ひとつまみのスパイス
「シン、口開けて」
「ふぁい?」
アロウに言われたとおり、シンが口をぽかんと開ける。すっかり慣れた仕草だ。
「はい、おやつな」
口に突っ込まれたそれは、ちょっとしょっぱくて……かみしめると、甘い?
「んー!?」
初めての味覚にシンは目を白黒させる。
「くっ…ふふ…」
予想通りの百面相にアロウが笑いをこらえて震えている。
「意地悪ですよ、アロウさん」
お茶を運んできた受付嬢が呆れる。
「桜餅ですか。また珍しいものを……どこから入手したんだか」
「月宵亭の店主の伝手でな」
「しょっぱいのに甘ーい!へんー!」
すっぱいものを食べた時のような渋い顔をしてシンが訴える。
「まずいか?」
「ううん。まずいんじゃなくて……変だけど止まんない」
「甘いものにひとさじのお塩って不思議とやみつきになりますよね。はい、お茶もありますよ」
もそもそと餅をかみしめているシンに、受付嬢がお茶を勧める。
人数分の湯呑が置かれ、アロウも一つ手に取った。
が、口に含んだばかりのそれをすぐ吹きだした。
「……!?」
「あら、アロウさんが"当たり"ですか」
「何入れた……!?」
「たしか瓶に"七味"って書いてありましたね。お茶にも一味違うスパイスがあるといいかなって」
受付嬢はしれっとおそろしい情報を開示する。
「塩味と激辛香辛料はわけがちがうだろ……!っていうか、シンに当たったらどうするつもりだ!」
「大丈夫、シン君は運がいいから当たりません。ちなみに私は辛味の味覚が壊れてるらしいです」
「俺狙いのトラップじゃねーか!!」
ぎゃあぎゃあと言い合うアロウと受付嬢を眺めながら、シンはゆっくりお茶をすすった。
冒険者協会は、今日も平和だ。




