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アマデウスの謎  作者: 伊吹 由
第3章 ゲームの行方
100/147

第99話  コンタクト

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


  慎吾のスピリチュアル事件簿 シーズン2


       「アマデウスの謎」 


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

前回までのあらすじ


2008年。

リナ、そして父親の魁斗かいとが、謎の組織に狙われた。


イギリス諜報機関に属するヒロは、リナを守るために命を落とす。さらに、リナの父親・魁斗も遺体で発見された。


2012年、女子大生となったリナの携帯に「妹を誘拐した」という電話が届く。霊能力を持つ1つ下の後輩、慎吾と共に誘拐犯を追うリナ。


2人は黒幕が警視庁捜査官の藤岡である事を突きとめるが、彼等のアジトで捕まってしまう。藤岡はリナに、ウィーン大学のサーバに侵入すれば、家族を解放するともちかけた。


一方慎吾は、藤岡に自白剤を注射された直後に心停止してしまう。


リナは父親のセキュリティをついに突破した後、藤岡から地球上の99.999%の人間が死ぬであろうと告げられた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


   第99話  コンタクト


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

2012年12月20日(木)、20時54分。目黒基地内。



【このメールが良識ある人に解読される事を祈る】


【私は羽鳥魁斗 中国のスパイに拉致されていた】


【おそらく日本では死亡したと報道されているだろう】


【私は国際的な、大規模なテロに関する情報を持っている】


【ネット世界は、テログループ【Unknown】に監視されている】


【それゆえ、ネットで彼等についての情報のやりとりは出来ない】


【彼等は敵とみなした者は、確実に殺しにくるからだ】


【私は彼等の監視が及ばない領域を用意した】


【その領域は256文字のパスワードを要求するサイト】


【サイト右下に、文字を打ち込める場所がある】


【【hadori】とうてば、私とコンタクトをとれる】


【そのサイトは、けして外部からは監視できない】


【暗号解読に成功した者、そして256文字のパスワードを知る者】


【早急に連絡を 羽鳥魁斗】



リナ「・・・ ・・・」


暗号を全て解読したリナ。このメールがリナの母親に届いたのは、10日ほど前。


(リナ「パパが・・・ 生きている・・・?」)


しかしこの解読した内容が、本当に父親からのメッセージなのかは・・・


(リナ「まだわからない。

     でも、ハドリアンズ・ウォールをくぐり抜けたメールなら・・・


     パパの可能性は十分ある・・・」)


リナは監視カメラを気にしながら・・・


再びパソコンの前に座り、ヒロが残したサイトのアドレスを直接打ち込む。


Enterを押すと・・・


(リナ「つ、つながった・・・」)


目黒基地内のサーバ、そして2つの大学のサイトしか行き来できないよう設定されていたはずだが・・・


リナ「・・・ ・・・」


父親が生きている可能性が高くなったと感じるリナ。




          PASS-WORD 


【 ■■■■ ■■■■ ■■■■ ■■■■ 】

【 ■■■■ ■■■■ ■■■■ ■■■■ 】

【 ■■■■ ■■■■ ■■■■ ■■■■ 】

【 ■■■■ ■■■■ ■■■■ ■■■■ 】

【 ■■■■ ■■■■ ■■■■ ■■■■ 】

【 ■■■■ ■■■■ ■■■■ ■■■■ 】

【 ■■■■ ■■■■ ■■■■ ■■■■ 】

【 ■■■■ ■■■■ ■■■■ ■■■■ 】

【 ■■■■ ■■■■ ■■■■ ■■■■ 】

【 ■■■■ ■■■■ ■■■■ ■■■■ 】

【 ■■■■ ■■■■ ■■■■ ■■■■ 】

【 ■■■■ ■■■■ ■■■■ ■■■■ 】

【 ■■■■ ■■■■ ■■■■ ■■■■ 】

【 ■■■■ ■■■■ ■■■■ ■■■■ 】

【 ■■■■ ■■■■ ■■■■ ■■■■ 】

【 ■■■■ ■■■■ ■■■■ ■■■■ 】



迷うことなく高速でキーボードを叩き・・・ 覚えていたパスワードを入力、そしてサイトに侵入した。


(リナ「・・・ ここね・・・」)


メッセージの通り、サイト下部に文字を打ち込める場所がある。


【hadori】


リナ「・・・ ・・・」


文字を打ち込んで、Enterキーを押した。



・・・ ・・・。


同時刻。都内某ホテルの一室。


男の携帯電話の着信メロディが鳴り響く。


モーツァルトの【K.545】だ。


男「 !? 」


男はすぐに携帯を手に取り、内容を確認した。


男「・・・ ・・・」


そしてテーブルの上にある、すでに起動しているパソコンの前に慌てて座る。軽くキーボードを叩くと



          PASS-WORD 


【 ■■■■ ■■■■ ■■■■ ■■■■ 】

【 ■■■■ ■■■■ ■■■■ ■■■■ 】

【 ■■■■ ■■■■ ■■■■ ■■■■ 】

【 ■■■■ ■■■■ ■■■■ ■■■■ 】

【 ■■■■ ■■■■ ■■■■ ■■■■ 】

【 ■■■■ ■■■■ ■■■■ ■■■■ 】

【 ■■■■ ■■■■ ■■■■ ■■■■ 】

【 ■■■■ ■■■■ ■■■■ ■■■■ 】

【 ■■■■ ■■■■ ■■■■ ■■■■ 】

【 ■■■■ ■■■■ ■■■■ ■■■■ 】

【 ■■■■ ■■■■ ■■■■ ■■■■ 】

【 ■■■■ ■■■■ ■■■■ ■■■■ 】

【 ■■■■ ■■■■ ■■■■ ■■■■ 】

【 ■■■■ ■■■■ ■■■■ ■■■■ 】

【 ■■■■ ■■■■ ■■■■ ■■■■ 】

【 ■■■■ ■■■■ ■■■■ ■■■■ 】


パスワード入力画面が現れた。そしてリナ同様、高速でキーボードをうちこみ・・・


サイトにログインした。


男「・・・ ・・・」



・・・ ・・・。


リナ「・・・ ・・・」


30秒程、画面を見つめていたが・・・特に動きはない。


(リナ「・・・ ・・・ お願い・・・」)


リナにとって残された最後の希望。


(リナ「・・・ お願いよ!!」)


たった1分が1時間にも感じられる。希望と絶望の狭間で、リナの心と体は揺れ動いていた。


(リナ「もう、他に・・・頼れるものがないの・・」)


その時・・・ 例の文字を打ち込んだ場所に、文字が現れた。


【 who are you? 】


チャットのように、誰かが文字を入力しているのだろう。


リナ「!?」


何者かが・・・ ヒロのサイトを通して、コンタクトを取ってきた事は間違いない。


【 I'm Rina. Are You papa? 】


リナもチャットするがごとく文字を打ち込み・・・


リナ「・・・ ・・・」


Enterキーを押せない。


(リナ「も、もし・・・ 向こうにいる相手が、敵だったら・・・?」)


その時は全てが終わる。


リナ「・・・ ・・・」


しばらく固まっていたが・・・ 


(リナ「もう・・・ 頼れるのは、他にはないの!」)


Enterキーを押した。


リナ「・・・ ・・・」


ドキドキしながら・・・ 相手からのメッセージを待つ。数秒ほどして、すぐにそれは返ってきた。


【 If a=2 , b=(3^10)*109 , c=a+b then what is log_r(abc) c ?  】


リナ「・・・ ・・・」


突如相手は数式を返してきたが・・・ それを見て、リナは涙をこぼした。


リナ「パパ・・・」


前日、藤岡も数式をリナに提示したが・・・


リナはこの数式が藤岡でなく、父親が提示している事を確信する。





子供の頃・・・


父親の魁斗は【abc-hit】に関する数学の話を、よく小学生の娘・リナにしていた。


簡単な素因数分解さえ出来れば、【abc-hit】を理解するのは難しくない。フェルマーの最終定理や、ゴールドバッハの予想のように。


c=a+b とした時、a,b,cの素因数を全て1つずつ掛け合わせたものを、r(abc)とおく。


a=2 , b=3 → c=5 , r(abc) = 2・3・5 = 30


a=4 , b=6 → c=10 , r(abc) = 2・3・5 = 30

(a,b,cを素因数分解した時にでてくる、2.3.5を1回ずつかける)


a=8 , b=7 → c=15 , r(abc) = 2・7・3・5 = 210


ほとんどの組合せは、r(abc)>c となるが、まれに r(abc)<c を満たす組合せがある。


a=1 , b=8 → c=9 , r(abc) = 2・3 = 6 < c

a=1 , b=63 → c=64 , r(abc) = 3・7・2 = 42 < c

a=32 , b=49 → c=81 , r(abc) = 2・7・3 = 42 < c


このような a,b,c の組を【abc-hit】という。スーパーコンピュータの計算によれば、c<5000 を満たすような a,b,c の組合せは約4億組もあるが、【abc-hit】の組合せは、わずか276個しかない事が知られている。


そして【abc-hit】に関し、【c<r(abc)^2】が成り立つと推定されている。現在において誰も証明しておらず、【abc予想】と言われる。これを証明すれば、かの有名なフェルマーの定理の別証をわずか1ページで与えられる事でも有名な予想である。



・・・ ・・・。


2003年、某日。リナが10歳の時。


魁斗「な? この【abc-hit】は選ばれた組なんだ。すごいだろ?」


羽鳥邸、応接室で娘に語りかける父の姿があった。


リナ「パパ、またその話? そんなの興味ないよ・・・」


TVの歌番組を見ながら、父親の話には興味なさそうな小学生のリナ。その娘を無視して、父親は笑いながら語りを続ける。


魁斗「まぁまぁ。今から数年前、フェルマーの最終定理が・・・

     ワイルズという数学者によって証明された。


     これを証明するのに、実に多くの数学者が関わり・・・

     350年近い時間をかけ、ようやく証明された大定理だ!」


リナ「その話も、何度も聞いたわよ・・・」


魁斗「この【abc予想】が証明出来たら・・・

    フェルマーの定理を、1ページで証明出来るんだぞ!」


リナ「ふ~ん・・・」


その話も何度も聞いていた。


魁斗「未解決のBeal予想も証明出来る!

     Beal予想は、10万ドルの懸賞金がついてる大定理だぞ?」


リナ「だから・・・?」


魁斗「いいか? 数学の世界には【God's Number】・・・

     すなわち【神の数字】とよばれるものが、いくつかある」


リナ「神の・・・ 数字?」


魁斗「例えば、ルービックキューブを6面完成させる最低手順は・・・

     現在、24手以下と言われている(※2003年現在)。


     すなわちルービックキューブの【God's Number】は24以下って事さ。

     もっとも私は、22か20だと思っているがな」


※2008年、22手以下。2010年に20手が神の数字と証明された。


リナ「ふ~ん・・・」


魁斗「【abc予想】にも神の数字がある。

     【c<r(abc)^k】を満たす、最高の指数は・・・


     今の所1.62991だ。

     スーパーコンピュータを用いても、2より大きい反例はない」


リナ「・・・ ・・・」


話が難しくなってきたため、眠気が出てきたリナ。あくびをする娘を無視して、魁斗はさらに語る。


魁斗「これから先、もっと優秀なスーパーコンピュータが登場すれば・・・

     この神の数字はもう少し高くなるかもしれない。


     だが、【2】を超える反例が出なければ・・・

     あらゆる未解決問題が一気に解決する! すごい予想だ!」


リナ「・・・ ・・・」




・・・ ・・・。



【 If a=2 , b=(3^10)*109 , c=a+b then what is log_r(abc) c ?  】


(リナ「私だと・・・ 確認している・・・」)


子供の頃に話していた事を聞いている。すなわちこの数式の問いに答えることが・・・ 娘である事の証明になる。


コンタクトを取っている相手が父だと確信したリナは


【 1.62991 】


何度も父親に聞かされた数字を入力し、相手に送信した。


リナ「・・・ これで・・・」


返事はすぐに返ってきた。


【 Rina! Tell me where you are! I come and help you soon! 】

(リナ! どこにいるか教えてくれ! すぐ、助けに行く!)


リナ「・・・ ・・・」


この瞬間、お互いが親子として認識した羽鳥リナ、そして父親の魁斗。


リナ「パパ・・・」


感傷に浸ったのも束の間。リナは藤岡という男に捕らえられ、目黒基地の地下に連れられた事、そしてボーイフレンドを演じる慎吾が藤岡に殺されたかもしれないと伝えた。



魁斗は向こう側から、リナのPCに侵入。メディカルモニタを取り付けられている慎吾の様子をチェックした。それを見て、おそらく自分の調合した薬を飲んだのだろうとリナに伝える。


その薬は20時間前後心臓を止める薬であるが、あくまでも仮死状態にするだけ。魁斗が中国にある地下施設から脱出するために調合したものだ。


詳細は後で話すと伝えた魁斗は、慎吾と雛子を連れて無事に目黒基地を出るための作戦をリナに与えた。


それは・・・慎吾の心臓が正常に機能するであろう21日午前12時半に決行。


まずは雛子を保護し、次に慎吾を助ける。そしてリナを・・・午前1時までに救出すると、魁斗は伝えた。


そのためにも・・・


午前零時から、藤岡と相対し・・・ 藤岡に与えられたミッションを目の前でクリアする事がリナの役目となる。午前1時まで、少しでも時間を稼ぐためだ。


魁斗は2つの大学のサーバに侵入する根回しをし・・・藤岡を欺くための手法をリナに伝える。


それら綿密な打ち合わせを、チャットの中で・・・全て英語で行った。


Rina【 I see 】 (わかった)


kaito【 So... Meet me at 1:00 am 】 (では・・・午前1時に会おう)



2人の親子は・・・ 4年の時を経て、午前1時に再開することを約束した。



・・・ ・・・。


12月21日(金)、0時49分。


藤岡「君は・・・ 知っているんだろ?」


リナ「・・・ ・・・」


藤岡「彼氏がまだ・・・


    生きているって事を・・・?」


そう言うと藤岡は・・・リナの目の前に、破れた紙包みを放り投げた。

    

リナ「・・・ ・・・」


藤岡「そしてそれを知っているという事はもちろん・・・」


リナ「・・・ ・・・」


藤岡「父親である羽鳥教授・・・彼が生きている事も知っているわけだ?」


リナ「・・・ ・・・」


室内の時計を見たリナ。


(リナ「あと・・・ あと10分で・・・ パパが来る・・・」)




           (第100話へ続く)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

次回予告


助けが来るまで、何とか時間を稼ぐリナ。


リナに救出作戦を伝えたのは・・・


彼氏演じる、慎吾だった。



次回 「 第100話  慎吾の声 」

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