと、胸をなで下ろす。
男「あなたの妻も次女も帰国している。
次女は警察で保護され、妻は誘拐犯からの電話を待っている所だ。
そして長女リナは・・・
ボディガードが今なお、しっかり守り通しているよ」
男の表情を見る限り、嘘をついているとは思えない。
魁斗「何故、私を安心させる事を言う?」
素顔の男は軽く笑った。
男「ふふ。24時間後に、全てが終わる事になっているからさ」
魁斗「全てが終わるとは?」
男「あなたの雇ったハーグリーブス。
彼は武装した男達から、2度もリナを守り通した」
男は、魁斗にVサインを見せた。
男「そして今も・・・リナと一緒に身を隠している。
我々が手を出せぬようにな」
あえて情報をさらけ出す男に、魁斗は戸惑った表情を見せる。
男「おかげで・・・こちらも優秀な部下を失った」
魁斗「・・・ ・・・」
男「私にとって、殺人はゲームと同じ。相手が手強いほどやりがいがある。
意味がわかるかな?」
魁斗は無言で、男の目を見つめた。
男「3度目の正直か、2度ある事は3度あるか・・・
私の標的は羽鳥リナ、ただ1人。彼女を殺す」
魁斗は何か言いたげな表情を浮かべるが、歯を食いしばる。
男「ハーグリーブスは今、娘とあなたの誘拐容疑をかけられている。
そんな困難な状況で、リナを守り通せるか・・・楽しみだ」
小さく笑う男に魁斗が声をかけた。
魁斗「そんな話をするために、私をよんだのか?」
男「あぁ。あなたは今こう思っている。
きっとハーグリーブスなら、またリナを守ってくれる・・・とね」
魁斗「・・・ ・・・」
男「だが、次にあなたと会う時・・・
あなたは我々の側についてくれると確信している。
我々と共に、ノアの箱船を造ってくれるとね。話は以上だ」
しばらく男を見つめた魁斗は、軽く頷いた。
魁斗「・・・話はわかった。1ついいか?」
男「どうぞ」
魁斗「タバコが欲しい」
男「・・・ ・・・。
あなたがタバコを吸うという記録は・・・どこにもないが?」
魁斗「あの部屋には、本もなければテレビもない。
気を紛らわすものが欲しい」
魁斗を数秒見つめた後、男は静かに口を開いた。
男「いいだろう。ただし3本だけだ。
貴重なタバコだ。ゆっくり味わうんだな」
魁斗「しばらく寝られなかったからな。
タバコでも吸って、落ち着いて睡眠をとるとしよう」
魁斗の落ち着き払った態度に、多少不審な感じを覚えたが・・・男は小さく鼻で笑った後、手元のボタンを押した。
男「では・・・ 24時間後に」
部屋の外にいた覆面男が、いつものごとく魁斗を部屋の外へ連れ出していく。
魁斗「・・・ ・・・」
魁斗は無言で、静かに従った。
魁斗が部屋を出て行ったのを確認すると、男は携帯をかける。数回の着信音の後、携帯が繋がった。
男「やぁ、ミスターボンド。
早速、身代金受け取りの流れを説明しようか・・・」
・・・ ・・・。
魁斗は、いつもの狭い部屋へと押し込まれる。
しばらくすると、タバコ3本と100円ライターが魁斗の元へ届けられた。
魁斗「・・・ ・・・」
魁斗はそのタバコを手のひらにおいて、指で転がす。
そして・・・
このわずか3本のタバコで、ここから脱出するための計画を・・・
(魁斗「・・・ 行くしかない・・・」)
今一度、IQ180の頭脳で描いた。
・・・ ・・・。
12月10日(水)、午後7時半。羽鳥邸。
リリリリリーン・・・ リリリリリーン・・・
応接室で、電話が鳴り響いた。すでに電話の前で待機していた瞳は、ゴクリと唾を飲み込む。
リリリリリーン・・・ リリリリリーン・・・
そして、その場にいた警察官や捜査官、SAT全員・・・36時間ぶりに緊張が走った。
いつもは藤岡と後藤の2人の捜査官が、入れ替わりで羽鳥邸に待機しているが・・・ この日は2人とも瞳の側にいて、誘拐犯の連絡に備えていた。
藤岡は追跡不能を確信しているが、逆探知機器を作動させる。それを確認した後藤が瞳に合図を送った。
合図を受け取ると、瞳は静かに受話器をとる。
瞳「もし・・・もし?」
受話器の向こうから、憎むべき声が聞こえてきた。
ヒロ「金は用意できたか?」
(第36話へ続く)
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次回予告
誘拐犯を演じるヒロ。
身代金の受け渡し場所に、レインボーブリッジを指定した。
捜査官の後藤と藤岡は、すぐにレインボーブリッジ展望台に警察官を配備。さらに周辺には機動隊、SAT、JSSを配備させて万全の警備体制が整えられる。
※JSS
Japan Security Service(警備保障事業)
一方、魁斗は・・・ 意外な場所で、その姿を現した。
次回 「 第36話 レインボーブリッジ(2008年) 」
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