表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アマデウスの謎  作者: 伊吹 由
第2章 リナの過去
PR
35/147

第34話  神経衰弱 (2008年)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


  慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン2


       「アマデウスの謎」 


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

前回までのあらすじ


2012年、女子大生リナの妹が誘拐された。


霊能力を持つ1つ下の後輩・慎吾を連れて実家へと戻るリナ。誘拐犯から1週間以内に1億円を用意しろと要求され、羽鳥邸にいた面々は不安になる。


話は・・・ 4年前の2008年。

リナの新しいピアノ講師、そして彼氏となるヒロ・ハーグリーブス。


リナの父親・魁斗かいとは、覆面をつけた男らに誘拐されてしまう。そしてマスターと呼ばれる男に、自らが開発したソフトのアルゴリズムを要求された。返事に躊躇を見せる魁斗に、マスターはリナを殺すと宣言。


リナは2度にわたるテロリストの襲撃を受けるが、ヒロが守り通した。

一方イギリスからは、リナの母親・瞳と次女の雛子が帰国する。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


   第34話  神経衰弱 (2008年)


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

2008年12月8日(月)、午前10時5分。

都内のとあるネットカフェ。


ヒロ「Hello・・・」


携帯の向こうから、あの声が聞こえてきた。


男「久しぶりだな。ミスターボンド」


2日前の土曜日・・・ 爆破される前の羽鳥邸で聞いた声だ。


ヒロ「そろそろかけてくると思ったよ・・・」


男「ふふ、予想通りか。

   リナの携帯を破棄された以上、そちらにかけるしかあるまい」


ヒロ「 ・・・ ミスターカイトは無事か? 」


リナの話題をあえてそらす。


男「無事さ。もう一仕事終わるまではな」


ヒロ「声を聞かせろ」


男「それは出来ない」


ヒロ「何故?」


男「お前だって・・・リナを電話に出す気はないんだろう?」


ヒロ「リナは、ここにいない」


男「ふふ。さすがはMI6のスパイだ。よく訓練されている。

   その場しのぎの嘘の付き方は、私の知る中でも一流だ」


※ MI6 = SIS(イギリス情報局秘密情報部)の旧称。


ヒロ「お互い・・・余計なさぐりは無用のようだ」


男「ふふ。お前は確かに、リナを守り通した。

   だが、羽鳥魁斗は我々の手の内にある。


   彼の命を守りたくば・・・ 指示に従ってもらおうか」


ヒロ「・・・。 言え・・・」



・・・ ・・・。


午後2時11分、羽鳥邸。


湾岸警察署にて、今後の事を綿密に打ち合わせた羽鳥瞳は・・・

小学生の次女・雛子を警察に預け、自分の家に戻ってきた。


羽鳥邸は・・・土曜日の朝に爆破攻撃を受け、翌日の夜には覆面男らに襲撃されている。麻酔銃とはいえ、5人もの警官が、ここ羽鳥邸で被弾した。


羽鳥コーポレーション社長、羽鳥魁斗の誘拐。

容疑者として捕らえたヒロは、拘束中の警察署から逃亡。

そして長女リナの行方不明。


これらの事態を重く受け止めた警視庁。警察の威信にかけ、多くの人員をこの事件に送り込む判断を下した。


現在羽鳥邸には警察官20人、SAT10人のものものしい警備がしかれている。


(瞳「ホントに私の家かしら・・・」)


おもにハイジャックや、テロ対策の任務をこなすSAT隊員。メンバーは防弾ベストを着込み、警察官の所持する銃ではなく、自動小銃を肩からかけていた。


瞳にとって住み慣れたはずの自宅を、武装した男らが動き回っている。


(瞳「まるで要塞のよう・・・」)


家政婦の新城や、警備主任の井上も羽鳥邸に訪れたが・・・警備のため中に入る事は出来ない。


羽鳥家の、実質運転手となっている安田は・・・


親戚の葬儀に参列していたという、自らのアリバイ工作をして、警察からのマークをはずれていた。もちろん安田も、羽鳥邸に入る事は出来ない。


安田は、ヒロに代わって羽鳥邸から、何か情報を得たかったが・・・

要塞と化した羽鳥邸に、足を踏み入れることは不可能と判断。外から情報収集にいそしむことにした。


瞳は1階の応接間で、警察署で受けた説明を再び受ける。


後藤「容疑者のハーグリーブスは、被害者を装っていますが・・・

    今までの行動からして、彼が娘さんを連れ出した可能性は高い」


後藤は、警察が必死にヒロとリナの捜査をしている事を伝えた。


後藤「羽鳥邸1階が爆破を受けた土曜日に、誘拐犯から電話があったと。

    これはハーグリーブスの証言ですが、裏は取れています。


    家政婦の・・・」


事はパラパラと手帳をめくる。


瞳「美也さんね・・・。新城美也」


後藤「あぁ、そうだ。失礼。

    その新城さんからも、同じ証言を得ています。そして・・・


    電話の男は3日後の同じ時間、すなわち明日の午前7時半・・・

    また連絡すると言ったようです」


瞳は軽く目を閉じた。


瞳「ならば、明日の朝までは・・・ 動きはないと思っていいかしら?」


後藤「そうとも言い切れません。

    何せ相手は昨夜、突然この家も襲撃しています。


    24時間態勢で警察官、およびSATが警備します」


瞳「・・・ ・・・」

 

後藤「それと・・・くれぐれも外出はしないようお願いします。

    必要な物は我々が用意しますので」


瞳は無言で2度頷いた。


事実上の軟禁状態。夫と長女が行方不明で、不安でどうしようもない・・・


さらには警察に保護をお願いした次女も気になる。


4人家族全てがバラバラ。瞳の頭は、色々な悪い事を想像してしまい・・・気を緩めるとパニックになりそうになる。


瞳「・・・ ・・・」


それでも夫と長女のため、自分がしっかりしなければと、何とか持ちこたえていた。


神経衰弱・・・ 


1秒1秒をこんなにも肌で感じた事など、瞳の41年の人生で一度もない。頭を抱えながら瞳は・・・


「その時」を静かに待った。



・・・ ・・・。


午後2時32分。都内のとあるネットカフェ。


ヒロとリナは、ネットカフェで静かに時を過ごしていた。ヒロはパソコンで、テロリストに繋がる情報を探し続けている。


リナはただ静かに、ヒロの姿を見つめていた。時折ヒロが笑顔で声をかける。


ヒロ「思えば・・・今日で3日連続、2人で朝を迎えた事になる」


一瞬ニコッと笑顔を見せるリナだが・・・ 父親の事を思うと、再び心が沈む。


ヒロ「今、ミスターカイトを誘拐した連中の情報を探っている。

    覆面男1人の身元は割れたよ。確実に、相手に近づいている」


誘拐犯に近づいていると言う事で、少しでもリナを安心させようとするヒロ。


ヒロ「・・・ ・・・」


確かに、身元の割れた覆面男はいる。しかし彼が死亡した事は、伏せておいた。


ヒロ「やつらが過去関係した作戦や、接触した人物を洗っている。

    その中に・・・ 黒幕がいる。


    そいつさえ突き止めれば・・・必ず事件は解決する」


リナ「うん・・・ 私、ヒロ先生を信じている。

    早くパパを助け出して、モーツァルトを聴かせてあげたい」


心が重いはずだが、前向きな発言をしてくれたリナに、ヒロは笑顔で応える。


ヒロ「あぁ。つらいだろうが、もうしばらくの我慢だ・・・」


リナ「うん・・・」


この3日間、ろくな睡眠をとってないヒロ。神経を衰弱させながらも、パソコンのキーボードをカタカタと打ち続けた。



・・・ ・・・。


魁斗「・・・ ・・・」


マスターと会う予定の24時間後は・・・ 明らかに超えている。かすかに部屋に伝わる、電車の振動。そこから計算するに、40時間以上は過ぎているはずだ。


娘が生きているのか・・・ あるいは最悪の事態になったのか・・・


魁斗にはわからない。


そして妻と次女が帰国していることでさえ、知るよしもない。


魁斗「・・・ ・・・」


40時間以上一睡もせず、ただただリナの事だけを心配していた。


神経が衰弱していくのがわかるが・・・


それを止めるすべは、IQ180の魁斗ですらわからなかった。



・・・ ・・・。


2008年12月9日(火)、午前7時半ちょうど。羽鳥邸。


リリリリリーン・・・  リリリリリーン・・・


1度爆破により吹き飛んだ後、復旧した羽鳥家の電話。回線を長くひき、ソファー前のテーブルに置かれてある。


リリリリリーン・・・  リリリリリーン・・・


その電話が、誘拐犯の指定した時間に、鳴り響いた。


1階にいた瞳を始め、側にいる藤岡捜査官らにも緊張が走る。藤岡は自ら逆探知機器を操作し、瞳に合図を送った。


(藤岡「出来るだけ、会話を引き延ばして・・・」)


コクリと頷いた瞳が、静かに受話器を取る。


瞳「もし・・・もし・・・」


電話の向こうから、聞いた事のない男の声が聞こえてきた。


男「羽鳥瞳か?」


瞳「えぇ・・・そ、そちらはいっ・・・」


瞳の言葉を遮って、男は声をかけてくる。


男「あなたの家族を預かっている。

   身代金として5000万円用意してもらおう」


言葉を聞いた、瞳は両手で受話器を強く握った。


瞳「家族って!? 夫? それとも娘!?」


電話の向こうの男は、しばらく間を置いた後に応える。


男「2人ともだ」


それを聞いた瞳の目からは、涙がこぼれた。パニックになりそうな自分を何とか抑えて、静かに声をしぼり出す。


瞳「お金は・・・ すぐには用意できないわ・・・」


あらかじめ用意されていた返事だ。


男「36時間やる。明日の午後7時半、再びこの電話に連絡する。

   その時、引き渡し場所を指定する」


電話の向こうの男も、用意していた言葉を返す。


瞳「ホントに・・・ お金さえ渡せば、家族は戻ってくるの!?」


男「・・・ あぁ・・・」


電話の向こうの声は、一瞬ためらったように返事をした。


瞳「絶対・・・ 絶対に2人とも無事で返してよ!!!」


男「あぁ・・・ 約束する!」


瞳の横にいた藤岡が、何かの合図を送る。瞳は思い出したように電話の向こうの男に声をかけた。


瞳「こ、声を・・・ 声を聞かせてちょうだい! 家族の声を!!」


男「・・・ ・・・」


電話の向こうの男は、何かを迷っているようだ。捜査官の藤岡は、かかってきた電話の逆探知を急いでいるが・・・


(藤岡「スクランブル回線か・・・」)


相手の電話は、逆探知が出来ないよう細工した電話を使っていた。


男「いいだろう。声を聞かせてやる」


(藤岡「え!?」)


藤岡だけでなく、周りにいた後藤や、他の警察官らもどよめいた。


藤岡「・・・ ・・・」


電話の向こうにいたのは、間違いなくヒロ・ハーグリーブス。彼が、瞳の要望に応え、家族の声を聞かせようとしているのは意外だった。


瞳は、さらに強く受話器を握りしめる。そして・・・



「ママ・・・?」



長女の声を確かに聞いた。




             (第35話へ続く)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

次回予告


魁斗はIQ180の頭脳で、監禁されている場所から脱出する方法を考える。


一方ヒロは、確実に黒幕に近づいていた。安田の情報では、イタリアのとある組織が、この事件に関わっているという。


そして・・・


約束の火曜日、午後7時半。羽鳥邸に、再び電話が鳴り響いた。


次回 「 第35話  Unknown(2008年) 」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ