第33話 次の一手 (2008年)
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慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン2
「アマデウスの謎」
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前回までのあらすじ
リナの父親・魁斗は、覆面をつけた男らに誘拐されてしまう。そしてマスターと呼ばれる男に、自らが開発したソフトのアルゴリズムを要求された。返事に躊躇を見せる魁斗に、マスターはリナを殺すと宣言。
2度にわたるテロリストの襲撃から、ヒロはリナを守り通すが・・・
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第33話 次の一手 (2008年)
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2008年12月8日(月)、午前3時17分。
都内のとあるネットカフェ。
広めの1室を借りたヒロは、パソコンを操作していた。
ふと横を見ると、白いコートを布団代わりにしたリナが、狭い畳間でスースーと寝息をたてている。
ヒロ「・・・ ・・・」
安田から受け取った携帯。それに登録されているURLにアクセスし・・・
映し出される情報に目を通した。
覆面男のリーダー、珍という男・・・
中国人民解放軍(PLA)特殊部隊に所属した経歴があり、後に行方知れずとなった人物。
安田の知人が、PLAの極秘データベースにハッキングして得たという情報。それらが、つらつらとディスプレイに映し出される。しばらくそれらの情報を整理した後・・・今度は別のサイトにアクセスした。
ヒロは自分の所属するSISに、ある依頼をしている。リナが学校で覆面男に襲われた時の・・・相手の使用していた麻酔銃や、最新型のサーモグラフィー装置について調査を依頼。武器の出所から、彼等に繋がる情報を得ようとしていた。
ヒロは諜報員しか知らない極秘サイトにアクセスし・・・長いパスワードをブラインドタッチで打ち込む。
そして、アクセスに成功したページを凝視する。
ヒロ「・・・ ・・・」
SISによれば・・・
彼等の使用した武器は、ロシアと中国で生産されたもの。裏ルートを通じて、各国のテロリストに輸出がなされているとの事だった。
ヒロ「また中国か・・・」
ヒロは珍が従事した過去の作戦について、SISのデータベースに情報がないか検索してみる。
あまり知られてはいないが、人民解放軍による諜報活動は世界各国で行われている。いわゆるスパイ行為だ。スパイ活動というその性格上、中国側がその活動を認める事はありえないが・・・
他国において、「人民解放軍によるスパイ行為」が認定される事が稀にある。1年前(2007年)、ヒロの母国であるイギリス政府機関にも、人民解放軍が不正に侵入した記録が存在する。
ヒロ「・・・ ・・・」
珍は2007年2月以降、突如PLAから身を消している。そして2008年の今、
(ヒロ「2度もリナを誘拐しようとした・・・」)
間違いなく、羽鳥魁斗の開発したセキュリティソフトを巡る事件に関わっている。ならばそのソフトと珍が、どこで接点を持つのか・・・。
(ヒロ「珍が首謀者ではない・・・」)
珍を作戦実行部隊の一員として使い、背後で珍を操る人物がいるはずだ。そしてその黒幕は、珍がPLAから姿を消す前に・・・ 珍と接触しているはずだとヒロは考えた。
その黒幕の正体さえ突き止められれば・・・ この事件は一気に解決するはず。そう信じてヒロは、パソコンのキーボードを高速で叩き続けた。
・・・ ・・・。
ヒロとチームを組んでいる安田は・・・ヒロがカーチェイスを演じていた頃、とあるホテルの一室にいた。
覆面男らが羽鳥邸を襲撃する前、リナを安全な場所に連れ出したとヒロから連絡があった。そこで安田は、すでに突き止めていた珍の借りたホテルの一室を探っていたのだ。
有力とはいえないが、探る価値のありそうな資料を2枚見つけ、それを高解像度の写真に収める。自分の部屋に戻り、そのDATAを照合・・・。
いくつかの情報を得た後、ホテルを出る。珍の靴に取り付けていた発信器。その信号を元に、彼等の後を追った。
・・・ ・・・。
2度目の誘拐にも失敗した覆面男らの車は・・・ホテルからはほど遠い、とある封鎖された港に止まっていた。安田は50mほど離れた場所から、小型双眼鏡で様子を探る。
ブラックウィンドウで中は全く見えない。安田は、彼等が羽鳥魁斗を誘拐した場所へ移動してくれる事を願い、動きだすのを待っていた。
その期待は・・・突如裏切られる事になる。
双眼鏡でしばらく黒い車の動向を観察していた安田の耳に、どこからかエンジン音が聞こえてきた。
エンジンの主である1台のバイクが、黒い車に横付けする。
安田「 ? 」
フルフェイスメットに黒いレーシングスーツを身につけた人物が、バイクから降りた。
(安田「誰だ・・・?」)
双眼鏡を見ながら、新たな人物の登場に安田は緊張を走らせる。
バイクを降りた人物は、車の運転席側の窓をコンコンと叩いた。ウィンドウが開くと、覆面をとった珍の姿が見えた。
(安田「仲間か?」)
双眼鏡で珍の顔を確認した安田は、バイクの人物がフルフェイスメットを取ってくれる事を願う。今は敵につながる情報が1つでも多く欲しい。
ところが・・・
突然謎の人物は懐から銃を取り出したかと思うと、躊躇無く車内にそれを向け、引き金を何度かひいた。
4発の乾いた銃声と、閃光が車の中の男達を襲う。
安田「な・・・」
安田の双眼鏡では確認出来なかったが・・・
車の中にいた覆面男は全員・・・・ 即死していた。
銃を懐にしまった謎の人物は、車の窓から上半身だけ車内に入れた。ハンドルを握り、力強く押し出すと・・・やがて黒い車は静かに動き出した。
しばらくして車から離れると、車は慣性に従いゆっくりと走った状態になる。そして・・・車は海の中へと落ちていった。
周りをちらっと確認したその人物は、バイクに乗り込み、出発させる。
安田は慌てて追いかけようとするが・・・
時すでに遅し。機動力のあるバイクは、すでに行方をくらましていた。
・・・ ・・・。
携帯電話がバイブした。トイレにかけこみ、電話を取るヒロ。
ヒロ「どうした?」
安田「覆面男らは・・・全員殺されたようだ・・・・」
ヒロ「何!?」
安田「バイクに乗ったヤツが、わずか1分で車にいた全員を銃で撃ち・・・
そのまま車を海に投げ捨てた。
すまん・・・、あっという間に逃げられてしまった」
ヒロ「・・・ ・・・」
安田が羽鳥魁斗の拉致された場所を突き止めてくれる・・・そう期待していたヒロは、安田に聞こえないよう溜息をつく。
安田「本当にすまん・・・ 唯一の手がかりを失ってしまった」
しばらくの間の後、ヒロは口を開いた。
ヒロ「いや・・・俺もリナを守るのでギリギリ状態だった。
任せろ。次の一手を考えてある」
安田「次の一手?」
ヒロ「あぁ・・・ お前の携帯に、俺が調べた情報を全て送っておく。
とあるサイトから、気になる情報を得た。
それをくわしく洗って欲しい」
安田「わかった。しかし次の一手とは?」
ヒロ「 ・・・ ・・・ 」
しばらく言葉に詰まるヒロ。
ヒロ「今は言えない。だが、黒幕を引きずり出せるかもしれない策がある。
そちらはとにかく、情報を収集してくれ」
安田「わかった。あまり無理はするなよ。
こちらは全力で情報を洗い、テロリストを突き止める!」
ヒロ「頼んだ・・・」
静かに携帯を切ったヒロは、再びパソコン室に戻る。リナが疲れ切った表情で寝ている姿を見て
(ヒロ「絶対に・・・ リナも、リナの家族も守ってみせる・・・」)
と、心の中で叫んだ。
そして・・・
時を待った。
・・・ ・・・。
魁斗は簡易ベッドで横になり、天井を見ていた。
魁斗「・・・ ・・・」
小さな振動を感じる。
(魁斗「朝5時半ぐらいか・・・」)
時計や携帯といった、時間を知らせる物は何もない状態。しかし魁斗は、現在のおおまかな時間をよみとっていた。
監禁されてからずっと部屋の中で、定期的に小さな振動を感じる時間がある事を感じていた。ところがある一定の数時間だけ、全く振動を感じられない時間帯がある。
その振動は地下鉄によるものだと、魁斗は思っていた。その証拠に、体感だが5時間ほど、全く揺れを感じない時間帯がある。
それは終点から始発の間だと考えた。
(魁斗「2度目のマスターとの面会から・・・
24時間以上が経っているはずだ・・・」)
マスターと呼ばれる男は、24時間後にリナの死体と面会させると言った。その24時間が過ぎたが・・・ マスターからは何のコンタクトもない。
魁斗「・・・ ・・・」
ヒロがリナを守りきってくれたと信じたいが・・・ 確証は何もない。不安になりながらも魁斗は、現状を打破する最善の策は何かを考えていた。
・・・ ・・・。
2008年12月8日(月)、午前7時47分。
成田空港を出て、パトカーに乗る2人の人物がいた。羽鳥魁斗の妻・羽鳥瞳と、次女の羽鳥雛子だ。
厚めのコートを羽織り、大きめのサングラスをかけた瞳。そして瞳の右手をしっかり握る、まだ小学6年生の幼い雛子。
パトカーの行き先は、警察署だ。
藤岡は、羽鳥邸が覆面男等に襲撃を受けた際に、リナの部屋の窓から飛び出した。姿を消したリナを捜索したが・・・ 結局見つけられず、署に戻る事になった。
その藤岡が、瞳と雛子を誘導した。
雛子とは別の部屋に移された瞳。2人の捜査官・後藤と藤岡にこれまでの経緯を説明される。
羽鳥魁斗が誘拐された事。その際、羽鳥邸は爆破攻撃を受けた事。
そしてリナのピアノ講師、ヒロ・ハーグリーブスを容疑者として逮捕した事。
後にヒロは警察署を抜け出し・・・ その夜、羽鳥邸は2度目の襲撃を受け・・・現在、羽鳥リナまでもが行方不明である事。
瞳「・・・ ・・・」
説明を聞けば聞くほど、警察の対応が後手後手に回っている事に憤りを覚える瞳。それでも行方知れずの魁斗とリナの事を思い、冷静に対処しようとする。
瞳「それで・・・ この後は・・・?」
後藤「羽鳥邸へ戻ります。
SATを要請して、万全の警備体制を整えてあります」
瞳「でも、2度目の襲撃も、警備の方はいらっしゃったんでしょ!?
本当にそれで大丈夫でしょうか?」
瞳は厳しい口調で言い放った。
藤岡「SATは一般の警察官とは違い、特殊訓練を受けたプロです。
今回10名のSAT隊員と、20名の警察官が警備にあたります」
瞳「・・・ 出来れば安全な警察署で対応できないでしょうか?」
藤岡「残念ですが・・・ 相手はあなたが来た後、再び連絡すると言ってきました。
誘拐犯が羽鳥家と連絡するなら、2通りしかありません。
復旧した羽鳥家の固定電話か、長女リナさんの携帯電話か・・・」
そのリナは現在行方不明。だとしたら、誘拐犯が連絡を取る方法は1つしかない。
瞳「・・・ ・・・」
瞳もそれは理解するが・・・
次女の雛子を、爆破された羽鳥邸に連れて行くわけにはいかない。かといって、雛子と離れたくもない。
後藤「あなたの夫を助けるためです。どうかご協力を」
迷った末・・・ 瞳は警察署に雛子を預け、羽鳥邸へ戻る事を決意した。
・・・ ・・・。
ヒロはネットカフェで、ただひたすら待っていた。
(ヒロ「俺が誘拐犯なら・・・ 必ず・・・」)
横にはまだ眠っているリナがいる。ここ数日、ゆっくり寝る事も許されず、つい数時間前もカーチェイスで精神を削られている。
リナの体力も精神力も、限界に近い。早く決着を付けたいヒロだが・・・
今はただ待っていた。
午前10時が過ぎた頃・・・ ヒロの携帯がバイブした。
すぐに着信を確認するヒロ。
着信【羽鳥魁斗】
(ヒロ「きた・・・」)
(第34話へ続く)
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次回予告
ネットカフェに潜伏していたヒロとリナ。
ヒロの予想通り、誘拐犯からヒロの携帯に電話が入った。
誘拐犯はヒロにある指示をする。
一方羽鳥瞳は、ものものしい警備体制の取られた羽鳥邸に戻ってきた。
そして・・・
誘拐犯からの電話が鳴り響く・・・?
次回 「 第34話 神経衰弱 (2008年) 」
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