表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/103

パトリック・ブルックスの出産‐二


「お湯と清潔な布をあるだけ持ってきてください!」

「踏ん張る時、歯を食いしばってしまうので、何か噛ませる物はありませんか!?」

「伴侶の方ですか?手を握ってあげてください。」


「……大丈夫ですよ、パディ様。」


ばたばたと騒がしいはずなのに、パトリックの耳にはノエルの声と、握られた手の温かさしかわからなかった。


「まだ、踏ん張ったらダメですよ〜。」


いくつものお産に立ち会ったであろう産婆が、真剣な顔でパトリックに声をかけた。


以前、出産を体験していたメイド長や料理長の妻から、出産時のことを聞いていた。

なんでも、赤子が出てくる穴が『中指の先から付け根までぐらい』開かないとダメらしい。

それを聞いた時、パトリックは『人間の神秘だな』と考えていた。


「あっ、開いた!はい、踏ん張って!」


今は、そんなことを考えている余裕がない。


痛いっ!!

絶対、裂けてるっ!!

――早くっ

早く、楽になりたいっ!!


パトリックの心にあるのは、それだけだった。


―――


「赤ちゃんの頭、出てきましたよー!」


産婆の言葉に『本当に!?』と聞き返す。

もうひと踏ん張りだと、思いっきり力を込める。


……いつの間にか途切れていたらしい意識が、ノエルの声で浮上した。


「……お疲れ様です。パディ様。」


ノエルは、汗で顔に張り付いたパトリックの髪をはらってくれた。

パトリックは、ぼぅとノエルを見ていた。

遠くの方で、ほにゃあほにゃあと赤子が泣いていた。


――ああ、無事に産まれてきてくれたんだ。


ぽろぽろとパトリックの瞳から、涙が溢れてくる。

一目、我が子を見たかった。


「お母さん、お疲れ様でした。ほら、元気な“女の子”ですよ〜!」


診断では男の子だと聞かされていたが、どうやら女の子だったらしい。

枕元に赤子がそっと置かれた。


「……女の子なのに、元気よすぎですよ。もう少し、お淑やかになってください……」


パトリックは腕の力を振り絞り、我が子の頬をつついた。


「ふふっ、もうパディ様に似てるんですね!」


ノエルは小さく微笑む。

ベッドの傍らで、我が子とパトリックを愛おしそうに見つめていた。


―――


「それにしても出産の時のパディ様、ものすごい迫真でしたよ。」


出産から数日、まだ立ち上がるのが難しいパトリックは、ベッドの上でやれる仕事をこなしていた。

その横で、ノエルはりんごの皮をむいていた。


「いまいち、覚えてないんですよね。」


パトリックは、むいてもらったりんごを、ノエルに口へと運んでもらう。

ほのかな酸味が、口の中に広がっていく。


せいぜい、『痛い!』とか『早く出てこいっ』とかだろうと、タカをくくっていたパトリック。


「そうなんですか?『なんで、わたくしがこんな目にっ!?』とか『夢の中で首を斬られた時の方が、痛くなかった!』とか言ってましたよ?」


思わず、パトリックの口の中のりんごが、飛び出していった。

――全然、記憶ない。


「わっ、私が?」


「ええ。あと産婆が『赤ちゃんの頭、出てきましたよー!』って言った時も『それが嘘だったら、お前の家族を酷い目にあわすわよっ』とも仰ってました。」


パトリックは『本当に!?』と聞き返したつもりだったが……

実際には、違う言葉だったことに驚きを通り越して恐怖すら覚えてしまった。


「(出産で“ぼろ”が出るだなんて……)」


パトリックは、『私』の本質は、やっぱり『夢の中で斬首されたわたくし』なんだな、としみじみ感じていた。


こんこんこん

控えめなノック音が聞こえた。


「あかちゃ!」


いきなり扉が開き、オルジュが走ってきた。


「ジュジュ、ダメだよ!」


次に入ってきたのは、ヴィタだった。

パトリックが寝ているベッドに、よじ登ろうとするオルジュを抱きかかえる。


「あかちゃ!あかちゃ、みうのっ!」


赤子を見たくて、部屋まで入ってきたらしい。

じたばたと動くオルジュに、負けそうになるヴィタ。

その時、扉からひょこっと顔を出すアレクシス。


「あ!やっぱりここにいた!メイドたちが、『ご飯の途中なのに!』って探してたよ。」


アレクシスが、オルジュをひょいっと抱っこした。


「あかちゃ、みう!」


オルジュが、思いっきり仰け反る。

アレクシスが「危ないって!」と必死にバランスをとった。


「こっちじゃなくて、向こうの揺り籠の中ですよ。」


パトリックが、ベッドからまっすぐ指をさした。

そこには、揺り籠とそれを揺らすメイドが、くすくすと笑いながら子供たちを見ていた。


パトリックの言葉を聞いて、きらきらとした目で揺り籠を、ちらちらと気にかけるアレクシスとヴィタ。

そんな様子の二人を見て、パトリックは「挨拶してあげてください」と声をかけた。


瞬間。

――本当に瞬間移動したのではないかと思う早さで、揺り籠を囲う子供たち。


「あかちゃ、おはよ!」

「ダメだよオルジュ、本当に起きちゃう!」

「ママとおなじ、ミルクティーのかみ色だね。」


子供たちを優しく見守るパトリックとノエル。

赤子を嬉しそうに見つめる子供たち。


――揺り籠の赤子が笑ったような気がした。



元気な女の子です!


評価、ブクマ、レビュー、感想ありがとうございます!

大変励みになっております!

引き続き、どうかよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ