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私(悪役令嬢)じゃなくてヒロインが婚約破棄ですか!?  作者: 足立凛


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第1話 前世を思い出したのですが……

「レリア・エイデン嬢!貴女との婚約を、ここで破棄する!」


 宴もたけなわという頃、高らかに告げられたこの言葉。

 歓談の声は徐々に収まり……次第に、ざわめきが広がっていった。

 遠くで「きゃぁぁあ!」と小さく悲鳴が上がった。どうやら誰かが驚いた拍子にグラスでも落としたらしい。


 私はというと、ちょっと困惑とテンパリとでそれどころじゃない。

 え、え?なに、どういうこと?

 体が凍りついたように動かない。

 目を見開きすぎて痛い。あ、目が乾きそう。

 ようやく思い出した瞬きを必死に繰り返す。


 そこに、またまた爆弾発言が放り込まれた。

「喜んで、ノクト様!これから私たちはライバルですね!」


 可憐な声が響いた。その鳥の囀りのように愛らしい声は自信に満ち溢れている。

 彼女が発言した拍子に蜂蜜のような美しい金髪は揺れ、黄金色の瞳は好戦的に輝いた。

 ……は、はい?

 もはや夜会の参加者全員の目が点だ。

 醜聞になるかと思った婚約破棄に、それに喜んでと答える令嬢?

 ……やれやれ。何故か幼馴染二人が暴走している。

 ここは両方の友達として、私が止めなければ!


 ◇


 私の名前はアメリア・バートン。権力も財力もこの王国で有数の公爵令嬢である。


 でも、生まれたときからなんだか違和感を持っていた。

 アメリア。アメリア。アメリア?

 あれ?なんかこの名前知っているぞ?と。

 同姓同名の人には顔を合わせたことがないのに、だ。

 どうしてもこの引っ掛かりが気になって悶々とする。

 でもこんなこと言っちゃえば変な子って認識されちゃう。

 ダメだダメだ。私は変な子なんかじゃないんだから。

 お利口な私はこの疑問をそっと胸にしまった。


 そして七歳の頃、瞑想で悟りを開こうとしているときに気づいた。

 そう、気づいてしまったのだ。


 ――――ここは小説の世界、私は悪役令嬢ではないか?と。

 ――――私は将来断罪されてしまう、あの悪役令嬢ではないか?と。


 ぎゃーーーーー!!!

 そのことに思い至ったとき、白目を剥いてぶっ倒れた。

 刹那の出来事であった。


 ◇


 この世界はまさしく私が愛読していた本の世界だ。

 アニメ化までした大人気小説で、友達も軒並みハマっていたことは記憶に新しい。


 これは、ヒロインが聖女認定されたことから物語が動き出す。

 気弱で慎ましやかなヒロイン。

 彼女は蜂蜜色の緩くウェーブがかかった髪に、黄金の瞳を持つレリア嬢である。

 ヒロインは貧乏な男爵家の長女。でもなんとヒロインは歴代最高峰の魔力量を持っていた。


 ヒロインはその献身的な働きぶりで王族との縁談が持ちかけられる。破格の待遇だ。

 でも歴代最高峰っていうんだし、ぜひとも取り込みたかったんだろう。

 男爵家のまま過ごしていたらパワーバランスとか安全とかの問題もあったのかも。


 そんなこんなで第二王子との婚約が決まる。

 第一王子じゃなかったのは、彼はもうすでに公爵令嬢と婚約していたから。


 そう、ここで登場するのがアメリア・バートンなのだ!


 実はアメリアも聖女だった。

 けれど魔力量と能力ではヒロインに圧倒的に負けていた。

 でも選民主義、血統第一を体現したようなアメリアは貴族の末端が王族になることを許せなかったらしい。


 ヒロインを徹底的に苛め抜く。

 それはもう、苛烈に!凄まじく!


 感想では「気弱なはずのヒロイン雑草並みの生命力だぞ」とヒロインのバイタリティに称賛が送られる始末。

 当然、用意しなくても証拠なんてごろごろ転がっている状態。

 しかも最悪なことに、流石のヒロインも無理が祟ったせいか聖力が上手く使えなくなる。


 そこで早々に事態に気づいていた第一王子は公衆の面前で婚約破棄を宣言する。

 聖女としての実力もないし、ととかげのしっぽ切りみたいにスパッと切られた。

 そこでアメリアが納得できずに怒り狂う。

 そのまま衆目の中で国外追放を命じられ、ずるずると連行……。


 あー、読み返したくなってきた。

 そうだ、私が死んだ後続編は出たのかな?買いたかったなぁ。



 ………………じゃない!!

 やばい!あれが私の末路!?

 終わった……人生終わった……。

 絶望に濡れた瞳で虚空を見上げる。



 と、ここでコンコンとノックの音が響いた。ハッと我に返る。

 ここはどこだ、と辺りに視線を走らせると、どうやら自分の部屋のようだ。

 ちょっとぼーっとしていたらしい。反省、反省。

 いつの間にかメドゥーサのようにぐしゃぐしゃになっていた髪の毛を整える。ごほん。


「入っていいわよ」

 その言葉と同時にドアが開き、私付きのメイド、ハンナがひょこっと顔を出した。

 ハンナは私が生まれたときから仕えてくれている、私の右腕のような存在だ。

 私の近くへと歩み寄ってくる。

 王族の紋章が描かれた招待状を手に持っていた。うわぁ、嫌な予感。


 ハンナがちらりと招待状に目を走らせた。

「お嬢様、第一王子の婚約者選定パーティーへのご招待が来ています」

 ……え、う、うそでしょ……。

 愕然とする。

 ちょっと、話が急すぎない?私が前世を思い出したのはさっきなんですけれど?


「ちなみに予定通り明日聖女選定の儀式が行われます」

 えっ、えっ、明日!?聖女選定!?

 確かにお母様が昨晩食事でそんなことを言っていたような……海鮮丼に夢中で全く聞いていなかった。


 だら、と冷や汗が背中を伝う。

 良かったですね、ときらきらしたような瞳のハンナが眩しい。直視できない。

 うん、いや、分かっている。

 婚約者とか聖女とかに選ばれるかも!?って普通のご令嬢は妄想に耽るところだよね?

 ここは玉の輿を期待するところだよね?

 でもね、私がそれを叶えたら地獄への道が待ち受けているんだ……。

 激しく目を泳がせる私と目を輝かせるハンナの構図よ。


 いやだよ行きたくない!聞かなかったことにしたいよ!!

 頭を抱えたい気分だ。


 白目を剥いてまたぶっ倒れようか?

 と思ったけど、「お嬢様、お顔が……」という有り難くない言葉のおかげで正気に戻った。


 やめてよハンナ!これじゃ私ただ白目剥いた変な人じゃないか!!



ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


もし「面白いよ〜!」と思ってくださった方がいれば、ブックマークや評価(☆☆☆☆☆)で応援していただけるとものすごく嬉しいです!よろしくお願いします!

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