門出の夜に
シンが旅立った日、いつもに酒場でいつものメンツがアロウを引っ張りこんで宴会をはじめた。
形式的にはシンの独り立ちを祝う会だが、雰囲気として残念会。
ただ、その主役たるアロウは酒に弱く、乾杯の直後には早々にうとうとしていた。
「行かせちゃってよかったのお?」
「やることやってんだろ?ちょっと離れるくらいいいじゃねえか」
「バカ!この生真面目がなんかしてるわけがないでしょ」
「は?同居してたんじゃないのかよ」
有る事無い事で盛り上がる外野を横目に、アロウは黙ってちびちびと水のコップを傾けている。
あまりの沈黙の長さに隣席の友人が水を向けた。
「後悔とかしてる?」
「……名前」
ポツリとアロウが呟く。
「え?」
「もっと……可愛い名前つけてやるべきだったかな……」
そう言って頭を抱えてしまった。
「え、そこ?」
「酔ってるわねー」
正解など何一つわからない一年だった。
渋る本人の背を押して送り出したことも、結果が出るのはずっと先だ。
行く先でも、みんなに大事にされるように。
せめて愛らしい名前を贈ればよかったかもしれない。
他にできることなどないのだから。
むしろたくさんのものをもらったのは自分の方だった。
「泣いてるの!?」
覗き込んできた友人が驚いた顔をする。
「……泣いてない」
「鬼の目にも何とかってやつ?」
「まあほっといてもすぐ彼氏ができるだろうな」
「美人だもんねえ」
次々と飛んでくる現実的な回答にアロウは机に突っ伏した。
「ちょっとそこ空気読みなさいよ!まるでアロウが振られたみたいに!!」
「……ちょっと黙っててくれ……」
一年でずいぶんと周りもにぎやかになったものだった。
傾いた視界の中で騒ぐ友人たちを眺めながら、アロウはため息をついた。
人にこれだけのものを残していくシンなのだから、当人はもっと人の縁に恵まれるのだろう。
幸せを願う気持ちの中に、若干の引っ掛かりが残っていることを自覚して、アロウは頭を抱えた。
最大の置き土産は、胸の内にあった。
これを飲み込むには相当な時間がかかりそうだった。




