第34話 神経衰弱 (2008年)
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慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン2
「アマデウスの謎」
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前回までのあらすじ
2012年、女子大生リナの妹が誘拐された。
霊能力を持つ1つ下の後輩・慎吾を連れて実家へと戻るリナ。誘拐犯から1週間以内に1億円を用意しろと要求され、羽鳥邸にいた面々は不安になる。
話は・・・ 4年前の2008年。
リナの新しいピアノ講師、そして彼氏となるヒロ・ハーグリーブス。
リナの父親・魁斗は、覆面をつけた男らに誘拐されてしまう。そしてマスターと呼ばれる男に、自らが開発したソフトのアルゴリズムを要求された。返事に躊躇を見せる魁斗に、マスターはリナを殺すと宣言。
リナは2度にわたるテロリストの襲撃を受けるが、ヒロが守り通した。
一方イギリスからは、リナの母親・瞳と次女の雛子が帰国する。
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第34話 神経衰弱 (2008年)
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2008年12月8日(月)、午前10時5分。
都内のとあるネットカフェ。
ヒロ「Hello・・・」
携帯の向こうから、あの声が聞こえてきた。
男「久しぶりだな。ミスターボンド」
2日前の土曜日・・・ 爆破される前の羽鳥邸で聞いた声だ。
ヒロ「そろそろかけてくると思ったよ・・・」
男「ふふ、予想通りか。
リナの携帯を破棄された以上、そちらにかけるしかあるまい」
ヒロ「 ・・・ ミスターカイトは無事か? 」
リナの話題をあえてそらす。
男「無事さ。もう一仕事終わるまではな」
ヒロ「声を聞かせろ」
男「それは出来ない」
ヒロ「何故?」
男「お前だって・・・リナを電話に出す気はないんだろう?」
ヒロ「リナは、ここにいない」
男「ふふ。さすがはMI6のスパイだ。よく訓練されている。
その場しのぎの嘘の付き方は、私の知る中でも一流だ」
※ MI6 = SIS(イギリス情報局秘密情報部)の旧称。
ヒロ「お互い・・・余計なさぐりは無用のようだ」
男「ふふ。お前は確かに、リナを守り通した。
だが、羽鳥魁斗は我々の手の内にある。
彼の命を守りたくば・・・ 指示に従ってもらおうか」
ヒロ「・・・。 言え・・・」
・・・ ・・・。
午後2時11分、羽鳥邸。
湾岸警察署にて、今後の事を綿密に打ち合わせた羽鳥瞳は・・・
小学生の次女・雛子を警察に預け、自分の家に戻ってきた。
羽鳥邸は・・・土曜日の朝に爆破攻撃を受け、翌日の夜には覆面男らに襲撃されている。麻酔銃とはいえ、5人もの警官が、ここ羽鳥邸で被弾した。
羽鳥コーポレーション社長、羽鳥魁斗の誘拐。
容疑者として捕らえたヒロは、拘束中の警察署から逃亡。
そして長女リナの行方不明。
これらの事態を重く受け止めた警視庁。警察の威信にかけ、多くの人員をこの事件に送り込む判断を下した。
現在羽鳥邸には警察官20人、SAT10人のものものしい警備がしかれている。
(瞳「ホントに私の家かしら・・・」)
主にハイジャックや、テロ対策の任務をこなすSAT隊員。メンバーは防弾ベストを着込み、警察官の所持する銃ではなく、自動小銃を肩からかけていた。
瞳にとって住み慣れたはずの自宅を、武装した男らが動き回っている。
(瞳「まるで要塞のよう・・・」)
家政婦の新城や、警備主任の井上も羽鳥邸に訪れたが・・・警備のため中に入る事は出来ない。
羽鳥家の、実質運転手となっている安田は・・・
親戚の葬儀に参列していたという、自らのアリバイ工作をして、警察からのマークをはずれていた。もちろん安田も、羽鳥邸に入る事は出来ない。
安田は、ヒロに代わって羽鳥邸から、何か情報を得たかったが・・・
要塞と化した羽鳥邸に、足を踏み入れることは不可能と判断。外から情報収集に勤しむことにした。
瞳は1階の応接間で、警察署で受けた説明を再び受ける。
後藤「容疑者のハーグリーブスは、被害者を装っていますが・・・
今までの行動からして、彼が娘さんを連れ出した可能性は高い」
後藤は、警察が必死にヒロとリナの捜査をしている事を伝えた。
後藤「羽鳥邸1階が爆破を受けた土曜日に、誘拐犯から電話があったと。
これはハーグリーブスの証言ですが、裏は取れています。
家政婦の・・・」
事はパラパラと手帳をめくる。
瞳「美也さんね・・・。新城美也」
後藤「あぁ、そうだ。失礼。
その新城さんからも、同じ証言を得ています。そして・・・
電話の男は3日後の同じ時間、すなわち明日の午前7時半・・・
また連絡すると言ったようです」
瞳は軽く目を閉じた。
瞳「ならば、明日の朝までは・・・ 動きはないと思っていいかしら?」
後藤「そうとも言い切れません。
何せ相手は昨夜、突然この家も襲撃しています。
24時間態勢で警察官、およびSATが警備します」
瞳「・・・ ・・・」
後藤「それと・・・くれぐれも外出はしないようお願いします。
必要な物は我々が用意しますので」
瞳は無言で2度頷いた。
事実上の軟禁状態。夫と長女が行方不明で、不安でどうしようもない・・・
さらには警察に保護をお願いした次女も気になる。
4人家族全てがバラバラ。瞳の頭は、色々な悪い事を想像してしまい・・・気を緩めるとパニックになりそうになる。
瞳「・・・ ・・・」
それでも夫と長女のため、自分がしっかりしなければと、何とか持ちこたえていた。
神経衰弱・・・
1秒1秒をこんなにも肌で感じた事など、瞳の41年の人生で一度もない。頭を抱えながら瞳は・・・
「その時」を静かに待った。
・・・ ・・・。
午後2時32分。都内のとあるネットカフェ。
ヒロとリナは、ネットカフェで静かに時を過ごしていた。ヒロはパソコンで、テロリストに繋がる情報を探し続けている。
リナはただ静かに、ヒロの姿を見つめていた。時折ヒロが笑顔で声をかける。
ヒロ「思えば・・・今日で3日連続、2人で朝を迎えた事になる」
一瞬ニコッと笑顔を見せるリナだが・・・ 父親の事を思うと、再び心が沈む。
ヒロ「今、ミスターカイトを誘拐した連中の情報を探っている。
覆面男1人の身元は割れたよ。確実に、相手に近づいている」
誘拐犯に近づいていると言う事で、少しでもリナを安心させようとするヒロ。
ヒロ「・・・ ・・・」
確かに、身元の割れた覆面男はいる。しかし彼が死亡した事は、伏せておいた。
ヒロ「やつらが過去関係した作戦や、接触した人物を洗っている。
その中に・・・ 黒幕がいる。
そいつさえ突き止めれば・・・必ず事件は解決する」
リナ「うん・・・ 私、ヒロ先生を信じている。
早くパパを助け出して、モーツァルトを聴かせてあげたい」
心が重いはずだが、前向きな発言をしてくれたリナに、ヒロは笑顔で応える。
ヒロ「あぁ。つらいだろうが、もうしばらくの我慢だ・・・」
リナ「うん・・・」
この3日間、ろくな睡眠をとってないヒロ。神経を衰弱させながらも、パソコンのキーボードをカタカタと打ち続けた。
・・・ ・・・。
魁斗「・・・ ・・・」
マスターと会う予定の24時間後は・・・ 明らかに超えている。かすかに部屋に伝わる、電車の振動。そこから計算するに、40時間以上は過ぎているはずだ。
娘が生きているのか・・・ あるいは最悪の事態になったのか・・・
魁斗にはわからない。
そして妻と次女が帰国していることでさえ、知るよしもない。
魁斗「・・・ ・・・」
40時間以上一睡もせず、ただただリナの事だけを心配していた。
神経が衰弱していくのがわかるが・・・
それを止める術は、IQ180の魁斗ですらわからなかった。
・・・ ・・・。
2008年12月9日(火)、午前7時半ちょうど。羽鳥邸。
リリリリリーン・・・ リリリリリーン・・・
1度爆破により吹き飛んだ後、復旧した羽鳥家の電話。回線を長くひき、ソファー前のテーブルに置かれてある。
リリリリリーン・・・ リリリリリーン・・・
その電話が、誘拐犯の指定した時間に、鳴り響いた。
1階にいた瞳を始め、側にいる藤岡捜査官らにも緊張が走る。藤岡は自ら逆探知機器を操作し、瞳に合図を送った。
(藤岡「出来るだけ、会話を引き延ばして・・・」)
コクリと頷いた瞳が、静かに受話器を取る。
瞳「もし・・・もし・・・」
電話の向こうから、聞いた事のない男の声が聞こえてきた。
男「羽鳥瞳か?」
瞳「えぇ・・・そ、そちらはいっ・・・」
瞳の言葉を遮って、男は声をかけてくる。
男「あなたの家族を預かっている。
身代金として5000万円用意してもらおう」
言葉を聞いた、瞳は両手で受話器を強く握った。
瞳「家族って!? 夫? それとも娘!?」
電話の向こうの男は、しばらく間を置いた後に応える。
男「2人ともだ」
それを聞いた瞳の目からは、涙がこぼれた。パニックになりそうな自分を何とか抑えて、静かに声をしぼり出す。
瞳「お金は・・・ すぐには用意できないわ・・・」
あらかじめ用意されていた返事だ。
男「36時間やる。明日の午後7時半、再びこの電話に連絡する。
その時、引き渡し場所を指定する」
電話の向こうの男も、用意していた言葉を返す。
瞳「ホントに・・・ お金さえ渡せば、家族は戻ってくるの!?」
男「・・・ あぁ・・・」
電話の向こうの声は、一瞬ためらったように返事をした。
瞳「絶対・・・ 絶対に2人とも無事で返してよ!!!」
男「あぁ・・・ 約束する!」
瞳の横にいた藤岡が、何かの合図を送る。瞳は思い出したように電話の向こうの男に声をかけた。
瞳「こ、声を・・・ 声を聞かせてちょうだい! 家族の声を!!」
男「・・・ ・・・」
電話の向こうの男は、何かを迷っているようだ。捜査官の藤岡は、かかってきた電話の逆探知を急いでいるが・・・
(藤岡「スクランブル回線か・・・」)
相手の電話は、逆探知が出来ないよう細工した電話を使っていた。
男「いいだろう。声を聞かせてやる」
(藤岡「え!?」)
藤岡だけでなく、周りにいた後藤や、他の警察官らもどよめいた。
藤岡「・・・ ・・・」
電話の向こうにいたのは、間違いなくヒロ・ハーグリーブス。彼が、瞳の要望に応え、家族の声を聞かせようとしているのは意外だった。
瞳は、さらに強く受話器を握りしめる。そして・・・
「ママ・・・?」
長女の声を確かに聞いた。
(第35話へ続く)
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次回予告
魁斗はIQ180の頭脳で、監禁されている場所から脱出する方法を考える。
一方ヒロは、確実に黒幕に近づいていた。安田の情報では、イタリアのとある組織が、この事件に関わっているという。
そして・・・
約束の火曜日、午後7時半。羽鳥邸に、再び電話が鳴り響いた。
次回 「 第35話 Unknown(2008年) 」
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