聖女テイラーの暴走‐二
翌日。
テイラーは、ノエルと共に登校してきたパトリックに、話しかけようとした。
「おはようございます!聖女様!」
自分のことを「聖女様」と慕ってくれている、取り巻きたちが、彼女の行く手を阻む。
「……みんな、おはよっ!」
邪険にはできないな、とテイラーは無理やり笑顔を作った。
「(あー、出鼻くじかれちゃったなぁ)」
そう考えながら、ちらりとパトリックを見た。
ノエルと隣合って座っているパトリックが、ノエルの髪に手を伸ばし、そっと髪に口付けた。
ノエルは顔を真っ赤にさせ、何かを訴えていた。
テイラーとパトリックたちの席は離れているので、会話はさすがに聞こえなかった。
「(……女同士でよくやるわ……)」
顔が良い男にやってもらえるなら、嬉しすぎるけどね!
テイラーはアーリヤやノア、カイルなど、攻略キャラたちを思い浮かべ、
髪にキスされたり、頭を撫でられる妄想を膨らませていった。
きゃーっと一人で妄想に浸っていたら、「いかがなされましたか、聖女様?」と取り巻きの一人に声をかけられる。
その声で、現実に戻ってくるテイラー。
取り巻きへの返事を適当にしつつ、テイラーはパトリックたちを、じっと見つめる。
自分が話しかけるタイミングを、見逃さないために。
いつの間にか、肩をぴったりとくっつけて、ひそひそと話しているノエルとパトリック。
ノエルが時折、くすくすと笑っていた。
「(悪役令嬢相手に、よくにこにこしてられるわよね)」
度胸あるぅ!わたしには無理かも!
というか、ノエルの『大人しく、気弱』って設定は、どこにいったのかしら……?
そして、テイラーは再び閃く。
……ノエルの性格も変わってる……!?
パトリシアが変わってるんだもん、ノエルの性格も変わっててもおかしくないわ!
テイラーは、まじまじとノエルを見つめる。
――見えづらいが、机の下で手を握っていることがわかった。
くすくすと笑うノエルを、愛おしそうに見つめているパトリック。
その視線に気づいたノエルも、熱がこもった目でパトリックを見つめ直す。
徐々に二人の顔が近づいていき――
『公衆の面前で何しようとしてんのよっ!』
テイラーは、思わず立ち上がり、机をガタッと揺らした。
周りにいた取り巻きたちは、「聖女様!?」と慌てていた。
周りを無視して、声を出そうとした瞬間――
どこからか現れた手のひらが、二人を遮った。
手のひらの正体は、笑顔を浮かべているアーリヤだった。
気のせいだろうか?
優しい笑みであるはずなのに、アーリヤの周りだけ気温が下がったように感じた。
テイラーは、ゆっくりと椅子に座り直した。
アーリヤの後ろには、ノアとカイルがいた。
ノアが、アーリヤの頭をスパンっと叩いた。
アーリヤは、ノアに叩かれたことを気にも止めずに、ノエルに何か捲し立てるように話していた。
「(……っ、話しかける隙がない……!)」
アーリヤたちが増えたことによって、近寄れない雰囲気を醸し出していた。
「(というか、本来なら、そこがわたしの居場所なのにっ!)」
取り巻きたちから「ひぃっ」と小さな悲鳴が聞こえた。
そんなことなどお構い無しに、テイラーの顔はどんどん険しくなっていった。
ぎりっと歯が鳴った。
その時、パトリックがテイラーをちらりと見た。
と、テイラーは認識した。
「(え、今……わたしのことを見て、鼻で笑った……?)」
――誤認である。
だが、テイラーの頭の中で、一気に被害妄想が駆け巡った。
『みんな、貴方じゃなくて、わたくしが好きみたいですね。』
『攻略キャラたちが、わたくしの下僕になる様を、指を咥えて見てなさい!』
テイラーが作り上げた、架空の“パトリシア”が高笑いをしながら、攻略キャラたちを侍らせていた。
テイラーは、怒りでふるふると震え出した。
「(許せない……みんな、わたしのものなのにっ!)」
テイラーは、立ち上がった。
『みんなの心を取り戻してみせるっ!』
本物のパトリックに、宣戦布告するために。
――その直後に、無情にも授業開始の鐘が鳴る。
「はーい、皆さん席に着いてくださいね。」
ペイジが、そう言いながら教室へと入ってくる。
しぶしぶと席に座るテイラー。
……取り巻きたちは、立ったり座ったりするテイラーの、異様な行動を見ているしかなかった。
心の奥底に「頭は大丈夫だろうか?」という気持ちをひた隠して。
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