第26話 告 白(2008年)
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慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン2
「アマデウスの謎」
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前回までのあらすじ
2012年、女子大生リナの妹が誘拐された。
霊能力を持つ1つ下の後輩・慎吾を連れて実家へと戻るリナ。誘拐犯から1週間以内に1億円を用意しろと要求され、羽鳥邸にいた面々は不安になる。
話は・・・ 4年前の2008年。
リナの新しいピアノ講師、そして彼氏となるヒロ・ハーグリーブス。
リナの父親・魁斗が開発したセキュリティソフトを狙ったテロリストがいる。その情報を得たヒロは、相棒の安田と共に周辺を調べる。
リナは学校で覆面男らの襲撃を受けるが、ヒロが現れ窮地を脱する。しかし自宅に戻ると・・・リナの父親・魁斗が誘拐される場面を目撃、直後、羽鳥邸は爆破された。
警視庁から2人の捜査官が訪れ、捜査を開始。捜査官の1人・藤岡は、ヒロがこの誘拐事件に関わっているという。
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第26話 告 白(2008年)
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「う・・・」
男は目を覚ました。
「・・・ ・・・」
ひどい頭痛がし、視界がぐるぐると回っている。
(「何か・・・ 薬をうたれたか・・・?」)
ぼやけた視界で周りを見ると、自分がベッドの上で横になっている事を理解した。
狭い部屋の中にいるようだ。黒い眼鏡をかけ直したその男は、体を起こしゆっくりと立ち上がる。ひんやりとした感覚が裸足に伝わった。
(「・・・ ここは?」)
男の名は羽鳥魁斗。自分が社長を務める羽鳥コーポレーションで、とある電話を受けた。娘のリナに危険が迫っていると告げられ、魁斗はあわてて会社を出る。
会社を走り出たところで、何者かに拉致された。
魁斗「・・・ ・・・」
大柄な男に、無理矢理車へ押し込められた記憶がある。その後、何か薬物のようなものをうたれたのか・・・急に気分が悪くなり、気を失った。そして、今にいたるまでの記憶がない。
魁斗「・・・ ・・・」
周りを見渡すと、6畳ほどの小さな部屋の中にいるようだ。フローリングの床に簡易ベッド、そしてむき出しの様式トイレがあるだけの部屋。
(魁斗「ここはいったい・・・」)
部屋には出入り口があった。そこに歩いて行き、ドアノブに手をかけるが・・・びくともしない。今一度狭い部屋の中を見回すが・・・ 窓もなければ天井も頑丈そうだ。
出られる気配など全くないその部屋は・・・まるで監獄である。
魁斗「リナ・・・」
久しく目にしていない娘のことを気にしつつ、何かしら脱出法はないか・・・
魁斗は部屋のいたる所を触り始めた。
・・・ ・・・。
2008年12月6日(土)、午後7時半。羽鳥邸。
ヒロが誘拐犯からの電話を受けてから、12時間が経過した。
警視庁捜査第一課の藤岡二三弥は、爆破された羽鳥邸の1階で静かに立っていた。爆破で木っ端微塵になった窓ガラスは全て取り替えられ、寒い外気が邸内に入ってくる事はない。
藤岡「・・・ ・・・」
藤岡捜査官以外に警視庁から配備された警官が5名、羽鳥邸の外と内に配備されている。外では3名の警官が寒そうに巡回していた。
誘拐犯からの連絡があった場合、すぐに追跡できるよう逆探知機器を設置しているが・・・今の所出番はない。藤岡は今までの事情聴取の内容や、邸内で行われた鑑識の報告書に目を通していた。
警備主任の井上には直接羽鳥邸まで来てもらって話を聞けたが、特にめぼしい情報は得られなかった。警備員で主に魁斗やリナの運転手を務めている安田という男とは、連絡が取れないでいる。
安田はこの日休みのはずだったが・・・今なお行方不明。ヒロ同様、この件に関与している可能性が強いと藤岡はみていた。
ふと携帯が鳴った。
藤岡「はい・・・」
携帯の向こうからは大先輩の後藤の声が聞こえてくる。
後藤「午後10時にそちらへ行く。
今の所、鑑識などこちらは進展無しだ。そちらは?」
藤岡「こちらも特には・・・ 犯人からの連絡もないですし」
後藤「そうか。とりあえず10時まで頑張ってくれ。
休みがなく辛いだろうがな」
藤岡「俺は大丈夫です。ところであのヒロという男についてですが」
2人の捜査官が携帯でやりとりをしているその頃・・・
2階の奥の部屋に、リナとヒロがいた。リナはベッドにうつぶせになり、枕に顔を埋めている。
ヒロはリナの勉強机の前に座り、静かにリナを見つめていた。
ヒロ「・・・ ・・・」
昼過ぎからリナはずっとベッドの上にいる。父親の事を思い出しては泣き・・・ 泣いては父親の事を考えた。朝に見た・・・ナイフを首にあてられた父親の姿が脳裏から離れない。
時折ヒロに声をかけられるが・・・優しい彼氏の言葉よりも、父親への心配で、その声は頭に入ってこない。
ヒロ「 ・・・ ・・・ 」
リナを見つめながらも、全く連絡の取れない安田が気になる。安田を気にしつつも、何時間もリナを見つめ続けたヒロは独り言のように話し始めた。
ヒロ「いつか言わなければと思っていたが・・・」
リナ「・・・ ・・・」
ヒロ「俺はヨーロッパでピアニストをしているが・・・
もう1つ仕事をしているんだ」
リナが聞いているのか、聞いてないのかはわからない。
ヒロ「SISという諜報機関だ。ロンドンに本部があってね。
外務省管轄の立派な公的組織さ。
国内に関わるテロや武器の密輸入等の驚異に対して、情報を集める仕事だ」
覆面男らの襲撃を受けた時、リナに言おうとした事だ。
リナ「テロ?」
初めてリナが反応を見せる。枕に顔を埋めながら小さな声を発した。
ヒロ「あぁ、こういった諜報機関はどの国にもある。もちろん日本にもね」
リナが反応した事で、ヒロは少し笑みを浮かべた。
ヒロ「2001年アメリカで起きた同時多発テロ以降は・・・
どの国も諜報活動には力を入れている。
アメリカのCIAって聞いた事あるだろ?
それみたいなもんさ。イギリスはSISってわけ」
リナは数時間ぶりに顔を上げた。真っ赤に泣きはらした目が痛々しい。その表情を見たヒロは、一度部屋を出てすぐに戻ってくる。
そして濡れたハンカチをリナに渡した。
リナ「ありが・・・と・・・。でも、何でヒロ先生がそんな仕事を?」
目の周りにハンカチをあてながら、リナは質問する。
ヒロ「あぁ。例えば俺みたいに一流の音楽家や小説家・・・
いわゆる芸術活動家は・・・時折【情報】と直面する事がある」
リナ「・・・ ・・・」
リナは黙って耳を傾けた。
ヒロ「例えば、名のある政治家や富豪と呼ばれる連中と会う機会も多い。
彼等の中には、裏で武器を取り扱っていたり、麻薬が絡んでいたり・・・
稀にテロに関する情報を持っている事だってある。
名前は言えないが、有名な小説家や美術家にもSISのメンバーはいる」
リナはベッドの上で枕を抱きしめながら座り直した。
ヒロ「2005年に、ロンドンでも同時爆破テロがあってね。
犠牲者が50人以上も出た、アルカイダによる卑劣なテロだった。
だがSISにより未然に防がれたテロも多い。表には出てこないがね」
リナ「ヒロ先生がそんな仕事までしてたなんて・・・」
ヒロ「日本風に言えばお国のためってヤツさ。
日本だって、地下鉄サリン事件っていう恐ろしいテロがあったんだぜ」
リナ「聞いた事ある・・・」
ヒロ「1995年に起こったあのテロ事件は・・・
どの国のテロ対策テキストにも出てくる、世界的に有名なテロ事件だ。
なにせ世界初の毒ガステロだったからな」
リナ「な、なんでそんな話を私にするの?」
ヒロ「・・・ ・・・」
ヒロはしばらくリナを無言で見つめた。
ヒロ「 ・・・。 リナが・・・ 本当に好きだから・・・ 」
リナ「 ? 」
ヒロは意を決したように語り始める。
ヒロ「俺は・・・若い頃にミスターカイトの授業を受けた事がある」
リナ「前に言ってたわね・・・。
数字の表す神秘性がどうのこうのって・・・」
ヒロ「嘘はついてない。だが、ストレートに言うと・・・
彼の暗号理論の授業を受けていたんだ」
リナ「暗号理論?」
ヒロ「SIS側が、ミスターカイトに特別講義を要請したんだ。
当時彼はオクスフォードの教授で、世界的な整数論の第一人者。
そして暗号理論にも精通していた。
若い頃の俺は、暗号理論の基礎を彼から学んだんだ」
リナ「ヒロ先生が・・・ パパから暗号を学んだ・・・って事よね?」
ヒロ「あぁ、そうだ。暗号の世界も立派な数学。
ミスターカイトの授業はわかりやすくて、他の諜報員にも好評だったよ」
ヒロは笑って見せた。
リナ「パパが・・・ 諜報員に授業なんて・・・ 初めて聞く話だわ」
ヒロ「そりゃそうさ。家族とはいえ、機密事項にあたるからね、こういう事は」
リナ「機密事項 ・・・」
ヒロ「例えばインターネットだって、通信DATAのやりとりは・・・
数学の整数論を元にした暗号理論が駆使されている。
皆が思ってる以上に暗号ってのは身近な存在なのさ」
リナ「・・・ ・・・」
ヒロ「俺はミスターカイトから、それら整数論も基礎で学んだし・・・
ヴィジュネル暗号とか楕円曲線暗号なども教わった」
リナ「 ? 」
リナには何のことだかわからない。
ヒロ「今の時代、情報のやりとりもネットで行うのが主流。
例えそれが麻薬の密売だとか、武器の密輸だとかでも・・・
ネットにはそういった情報が稀にある」
リナ「そんな・・・ ネットにそんな事書いたらすぐ警察に捕まっちゃう」
ヒロ「だから暗号を使うのさ。ミスターカイトは2年前・・・
SISにテロ攻撃の情報がネットにあると連絡してくれた。
ステガノグラフィー・・・と言ってもわからないか」
リナ「 ? 」
ヒロ「ある人物のブログの写真・・・
画像ファイルの一部にテロ情報を暗号化した部分を、彼を見つけたんだ。
ミスターカイトのおかげで、大規模なテロ攻撃を未然に防ぐ事が出来た」
リナ「パパのおかげで・・・テロ攻撃を防いだ? 初めて聞く話だわ」
ヒロ「日本には【黙して語らず】って言葉がある。まさにそれだ。
立派な人物だよ、リナのパパは・・・ 俺は心から尊敬している」
今朝の事を思い出すと涙があふれそうになるが・・・ヒロが父の事を褒めてくれた事は素直に嬉しいリナ。
ヒロ「それで・・・ 君に言わなければならない事がある」
リナ「何・・・?」
ヒロ「ミスターカイトが誘拐されたから言うが・・・
今から俺が話す事は他言無用だ。いいか?」
リナは静かに頷いた。
ヒロ「半年前、ミスターカイトはあるセキュリティソフトを完成させた。
日本時間のクリスマス0時ちょうど、世界同時販売される事になっている」
リナ「それは知ってる。ママがイギリス行ったのもそのためよ」
ヒロ「彼はそのセキュリティソフトにおいて・・・
ある数学理論の、アルゴリズムを使っていると思われる」
リナはゴクリと唾を飲み込む。
ヒロ「そのアルゴリズムは、数学者が長年追い求めてきたもので・・・
まだ誰もそれを確立したという話はない・・・ミスターカイト以外はね」
リナ「誰も確立してない・・・アルゴリズム? それをパパが?」
リナはアルゴリズムという言葉の意味を、いまいち理解出来ていない。
ヒロ「あぁ。ミスターカイトは、それに関して・・・
ノーコメントを貫いている。
だがもし、彼がそのアルゴリズムを確立していて・・・
悪意のある者が、それを使用したら・・・」
リナ「したら?」
ヒロ「ネットの世界は崩壊する。いや・・・」
リナ「 ? 」
ヒロ「俺たちの住む現実世界ですら・・・
崩壊してしまうだろう・・・」
リナ「え!?」
(第27話へ続く)
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次回予告
魁斗は、マスターと呼ばれる男と顔を合わせた。
男は、魁斗の開発したアルゴリズムを要求する。
そしてそれを渡さなければ・・・再びリナを狙うと脅迫した。
次回 「 第27話 リーマン予想(2008年) 」
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