聖女テイラーの暴走
今は昼休みである。
特別授業がない限り、誰も近づかない、学園の別棟。
その渡り廊下に、テイラーは一人で、思案に暮れていた。
「そろそろ本気で好感度を上げないと、逆ハーどころか、ハッピーエンドにもならないっ!」
うまくやれば好感度が上がりそうなイベントは、いくつもあった。
――と、テイラーは思い込んでいた。
「ペイジに勉強を教えてもらおうとしても、全然見つからないし!」
テイラーは知らない。
ペイジが、自身の仲間である“影”から情報を得て、テイラーを避けていることに。
顎に指を当て、テイラーはぐるぐると歩き回る。
「イライジャは、いつの間にか『オネェ』になってるしっ!」
その場で地団駄を踏むテイラー。
――テイラーは、競技大会の時の記憶は消されている。
しかし後日、イライジャを攻略すべく、保健室で彼と対面した際のこと。
『素のワタシを出した方が、アンタが寄り付かないって気付いたの!』
イライジャから、訳のわからないことを言われてしまった。
しっしっと手を振る仕草付きで。
「なんで、激重愛情持ち魔王がオネェになってるのよ!?」
テイラーは、頭を抱えてしゃがみこむ。
ゲームの中だと、主人公の力に興味を示し、徐々に『自分だけを見ていろ』と激重になっていた。
イライジャがオネェになる要素が、見つからなかった。
この考えを皮切りに、他の攻略キャラのことも思い出す。
ノアも全然違う。
アーリヤはちょっと、冷たいだけ。
カイルは、変わってないはず。
ヘーレーは、ツンデレじゃない。
テイラーが「もしかして、」と閃いた。
「……攻略対象たちの性格……全員、原作ゲームと違うの……?」
――ようやく気付いたテイラーだった。
「そうか……ゲームと違うから、うまくいかなかったのね……」
わたしは、何も間違えなかった。
みんなが違ってたせい。
テイラーは、ゆらりと立ち上がった。
遠目からその姿を見てしまった生徒が、「幽霊だ!」と驚き叫んだ。
しかし、テイラーはその声に気付かなかった。
「というか、なんで悪役令嬢が一番変わってるの!?」
男装して、男として生きている。
アーリヤやノア、カイルの幼なじみになっている。
主人公のお助けキャラのはずだったノエルを、婚約者している。
原作ゲームと何もかも違いすぎて、テイラーの思考が、ぐるぐると回り出す。
テイラーは、脳内で導き出された言葉を、ぽつりと呟やく。
「……パトリシアが、一番のバグじゃない……?」
――まるで、天啓を受けたような気分だった。
ノアが、無愛想なのも、
イライジャが、オネェなのも、
ペイジが、全然見つからないのも、
全部、パトリシアのせいだったのね!
――都合の悪いこと、全てを、悪役令嬢に責任転嫁するテイラー。
再び、テイラーの中に名案が浮かんだ。
「パトリシアを正せば、きっとみんな、元に戻るわ……!」
――そんなことは、絶対にない。
ないのだが、テイラーの頭の中で“それが正規ルート”になってしまっていた。
「最後のイベントは卒業式のパーティ……それまでに、ちゃんと“悪役令嬢”になってもらわなきゃ!」
『ゲーム通りの悪役令嬢にしてあげて、わたしを主人公にしてもらう!』
テイラーの中で、方針が決まった。
「今まで、イベントを待ってただけだけど、もうわたしには時間がない!」
テイラーは胸の前で、手を握った。
「わたしが、攻略イベントを起こすのよ!」
――総愛され主人公になるために。
決意を新たにしたテイラー。
彼女の瞳は、めらめらとやる気に満ち溢れていた。
「確か、卒業式までにミニイベントで、期末試験の勉強会があったはず!」
――“自分から動く”と決めたが、「史実に頼らない」とは言っていない。
「今日はもう遅いから、明日からがんばろーっと!」
ぐぐぐと腕を伸ばし、テイラーは時間を確認した。
時計の針は、もうじき昼休みが終わることを、知らせようとしていた。
「やばっ!午後の授業が始まっちゃう!」
テイラーは、慌てて教室へと走り出した。
――テイラーの暴走が、これから始まる。
……生物準備室にいたパトリックたちが、一斉にくしゃみをした。
評価、ブクマ、レビュー、感想ありがとうございます!
大変励みになっております!
引き続き、どうかよろしくお願いいたします!




