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私(悪役令嬢)じゃなくてヒロインが婚約破棄ですか!?  作者: 足立凛


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第2話 聖女選定



 やってまいりました、聖女選定の儀式。

 毎年七歳の少女たちが参加するお祭り……もとい式典。


 なんでお祭りなのかっていうと、この儀式の後には本当に屋台が出るのだ!

 まぁ聖女選定に参加するのは貴族の子女だけだから、普通はお祭りには参加しないけどね。


 でも屋台だよ屋台!!

 前世の夏祭りを思い出して懐かしい気分に浸る。

 郷愁だ。懐古だ。ノスタルジー!!

 どうしても行きたかったから両親にねだりまくった。参加権勝ちとったり!

 でも平民もいるってことでお忍びだし護衛もつくけどね。

 うふふ、終わった後が楽しみ〜!


 ……白状します。

 儀式のこと、何も考えていませんでした。


 私、聖女になったらダメじゃん。


 そのことに気づいたのは王宮へと馬車に揺られているとき。時すでに遅しだ。

「うちの子絶対聖女になるわ〜!」

 左には親の贔屓目なのか瞳を輝かせるお母様。

 右にはそれをたしなめながらも胸を膨らませている様子のお父様。

 だ、誰か助けて……。

 左右の視線が痛いよ。期待値が高すぎるよ。

 なんでそんな確証もないこと言えるの……いや、合っているけど!私は聖女になっちゃダメなんだ!!


 心の中で血の涙を流す。

 私はれっきとした聖女なのにヒロインに後塵を拝していた、というのも婚約破棄の理由の一つだった。

 どうしよう!お祭り気分で浮かれている場合じゃなかった!!

 私は途方に暮れた。

 よし、ここは仮病を装って馬車から降りようか?いや、目が節穴のお父様はともかくお母様は鋭い。

 こんなに期待してきているからには必ずや見抜いてくるだろう。


 まさに四面楚歌!!


 泣く泣く私は王宮へとドナドナされていった。


 最後の悪あがきで馬車から降りるときふらついてみせたら、お母様の扇子でビシッと警策みたいに入れられた。あいたっ。


 ◇


 あぁ、ドキドキしてきた。きょろきょろと周りを見渡してみる。

 ここは今から儀式が行われる広いホールだ。

 一番奥には国王陛下と王妃陛下が座られている。

 そしてその隣には……え?なんで第一王子がいるの!?


 第一王子――エリオットはつまらなさそうに肘掛けに頬杖をついて、令嬢たちの列を見つめていた。

 真紅の髪が日差しを受けてさらりと溢れ落ちる。

 大変整ったお顔である。王子だから当然か。

 大方婚約者を探すようにせっつかれているんだろうなぁ。今度パーティーもあるようだし……。

 王子もドナドナされてきたんだね、可哀想に。と同情の眼差しで見つめる。

 でも私はもう諦めた。今度のパーティーで目をつけられなかったらいいのだ!!

 今日は気楽にやっていこう。

 というか……第二王子はいないね?

 本当に婚約者を探すためだけに連れてこられたってこと?うわぁ、不憫。


 再度憐れんでいると、急にばっちりと目が合った。

 じいっと何故か見つめられる。

 王子も大変ですね、と労いの気持ちで深く頷いといた。君は同志だ。敵でもあるけど。


「次は、アメリア・バートン公爵令嬢です」


 来た!ごくりと唾を飲み込む。


 叩き込まれた仕草で楚々と歩き始めた。

 普段とは大違い、という事実無根な言葉が浮かんできたので頭から振り払う。

 やだ、お転婆だなんて誰のこと?おほほ。


 中央に設置された聖女を見分ける石――聖石に向かって足取りを進める。

 長いカーペットを歩いているうちに緊張が解れてきて、周りを見る余裕ができる。

 視界の端でお父様とお母様がほっと息をついたのが分かった。

 ……え、私そんなに普段じゃじゃ馬じゃないよね……?


 若干不安になりながらも、しっかりと指定の位置についた。

 目の前の石はなるほど、まさに聖なる石だ。

 白い清らかな光を帯びていて、そこだけひんやりとした空気が漂っている。

 まるでオパールのように角度によって薄っすらと見える色が変わる。遊色効果、なんて素敵なんだ。


「では、聖なる石に触れてください」


 心臓がドクドクと脈打っている。鼓動が激しくなっているのが分かる。お願い、光らないで!

 激しく祈りながらちょんと指先を石に触れさせると――――あ、光った。


 光っちゃったか……。


「えっ!光った!!聖女様ですっ!!」

 でも弱々しい光だ。恥ずっ。こんな光なら灯らないほうが……。

「聖女様!聖女様です!!皆さん、盛大な拍手を!!」

 ちょっとそこの神官うるさい。

 思わず睨みつけたら、ひいっと怯えられた。なんかごめん。

 でもこの声掛けのせいで一向に拍手が鳴り止まない。

 聖女として担ぎ上げられても何もできないんですけど……?


 ◇


 お祭りだ!!


 あれから聖女に選ばれたことに大興奮の両親から、快くお祭りに送り出してもらえた。

 やった。これだけで選ばれた甲斐もあった。


 すぐ傍には護衛ではなくハンナがついている。実は戦えるメイドらしい。なんて夢溢れる言葉!

 でも「実践」と称してどこからかギラリと光る短剣を出してきたときは怖かった。

 前世の記憶を持っていない私だったら泣き叫ぶところだったよ……。


 でも彼女は本当に護衛並み、下手したら下っ端の護衛より強い。そして私と信頼関係を築いている。

 だからこんなことも出来ちゃうのだ。

「お嬢様、それで一体何個目ですか?」

 呆れたような顔をしているけれど、実を言えばハンナも食べたがっているのを私は知っている。

 たこ焼きがぎっしりと詰まったトレーを差し出す。

「ハンナも半分どうぞ」

 よろしいのですか?と尋ねつつ目がたこ焼きに固定されている。完全に遠慮する気ないね。

「いいわよ、ほら」

 鷹揚に差し出してあげると、ハンナは自分を納得させるように頷いた。

「そうですね、腹が減っては戦ができぬと言いますしね」

 いや、ハンナは誰と戦をする気?

 そう突っ込みながらたこ焼きを食べる手は休めない。


 そうだ。ふっふっふ。いい案を思いついた。

「ハンナ」

 こっち向いて、と声をかける。

 微塵の警戒もなくこちらを向いた隙に、あーんと――

「おい」

 しようとしたら、誰かに止められた。


 ちょっと、良いところだったのに。

「なんですか」

 ぶすくれながら振り向く。

 迷惑ですよと暗に示すために不機嫌丸出しだ。

 いいのいいの。私これでも公爵令嬢ですから。私以上の権力者はそうそういないのよ!!

 そうやって傲岸不遜な心持ちで振り返る。



「…………!?」

 あまりの驚きに持っていた爪楊枝がツルッと滑って落ちた。

「あぁ、私のたこ焼きが!!」

 ハンナ、私がなにしようとしていたのか分かったのね。

 ていうかそれに驚いてくれなかったのね……。

 あ、這いつくばっちゃダメだよハンナ!!

「おい」

「はいっ」

 反射的に敬礼した。

 そのポーズを怪訝そうに見つめられ、この世界にはなかったか、と気づく。

 そろそろと手を下ろして何事もなかったように澄まし顔をつくった。

 やっちまった感が気まずい。


「お前、あの聖女選定にいたやつだよな?」

 王子にしては口が悪いな。そして横柄だな。

 目の前に立つ人を一瞥して溜め息をついた。

 そう、先程もいた第一王子だ。

「……えぇ。公爵令嬢のアメリア・バートンと申します」

 早く去ってくれと祈りながら名乗ると「知っている」と鼻で笑われた。

 なんだこいつ、ムカつく〜!

 王子がこんな性格だったなんて!顔面詐欺だ!!

「で、お前」

 知っているなら名前を呼べや。そしてどこかに行ってくれ。

 私の胡乱げな視線をものともせず、王子は私を不審そうな目で見つめた。

「お前、本当に公爵令嬢か?」

 なぜ?

「なぜそう思うのですか?」

 脳内に出力された疑問をそのまま口に出す。若干気分を害している。

 こっちは早くたこ焼きをハンナに食べさせたいんだこら。


 ハッ。苛ついているのが声で出たかもしれない。戦々恐々としながら目を合わせると、相変わらず不審そうな顔つきだったので何も思わなかったようだ。

 気づかれないようにそっと小さく息をつく。


「まぁ、いいぞ。このことは黙っておいてやる」


 すると、ポンと慰めるように肩に手を置かれた。

 は、と気の抜けた声を出す私を見て王子は満足そうに頷いた。

 そしてくるりと背を向けて歩き出す。

 よく見たら後ろ手に手を振っている。なんだあいつ格好つけて……。



 どんどん遠ざかっていく背中。



 呆然と見送る私に残ったのは、ソースだけになったトレーと満足そうなハンナだけだった。



 




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


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