第32話 カーチェイス(2008年)
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慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン2
「アマデウスの謎」
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前回までのあらすじ
リナの父親・魁斗は、覆面をつけた男らに誘拐されてしまう。そしてマスターと呼ばれる男に、自らが開発したソフトのアルゴリズムを要求された。返事に躊躇を見せる魁斗に、マスターはリナを殺すと宣言。
テロリストがリナに迫る中、藤岡がリナの部屋に駆けつけると・・・
リナはヒロの指示に従い、姿をくらました後だった。
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第32話 カーチェイス(2008年)
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2008年12月7日(日)、午後9時27分。首都高速湾岸線。
ギュキュキュキュキュキュッ・・・
高速の追い越し車線を走っていたヒロの車は、急ハンドルをきって強引に車線を変更する。
助手席のリナは反射的に左上にある取っ手を握り、体中にかかるGに耐えた。ヒロに声をかけたがったが、その真剣な表情から何かしらの危険が近づいていると理解する。
突然の車線変更で、高速の出口に向かうヒロの車を・・・
これまた強引な車線変更で、追いかける1台の黒い車があった。
ヒロ「ち・・・」
舌打ちしたヒロは、速度を落としETC車線を走り抜け市内に出る。
リナ「追いかけられているの?」
スピードが落ちた所でリナが声をかけた。
ヒロ「あぁ。学校でリナを襲った連中の車だ。
ナンバーは違うが間違いない」
言いながらヒロは、ハンドルを思い切りきって左折する。急ハンドルが切られる度、リナは体を左に右に揺らし続けた。
黒い車は時々他の車に接触しながらも、しつこく追いかけてくる。
ヒロ「・・・ ・・・」
バックミラーを見ながら、ヒロは1つの作戦をたてた。
ヒロ「ちょっと危険だが・・・」
そう言うと若干スピードを落とし始めた。追ってくる車との距離が必然的に縮まる。リナは、サイドミラーで黒い車を確認した。
リナ「ヒロ先生・・・ すぐ後ろに来てる!!」
ヒロ「わかってる。いいか、リナ。衝撃がくるから、心の準備をしておけ」
あえてヒロは、車通りの少ない道を選んで走らせた。バックミラーを見ながら、何かのタイミングをはかる。
ヒロ「・・・ ・・・」
しばらく車を走らせると・・・ とうとう黒い車が後ろに貼り付いた。ブラックウィンドウで中の様子は見えない。
ヒロ「いいか・・・ くるぞ・・・」
ヒロの言葉を受け、リナはゴクリと唾を飲み込む。突如ヒロはブレーキを思い切り踏み込んだ。黒い車はヒロの車に思い切り追突し、リナは悲鳴をあげる。
リナ「きゃー!!」
ヒロの運転する車は、一瞬ふわりと宙に浮かんだ。着地と同時に、ヒロは思い切りアクセルを踏み混む。
黒い車はぶつかった衝撃で減速し、逆にヒロの車は押し出されて加速する。
ヒロ「大丈夫か!? リナ!」
黒い車を引き離しながら、ヒロは声をかけた。
リナ「う、うん・・・」
軽い脳しんとうを起こしながらも、必死に声を出すリナ。ヒロがバックミラーを見ると、まだ例の車が追いかけてくるのが見えた。
ヒロ「く・・・ 改造車か・・・」
車には通常・・・フロント部にエアバッグセンサーが取り付けられている。強い衝撃を受けるとセンサーが反応し、エアバッグが開く仕組みだ。
よくドラマや映画で、車が大破しながらもカーチェイスを演じるシーンがある。特にパトカーなど、エアバッグが搭載された車では、そうなる事は現実には起こりえない。エアバッグが作動すれば、運転できる状態にはならないからだ。
ヒロ「簡単には・・・振り切れないってわけか・・・」
作戦失敗で落胆するも、すぐにハンドルをきって細い道に侵入する。かなりの速度で車を走らせるが・・・追っ手の車も執拗に追いかけてきた。
カーナビを見ながら、小さな通りを左に右にと曲がりくねって走らせると・・・
やがて背後の黒い車は見えなくなった。
車は見通しのよい細い道を走る。左は住宅地だが、右側をちょっと奥に行くと雑木林が続いていた。
サイドミラーを見ていたリナがつぶやく。
リナ「もう・・・ 振り切ったみたい」
ヒロ「だといいが・・・」
瞬間、横の筋道から来た黒い車が、ヒロの車の左後部に追突した。
リナ「きゃ!!」
ヒロ「ぐ!」
同時に声をあげる2人だが、ヒロは素早くハンドルをきって車の体制を立て直す。しかし2人の乗る車は右側に押し出され、図らずも雑木林の中へと侵入してしまった。
ヒロ「回りこんできたか・・・」
すぐに左側の道路に戻ろうとするが、黒い車はそれを阻止する。整備されてない道を走るヒロの車は上下に振動し、必然的にスピードが落ちていった。
やがて黒い車は道からそれ、左からヒロの車との距離を詰めてくる。
ヒロ「やばいな・・・」
そう言うとヒロはブレーキと急ハンドルを同時に操作し、車を斜めに滑らせドリフトさせた。
ギュギュギュギュキュキュ・・・
タイミング良くギアを入れ替え、ブレーキからアクセルに足を踏み換える。ヒロの車は、バックで雑木林の中を走って行った。
ヒロ「リナ、前を見て情報をくれ!」
リナ「え!?」
ヒロは助手席のヘッド部分に左手をかけ、後ろを見ながら車をバックさせたまま運転する。追っ手の車とは向かい合った状態で走る形だ。
リナ「え・・・ あ・・・」
少しずつ黒い車が、近づいてくる。
リナ「えっと・・・今、10mぐらい前にいる!」
ヒロ「OK」
ヒロは前を見ることなく、車が木にぶつからないようバックで車を走らせ続けた。黒い車は多少の障害物ははねのけて追いかけてくるため、2台の車の距離はさらに縮まっていく。
突如追っ手の車の助手席の窓が開き・・・ 覆面男が顔を出した。その左手には・・・
リナ「じゅ、銃!? ヒロ先生、覆面男が銃をこっちに向けてる!」
パンパンパン!!
言うが早いか、3発の乾いた銃声が鳴り響いた。1発は右側のフロントライトを直撃。残り2発はハズれたようだ。
ヒロ「リナ! 窓を開けてくれ!」
緊急事態だと察したヒロは次の一手を打つ。
リナ「う、うん・・・」
銃を見てパニックになりつつも、慌てて左側のドアを開けるリナ。再び正面を見ると・・・
ヒロの左手の甲で、リナの視線が遮られた。どこから取り出したのか、その手には銃が握られている。
リナ「な・・・?」
銃が指す方向は、正面の車ではなく、リナの座る助手席側の窓の外だった。
ヒロ「耳をふさげ!」
リナが慌てて両手で耳をふさいだ瞬間、さっきの乾いた銃声とは違う低音の音が車内に響く。
ドウ! ドウ! ドウ! ドウ!・・・
ヒロは迷うことなく、銃を連射した。弾は助手席の窓から、外の木々に命中し、大量の葉っぱが2台の車の間に割って入る。
さらに銃を連射すると・・・ 今度は1本の細い木が追っ手の車の前に倒れ込んだ。追っ手の車は木に乗り上げ、バランスを失い蛇行し、失速する。
ヒロ「今だ!」
何かのタイミングを見つけたヒロは、ハンドルを切り返し・・・車を雑木林から脱出させ、公道に戻った。
再び前を向いたヒロ達の車。一気に加速し、雑木林でもたつく追っ手の車を突き放した。
ヒロ「よし・・・」
5分後、完全に視界から追っ手の車は消える。
ずっと車の後ろを確認していたリナは、しばらく追っ手の車が見えない事で安心した。
リナ「も、もう大丈夫かな・・・」
ヒロ「だといいが・・・」
ヒロは減速する事なく車を走らせる。
リナ「何故、林の中ではずっとバックで走ってたの?」
落ち着きを取り戻したリナがヒロに質問した。
ヒロ「木や障害物に前からぶつかるとね・・・
エアバッグが開いて運転できなくなるのさ。
センサーが車の前についていてね。
だからバックで走らせてたんだ」
リナ「そっか・・・」
ヒロ「それよりリナ!」
突如ヒロは大きな声をあげた。
リナ「な、何?」
ヒロ「携帯を持っているか?」
リナ「え!? も、持ってるわ」
ポケットから携帯を取りだし、ヒロに見せる。ヒロはちらっとリナの携帯を見たあと
ヒロ「悪いがそれを窓の外から捨ててくれ」
と言った。
リナ「え!? な、なんで!?」
車通りの少ない道路。周りを気にしながら、ヒロは説明する。
ヒロ「相手はミスターカイトを誘拐した。
彼の携帯から、君や俺の携帯番号も割り出しているはずだ。
俺の携帯は、追跡できないチップを埋め込んでいるが・・・」
チラリとリナの携帯を見た。
ヒロ「リナの携帯は、GPS-DATAからその居所を追跡できる。
それを捨てなければ・・・
また確実に、相手は目の前に現れるだろう」
リナ「そんな・・・」
リナはぎゅっと携帯を握りしめた。
リナ「この携帯は・・・ 捨てたくない・・・」
ヒロ「何故?」
リナ「だって・・・」
リナは、ヒロから届いたメールを全て保護していた。そしてデートした時、はしゃいで撮りまくった写メもたくさん保存されてある。
リナ「この携帯には・・・ ヒロ先生との想い出がたくさんある・・・
だから捨てたくないの!」
リナの泣きそうな声を聞いたヒロは、右手でハンドルを握りつつ左手で頭をボリボリとかいた。
ヒロ「わかった」
そう言うとヒロは、自分の携帯と何かのコネクタを胸ポケットから取り出す。
ヒロ「俺の携帯とリナの携帯。これでつないで」
リナ「え・・・ う、うん」
リナは言われた通り、携帯横の差し込み口にコネクタを繋げた。
ヒロは運転しながら、自分の携帯をささっと操作する。
ヒロ「リナの携帯にある電話帳やメール、写真などのDATA全てを・・・
今、俺の携帯に移している」
リナ「え!? そんな事出来るの!?」
ヒロ「まぁね・・・」
諜報員・・・いわゆるスパイにとって携帯電話は必要不可欠な道具である。相手のパソコンや携帯から情報を抜き出すためのソフトだけでなく、諜報活動に必要なあらゆるソフトに加え、いろいろな機能も搭載されている。
ヒロ「2~3分あれば、DATA転送は完了する。
それまで相手に見つからない事を願おう」
リナ「うん・・・」
申し訳ないと思いつつも、ヒロとの想い出だけは手放したくないリナ。しかしふと見たサイドミラーに・・・
リナ「あ・・・」
黒い車が映った。車の往来が少ない通りだけに、追っ手の車だとすぐに確認出来る。
リナ「来た・・・」
バックミラーでいち早く追っ手の車を確認したヒロは、アクセルを水平になるまで踏み込んだ。しばらく走らせると、トンネルが見えてくる。その時・・・
ガシャーン!!
車の後ろの窓ガラスが粉砕した。バックミラーを見ると、覆面男が銃をこちらに向けている。
どうやら後ろの窓ガラスを、弾丸が突き破ったようだ。
ヒロ「こりゃヤバいな・・・生かして捕らえる気はないらしい・・・」
リナに聞こえないよう、自分に言い聞かせるため小さく呟く。
リナ「・・・ ・・・」
自分のせいで危険な状況になった・・・リナはそう思っていた。
リナ「・・・ ・・・」
頭の中で今まで起こった事、そして今陥っている状況がぐるぐると回っている。足下にあった発煙筒が、ふとリナの視界に入った。
しばらくそれを見ていたリナは・・・ 突然それを手に取り、筒に書かれてある説明書きに目を走らせる。
ヒロは猛スピードで車を走らせるが、ほぼ直線の通りでは追っ手の車の方が早い。やがてトンネルに入ると、その差は縮まり・・・ 覆面男は銃を向け、狙いをつけているのがミラー越しに見えた。
ヒロ「ち・・・」
突然リナは助手席の窓を勢いよく開け、発煙筒の上部にある栓を抜く。そして発煙筒を握ったまま、窓の外に出した。
ヒロ「リ、リナ・・・!?」
突然のリナの行動に、ヒロが目を丸くする。
リナの握った発煙筒は、最初白い小さな煙が立ち上がり・・・
数秒後、黄色の大量の煙をモウモウと発生させ、追っ手の車の視界を遮る。
ヒロ「・・・ ・・・」
リナの意図を理解した。普段引っ込み思案のリナが、この場を乗り切ろうと動いている。
しばらく発煙筒を握ったままだったリナは、タイミングを見計らってそれを追っ手の車に投げつけようとした。
ヒロ「待て!!」
リナの行動を察したヒロが、大声で制止する。
ヒロ「投げるなら後ろじゃない。前だ! 思いっきり前に投げろ!!」
ヒロは車のライトを消しながら、リナに指示した。
リナ「わかった!」
リナは窓から身を乗り出し・・・ 力の限り発煙筒を前に投げ出す。煙が自分を襲ってきたので、すぐに身を引っ込めて窓を閉めた。
カン・・・ カン・・・ カンカラカンーン・・・
トンネルの中を、発煙筒の乾いた男が鳴り響く。
ヒロ「・・・ ・・・」
その音を集中して聞き取るヒロ。
ヒロ「後は任せろ」
そう言うと、思いっきりブレーキを踏みこんだ。
追っ手は大量の煙で視界が遮られ、ヒロ達の車が見えない。突き放されまいと、アクセルをさらに踏み込んだその時。
左側の車を追い越してしまった。ヒロ達の車だ。
ヒロは急ブレーキをかけた後、バックしていたのだ。
まさかヒロの車が逆送してるとは思わなかった追っ手は、慌てて急ブレーキをかける。
ヒロは銃を取り出すと、運転席の窓を開けた。そして発煙筒の奏でた音の位置を凝視する。
ヒロ「・・・ ・・・」
わずかに見えた発煙筒に向けて・・・銃を撃った。わずか1発。その銃弾は発煙筒に命中すると、それは小さな爆発を起こして思い切り燃え上がった。
発煙筒には火薬が仕込まれていて、煙を出す原理は花火のそれと同じである。ヒロはそれを撃ち抜いて一気に火薬に火をつけたのだ。
立ち上る炎に、追っ手らは一瞬ひるみを見せる。
ヒロはその隙に逆送しながらトンネルを出て、反対車線に移ってトンネルを背に走り出した。
ヒロ「・・・ ・・・」
バックミラーを見た後、コネクタでリナの携帯と繋がれた自分の携帯画面を見る。
ヒロ「よし」
そしてDATA転送が済んだリナの携帯を、窓の外へ投げ捨てた。
(第33話へ続く)
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次回予告
何とか追っ手を振り切ったヒロ。
車を捨て、都内のネットカフェへリナと共に身を隠す。
その頃安田は、覆面男に気づかれぬよう尾行していた。
拉致された羽鳥魁斗の居所を突き止めるために・・・とある閉鎖された港にたどり着いた安田。
突如1台のバイクが現れ、思いもよらぬ行動をとった。
次回 「 第33話 次の一手 (2008年) 」
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