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聖女テイラーの暴走‐三


その後も、ことごとくパトリックたちに話しかけるきっかけが掴めないでいたテイラー。


「(全然、話しかけられない!……もしかして、これも悪役令嬢パトリシアの嫌がらせ!?)」


――テイラーの被害妄想は加速する。

自身の間の悪さを棚に上げて、テイラーはパトリックに苛立ちを募らせていく。


昼休みに、ようやくチャンスがやってきた。

パトリックが「ちょっと失礼しますね。」と席を立ったのだ。

おそらくお手洗いだろうと予想して、テイラーも取り巻きたちに「お花摘みに行ってきますね!」と立ち上がる。

取り巻きたちも「一緒に……」と言いかけたが、

「大人数でお手洗いを占拠するのは、ダメだと思います。」と理由を無理やりこじつけた。


そして、テイラーはパトリックの後を追った。


―――


パトリックが、手洗い場で手を洗っていた。

蛇口から流れる水音だけが、やけに大きく響いていた。


「何か用件があるなら、手短にお願いします。聖女さん。」


こちらを見ずに、テイラーに話しかけるパトリック。

テイラーは、ぎくりと肩を跳ねさせた。

そして、恐る恐るパトリックに尋ねてみた。


「どうして、用件があるってわかったんですか?」


はぁ、とため息をつくパトリック。

パトリックは目線だけ動かし、テイラーをちらりと見て、また蛇口に目線を戻した。


「……朝からずっと、こちらを見てましたよね?」


バレていると思いもせず、テイラーは内心で冷や汗をかいていた。

「えっと、そのぉ……」

もごもごと、意味の無い言葉を言い続けるテイラー。


少し苛立った様子で、パトリックは蛇口を閉めた。


「何もないようですので、失礼しますね。」


テイラーは、横を通り過ぎようとするパトリックの腕を掴んだ。

パトリックは、不機嫌な顔を隠す素振りもしなかった。


テイラーは前の夜に、考えていたセリフを言う。


「わっ、わたし、パトリシアさんとお友達になりたいのっ!」


テイラーのセリフに、パトリックも呆けた顔をせざるを得なかった。

――今さら、なんなんだ。

パトリックの顔に、そう書いてあった。


「(私だって、別にあんたと仲良くしたいわけじゃないわよっ!)」


テイラーは、今にもそう叫びたいのを、ぐっと堪えて笑顔を作った。


――昨日の夜に、テイラーの考えた作戦はこうである。


・パトリックと仲良くするフリをする。

・パトリックと一緒にいる時だけ、テイラーの私物がなくなったり壊れていたりするのをを攻略キャラたちに発見させる。

・攻略キャラたちに「パトリシアに裏で嫌がらせを受けている」と相談する。

・「パトリシアが嫌がらせをしている!」と、攻略キャラたちに思い込ませる。


悪役令嬢パトリシア退場!

攻略キャラが、わたしを囲ってくれる!


逆ハー、溺愛ルート完成!


――テイラーに、都合が良すぎる作戦だった。


だが、テイラーはこの作戦がうまくいくと確信していた。


何故なら、作戦の大半は――

前世でテイラーが、パトリシアにされた仕打ちだったからだ。


自分で私物を隠すので、パトリシアからされたことに比べれば、大分甘い加害にはなるが……


それでも、みんなは心配してくれるはずっ!

テイラーは、そう信じてやまなかった。


テイラーは自分が可愛く見える角度で、パトリックを見つめる。

パトリックに効き目があるかはわからない。

しかし、取り巻きたちは、これで騙されてくれるから大丈夫だろうと考えていた。


感情が読めない顔で、パトリックは固まっていた。

無音が続く。


「いいでしょう。卒業式も間近ですし、交流を増やすのも悪くないかもしれません。」


にこりと人形のように笑うパトリック。

相変わらず綺麗なパトリックの顔に、テイラーは少し見惚れてしまった。


パトリックに「聖女さん?」と声をかけられ、ハッとする。


「ごめんなさい!嬉しくってつい、ぼーっとしちゃった!」


テイラーも、負けじと笑顔をパトリックに返す。


「それでぇ、さっそく提案なんだけど……」

テイラーは上目遣いで、「聞いてくれる?」とパトリックに尋ねる。


「期末試験も近いでしょ?お勉強会とか開いてみたいの!」


――『友達になりたい』と話が続き、『勉強会をしよう』とテイラーはのたまう。

傍から見れば、明らかにパトリックの頭の良さ目当てだと言っているようなものである。


パトリックの口角が引き攣るが、テイラーはパトリックのことなど見ていなかった。


「(友達も呼んでねって言えば、攻略キャラたちも来るはず!)」


自分は、攻略キャラたちに好感度イベントをこなし、悪役令嬢パトリシアから虐められているフリをする。

まさに、一石二鳥!

なんて完璧な作戦なんだろう!


テイラーは、心の中で自分の作戦を自画自賛していた。


「お友達も、ぜひ呼んでね!」


テイラーは満面の笑みのつもりだが、実際はニヤけているのが隠せていなかった。


「……ええ、わかりました。」


「用件は、それだけだから!じゃあ!」と言って、テイラーは走り去る。

手洗い場に、一人残るパトリック。


「一体、どんな幼稚な思惑で、私を貶めようとしてくるんですかね。」


パトリックは大きく息を吸い込み、吐き出す。

――王子付きの“影”と、自分の部下を、パトリックは学園内に張り巡らせている。

テイラーが何かをしてきても、確実な証拠が手に入る。


「……ああ、でも、前世の二の舞にならないようにしないと。」


そのために、努力をしてきたのだから。


パトリックはゆっくりと、教室に向かった。



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