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アマデウスの謎  作者: 伊吹 由
第2章 リナの過去
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第27話  リーマン予想(2008年)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


  慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン2


       「アマデウスの謎」 


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

前回までのあらすじ


2012年、女子大生リナの妹が誘拐された。


霊能力を持つ1つ下の後輩・慎吾を連れて実家へと戻るリナ。誘拐犯から1週間以内に1億円を用意しろと要求され、羽鳥邸にいた面々は不安になる。


話は・・・ 4年前の2008年。

リナの新しいピアノ講師、そして彼氏となるヒロ・ハーグリーブス。


リナの父親・魁斗(かいと)が開発したセキュリティソフトを狙ったテロリストがいる。その情報を得たヒロは、相棒の安田と共に周辺を調べる。


リナは学校で覆面男らの襲撃を受けるが、ヒロが現れ窮地を脱する。しかし自宅に戻ると・・・リナの父親・魁斗が誘拐される場面を目撃、直後、羽鳥邸は爆破された。


ヒロは魁斗を守るために羽鳥家へやってきた・・・イギリスの諜報員であることをリナに打ち明けた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


  第27話  リーマン予想(2008年)


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

魁斗「・・・ ・・・」


羽鳥魁斗は・・・薄明かりのみが照らされる、6畳程の密室に監禁されている。


部屋に時計はないし、身につけていた腕時計や携帯など、時間を知らせる物は全てない状態だ。窓すらないこの部屋では・・・今が何月何日の何時なのかを知ることすら出来ない。


魁斗は部屋のいたる所をチェックしたが・・・とても脱出できるような部屋ではなかった。


魁斗「・・・ ・・・」


目が覚めて何時間が経っただろうか・・・


ベッドの上でそう考えていたその時、突然密室のドアが大きな音をたてて開いた。


ギィィイイ・・・


天井を見つめていた魁斗は飛び上がり、ドアの方に視線を移す。身長が1m90cmはあろうかという、筋肉むきむきの大男が部屋に入ってきた。


顔には覆面をつけ、迷彩柄の軍服を着用。両手に大きな銃を1つ持っている。腰のベルトにはアーミーナイフと手榴弾まで見えた。


(魁斗「軍人・・・?」)


自分がこの先どうなるかという恐怖心と戦いながらも・・・少しでも誘拐した連中の情報を得ようと、目と頭を必死に回転させる。


覆面男「出ろ」


言葉少なに、重低音の声を響かせた。魁斗は覆面男の前を通り、恐る恐る部屋を出る。部屋を出ると・・・2人目の覆面男が小さな銃を片手に待機していた。


部屋の外は細い廊下があり、2人めの覆面男の指示で右方向に歩(ほ)を進めて行く。廊下に窓はあるものの、全て閉じられ光は差し込まない。廊下に灯りを灯しているのは、天井にある蛍光灯だ。


(魁斗「・・・ どこかの・・・ 地下か・・・?」)


魁斗はとある部屋の前で止まるよう指示された。


覆面男「入れ。マスターがいる」


覆面男はドアを開け、中に入るよう促(うなが)す。


(魁斗「マスター?」)


魁斗はゆっくりと部屋の中に入っていった。と、同時に覆面男は部屋の外からドアを閉める。


一瞬ドアの方に振り返った魁斗。再び部屋の奥を見ると・・・


テーブルの向こうに、椅子に座った男が1人いた。


男「かけたまえ」


スーツ姿の男は、黒い大きめのサングラスに白いマスクをしている。マスク越しに、聞き取りづらい声をかけてきた。


(魁斗「顔をさらす気は無い・・・ って事か・・・」)


先ほどの軍人のような筋肉質の男とは違い、やや細身。


魁斗「・・・ ・・・」


男から視線をはずし、部屋の中を見渡すと、部屋は20畳程の広さで窓はない。小さなテーブルをはさんで・・・魁斗はサングラスの男と、向かい合うように椅子に座った。


男「手荒な真似して失礼だった。

   あなたとは是非とも話をしてみたかった・・・羽鳥教授」


魁斗は黙って男を見つめる。白髪のない真っ黒な黒髪と顔の輪郭から・・・男は若そうに見える。そして、サングラスとマスクに覆われてるとはいえ、どう見てもアジア人・・・いや、日本人に見える。


(魁斗「言葉のなまりもない。純粋な日本人か、日本育ちのアジア人か・・・?」)


男はテーブルに肘をつくと、マスク越しに声をかけてきた。


男「単刀直入に言おう。私と手を組め。悪いようにはしない」


魁斗は静かに口を開く。


魁斗「目的は・・・?」


男「プロジェクト・ノア」


男は即答した。


男「意味は・・・ わかっているはずだ」


魁斗「・・・ ・・・」


眉をひそめる魁斗は、はっきりと彼の言葉の意味を理解している。少し考えた魁斗は、男に質問をした。


魁斗「どこのロッジだ?」


マスク越しだが、一瞬、男の表情が固まったように見えた。


男「私が・・・ フリーメイソンだと?」


魁斗「覆面男がマスターと呼んでいた」


男「なるほど。だがフリーメイソンとは関係無い。

   何せこちらの組織はあまりにも小規模でな」


魁斗「ではどこの国の者だ?」


男「ふふふ・・・ さすがはIQ180と言われる教授だ。

   こちらの情報を引き出す誘導の流れは見事。


   だがあなたの命は我々の手中にある。それを忘れてもらっては困る」


サングラスとマスク越しでは、男の表情を察する事は出来ない。


魁斗「・・・ ・・・。いいだろう、では質問を変える。

    何故私を誘拐した?」


男「時間が惜しいので、はっきり言う事にしよう。

   あなたの開発したソフト・・・ そのアルゴリズムが欲しい」


魁斗「何のために?」


男「言ったろ? ノアの箱船に乗るためさ。あなたは選ばれし者だ。

   私と手を組めば・・・ あなたは寿命を全うできる」


魁斗は眉間にしわを寄せたまま、男を睨み付けた。


魁斗「ふん・・・。

    テロを起こし、世界を破滅させ・・・そして生き残るつもりか」


それを聞いた男は、マスク越しに笑い出した。


男「ははは。さすがの教授でも、未来の事はわからないらしいな。

   この地球にもうすぐ・・・何が起ころうとしてるかをな」


魁斗「未来・・・?」


男「私と手を組め。

   そうすれば今から・・・4年後に起こる新世界誕生の話をしてやる」


魁斗「・・・ ・・・」


しばらく沈黙の時間が流れた。


魁斗「ソフトはやる。勝手に解析するがいい」


男「ふふふ・・・そうはいかない。

   すでにあなたの開発したソフトは入手済みだ。


   だが、あのアルゴリズムを紐解(ひもと)くことはできなかった・・・」


男は両手を広げ、お手上げというジェスチャーを見せた。


男「わずか4.7G(ギガ)のディスクに・・・

   あなた以外、誰も踏み込めないプログラムを打ち込むとはな。


   まさに芸術的だよ・・・ あの作品は」


男は自分の手前にある引き出しをひく。中から10cm程の厚みのファイルを取り出し、静かにテーブルの上に置いた。ゆっくりとページをめくると、男はそれに目を通す。


男「これはあなたのファイルだ。

   ハイスクールはアメリカなんだな。しかも飛び級で進学している。


   わずか23歳でハーバードのドクター(博士課程)を取得。分野は数学。

   IQ180の天才と騒がれる・・・か・・・」


そのファイルには、羽鳥魁斗に関するあらゆる情報が詳細に書かれていた。


男「アシスタントプロフェッサー(助教授)としては異例の若さで、MITに就職。

   すぐに教授へ昇進。


   以後MIT、東京大学、オクスフォードと渡り歩いて研究・・・

   すごい経歴だな」


男はファイルのページをパラパラとめくりながら、語り続ける。


男「あなたの出した数学の論文は、世界的に高い評価を受け・・・

   あなた自身、各国に飛び回り、共同研究も多数取り組んでいる。


   東大に赴任した際、物理学助教授だった長谷川瞳と知り合う。

   1991年、あなたが27歳の時、彼女と結婚。2女をもうける・・・」


魁斗「・・・ ・・・」


男「長谷川瞳は結婚と同時に、大学を退(しりぞ)き専業主婦へ。

   寿(ことぶき)退社だな。


   そしてあなたは、東大からオクスフォードへ単身赴任・・・

   子供2人と妻を日本に残してな」


魁斗は男の言うことを黙って聞いていた。


男「さて・・・ここで、不可思議な事が起こる。

   あなたは2001年・・・突如大学を辞め、日本に帰国。


   ソフトウェア会社・羽鳥コーポレーションを設立。

   妻を同社の副社長に据えている」


男は静かにファイルを閉じる。そしてサングラスの奥から魁斗を見つめた後、静かに口を開いた。


男「私の推理が正しければ・・・

   あなたはオクスフォードで、リーマン予想の証明に成功した・・・」


魁斗「・・・ ・・・」


しばらく口を噤(つぐ)んでいた魁斗は、首を横に振った。


魁斗「妻と娘のそばにいたかっただけだ。

    妻と共に成長する娘を見届けるため、日本に戻った」


男「仮にそうだとしよう。しかしあなた程の経歴だ。

   日本でも教授職はあったはずだ。数学会から消える必要はあるまい」


黒い眼鏡をかけ直した魁斗。


魁斗「数学の研究では、さほど金にはならない。

    妻と娘を幸せに養うため・・・


    会社を設立し、金儲けに走ったまでだ」


男「ふん・・・あなたの言い訳はどうでもいい。私の仮説はこうだ。

   あなたはイギリスにいた時、リーマン予想を証明する事に成功した。


   その過程の中で・・・素数分布に関する重要な事実を見つけた・・・」


魁斗「違う」


魁斗は即答した。しかし男は魁斗を無視して、語り続ける。


男「あなたもよくご存じの通り・・・

   インターネットセキュリティは、巨大な素数なしではありえない。


   もしも巨数から、すぐに素因数を特定できる手法があれば・・・ 

   それはネット世界が、無秩序になる事を意味する」


魁斗「・・・ ・・・」


男「何せ、巨大な素数こそがネット世界の秩序を保つ鍵だからな。

   リーマン予想の証明は、数学会長年の夢を叶(かな)えると同時に・・・


   ネット世界の崩壊も意味する」


男は席を立ち、さらに話を続けた。


男「今や金融関係から原子炉の制御まで、ネットを通して行われる時代。

   ネット世界の崩壊は、我々の現実世界の崩壊にもつながりかねない。


   もし、素因数を瞬時に特定するアルゴリズムが世に広まれば・・・

   悪意ある連中が、大規模なサイバーテロを起こす可能性も十分ある」


魁斗はゴクリと唾を飲み込んだ。


男「それを危惧(きぐ)したあなたは・・・ 

   逆にリーマン予想を、セキュリティとして応用する事を考えた。


   それゆえ羽鳥コーポレーション、通称WBCを興(おこ)したってわけさ」


魁斗は静かに口を開く。


魁斗「リーマン予想は・・・

    多くの数学者が150年以上挑戦して、未だに誰も証明できていない。


    私ごときで、証明は無理だ・・・」


男をじっと睨み付けながら、続ける。


魁斗「会社のおかげで・・・家族を裕福に養えるだけの金を手に入れた。

    私の目的は達成さ」


男「ふ・・・。嘘がヘタだな。あまりにも不自然な経歴に加え・・・

   ソフトすら解析させない芸術的プログラム。


   私は確信している。あなたがリーマン予想を、証明した・・・

   人類最初の人物であるとな」


魁斗「ち、違う!」


男「アインシュタインは・・・

   自分の研究が、日本に原爆を落とす事に繋がるとは考えていなかった。


   リーマンは19世紀の人間。まさか己(おのれ)の研究が・・・

   150年後の未来の世界を、崩壊に導くとは考えもしなかっただろう」


魁斗「何が言いたい・・・?」


男「あなたの頭脳を持ってすれば・・・ 世界を変えられる。

   私と手を組むんだ。そして新世界を作ろうじゃないか」


魁斗「・・・ ・・・」


しばらく無言を貫いた魁斗。やがて静かに口を開いた。


魁斗「量子コンピュータが出来れば、巨数の素因数分解も現実的時間内で出来る。

    素因数分解は、ナップサックとは違うからな・・・」


※ 量子コンピュータ 

   量子ビットによる演算で、今のPCよりも遙かに高い計算能力を誇る。

   今のPCが1億年必要とする計算を、数秒で計算する事が出来る。


※ ナップサック(問題)

   量子コンピュータを用いても、現実的な時間で解を得られない問題の1つ。

   ただし【擬多項式時間アルゴリズム】により、【ほぼ】最適解は得られる。 


男「ふん。量子コンピュータが実現化するのは、まだまだ先の話。

   私があなたのアルゴリズムを欲しているのは、【今】だ。


   今一度言う。私と手を組み、新世界を作るんだ」


魁斗「・・・ 断ったら?」


男は即答する。


男「あなたは家族を1人失う」


サングラスにマスクで、男の表情はわからない。


男「あなたは知らないだろうが・・・。

   羽鳥邸は今朝、爆弾により1階が半壊した」


魁斗「何!?」


男「けが人はいない。娘の優秀なボディガードのおかげでな」


(魁斗「ヒロが・・・?」)


男「本当はここに、娘も座っている予定だったが・・・

   そのボディガードが、あんたの娘を守り通したよ」


(魁斗「リナも危険な目に!?」)


男「私は目的のためなら人も殺(あや)める。

  何故なら、それが人類のためだと思っているからだ」


魁斗「・・・ ・・・」


男が嘘をついているようには、聞こえない。


男「返事は急がないが、悠長(ゆうちょう)に待つ気もない。24時間やる。

   明日の同時刻にまた会おう。その間ゆっくり考えるんだな」


そういうと男はテーブルの上のボタンを押した。ブーッという合図で、部屋の外に待機していた覆面男が中に入ってくる。


男「24時間後の返答次第では・・・ 先ほど言った通りだ。

   言っておくが、私はあなたの家族に手をかける事を望んでいない」


覆面男は魁斗の左腕を抱えてて立ち上がらせ、部屋の出口へと向かわせた。魁斗の背中から、男の声が聞こえた。


男「部屋に戻れば食事が用意されている。

   薬物等は入ってないから安心して食べるがいい。


   大事なその頭脳を壊すわけにはいかないからな」


魁斗「・・・ ・・・」


魁斗は覆面男に見張られながら、再び元の狭い部屋へと連れ戻された。



・・・ ・・・。


2008年12月6日(土)、午後7時41分。羽鳥邸、リナの部屋。


リナ「そ、そんな・・・

    そのアルゴリズムとやらで、現実世界が崩壊するの?」


ヒロ「する! だからミスターカイトは、アルゴリズムを悪用されないよう・・・

    逆にそのアルゴリズムを使って、セキュリティソフトを作ったんだ。


    最高の武器は、最高の防具にもなるってわけさ」


リナ「パパは・・・ そんなにすごいソフトを・・・?」


ヒロ「あぁ。そして今から半年前になるが・・・

    そのアルゴリズムを狙っているテロリストがいるという情報が入った。


    俺はSIS長官に直接頼み込んで、この件を調査する事になった」


リナ「え?」


目を丸くするリナ。


リナ「で、でもSISって、イギリスに驚異となるものについて調べる機関でしょ?

    なんで日本のパパを?」

    

ヒロ「この件はミスターカイトだけでなく、世界を驚異に陥れかねない事態だ。

    長官もOKしてくれたよ。だから俺は・・・」


ヒロはリナから視線をはずした。


ヒロ「俺はそのテロリストについて調るため・・・

    羽鳥邸に来たんだ・・・」


リナ「えっ・・・」


一瞬、真っ白になるリナ。


リナ「じゃ・・・じゃぁ、私のピアノの先生ってのは・・・ 嘘!?」


ヒロは再びリナを見つめた。


ヒロ「落ち着いてくれ・・・ ちゃんと話すから。

    俺はミスターカイトに・・・


    テロリストに狙われている可能性があると、ちゃんと伝えてある。

    そしてテロ組織を調べあげると共に、羽鳥家の警備を申し入れたんだ」


リナ「・・・ ・・・」


ヒロ「イギリスにいるリナの母親や妹も、SISが警護している。

    ミスターカイトにも警護は手配していたんだ。


    そして俺は・・・リナの警護担当だった」


その言葉を聞いた瞬間・・・ 


リナ「待って・・・ じゃぁ、私の彼氏になったのは・・・・?」


リナの目に、涙が浮かんだ。


ヒロ「あぁ・・・ 正直に言うと、ホントは警護が目的だった。

    でも聞いてくれ! 俺は君を・・・」


ヒロはリナの瞳を真っ直ぐ見つめる。


ヒロ「俺は君の事を・・・ 好きになってしまった。本当だ!

    15歳の少女に惚れるなんて・・・ 馬鹿な男だと思うけど・・・」


リナも真っ直ぐにヒロの目を見つめている。しかし、その目からはボロボロと涙がこぼれてきた。


ヒロ「改めて告白するよ。俺は君が好きだ・・・ リナの彼氏として・・・

    認めて欲しい」


混乱するリナは・・・あふれる涙を止める事が出来ない。


ヒロ「ミスターカイトを全力で救出する事を誓う!

    彼には大きな恩もある。今、ここで返さねばと思っている!」


小さな笑顔を浮かべたヒロは・・・ ただ優しい目でリナを見つめた。


リナ「・・・ ・・・」


リナの頭の中は混乱し続けている。ついさっきまで、お互い好き合っている恋人と疑わなかった。昨夜は危険な目にあった自分を、彼氏は守ってくれたと信じていた。しかし・・・


(リナ「私を守ったのは・・・ 仕事だから・・・?」)


ヒロ「もし君の事が好きでなければ・・・ 何も言わず告白だってしない。

    本当に・・・ リナの事が好きなんだ。

    

    だから・・・・ 俺の正体もはっきりと明かした」


(リナ「・・・ わからない・・・」)


今朝父親が誘拐され、家が爆破され・・・そして今、彼氏と思っていたヒロは・・・ テロリストから羽鳥家を守るために来たという。


恋人として、自分と付き合っていたと思っていたが・・・


(リナ「でも、ヒロ先生は・・・

     私を好きで、付き合ったわけじゃない・・・?


     でも今は本当に好きだと言ってくれている・・・」)


留まる事を知らない涙で、ヒロの姿が見えない。


リナ「わけわかんない・・・」


リナはさらに大粒の涙をボロボロとこぼした。何をどう理解していいのかわからないし、自分の感情がどうなっているのかもわからない。何故涙をこぼしているのかすらも・・・


ヒロは力強い声でリナに声をかけた。


ヒロ「混乱するのは当然さ。ただ1つ確かなことは・・・

    俺は正式に君の彼氏になりたいんだ。リナが好きだから。


    リナは・・・ リナは俺の事が好きかどうかだけを考えればいい」


リナは枕に顔を埋(うず)めた。頭の中でいろいろな思いが交錯する。




  ヒロ先生の事が好きかって?   好きに決まってるじゃない・・・


    最初彼氏になった時は・・・ 好きじゃなかったの?


 でも今は私を好きだと言ってくれている・・・   本当?


   パパはどうなるの?  

 

        パパにも警護がついていたのに何故誘拐されたの?


 パパの警護は誰?  何してたの? 

   

       ヒロ先生がパパを助けてくれるの?


  ピアノの先生は嘘・・・  テロリストから私達を守るため・・・

 

     それでも私はヒロ先生の事が好きなの?


   多分好き・・・ 


     私を守ってくれたじゃない・・・ 命がけで・・・


 仕事だったから?  でも死にかけたのよ、ヒロ先生も・・・


        好きでもない人を、あんな風にして守れる?


  パパに恩があるから?  私を好きだから・・・?  




・・・ ・・・。



突然目覚まし時計が鳴った。時計はAM7:30をさしている。


いつの間にか寝ていたリナは、ゆっくりと目覚まし時計のアラームを止めた。ふと横を見ると・・・ 


ヒロが椅子に座って、こちらを笑顔で見つめていた。


ヒロ「おはよう。まぁ金曜日から土曜日にかけてはほとんど徹夜だったからね。

    よく眠れたかい?」


リナは12時間近くぐっすりと寝ていた。よく寝たせいか頭も体も・・・ そして心もスッキリした気分になっていた。


リナ「うん。おはよう・・・」


リナも笑顔でヒロに挨拶をした。


リナ「ずっと・・・ そこにいたの?」


ヒロ「まぁね。2日連続、2人で朝を迎えた事になる。

    でも俺は、君の彼氏として朝を迎えられたかな?」


リナはヒロから視線をはずし、窓の方を見る。


リナ「・・・ ・・・」


朝日が、カーテンの隙間から差し込んでいる。


(リナ「12時間も・・・ずっと側にいてくれた・・・」)


昨日のような混乱はない。


リナ「ねぇ、ヒロ先生・・・」


窓の外を見ながらリナが呟いた。


ヒロ「ん?」


再び視線をヒロに合わせたリナ。


リナ「キスして」


ヒロ「え・・・?」




             (第28話へ続く)

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次回予告


キスを迫られたヒロ。


そして事件は・・・


2人の思いも寄らぬ方向へと動いていく。


次回 「 第28話 ファーストキス(2008年) 」

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