【番外編】カイル・エリオの初恋?
―――ペチンッ
あの日から、カイルの世界は色付き始めた。
―――
カイル・エリオは、王国騎士団団長であるレオニール・エリオの息子であった。
曽祖父が狼の獣人だったのも関係があるのか、幼少期から身体の発達が他の子供よりも早かった。
父の姿を見て、自然と剣術の道に進んだ。
ある日、父に連れてこられたのは、王宮に隣接されている騎士団の訓練所だった。
そこで、魔法の先生となるケンダル師匠と、人生の相棒とも呼べる、ノアと出会った。
ケンダル師匠の元で、魔法を習い初めてから半年が過ぎた頃。
父とケンダル師匠に連れられて、ノアと共に王宮内を歩く。
父に「今日から、この方も一緒に訓練するぞ」と紹介されたのは、この国の第一王子であるアーリヤだった。
その日からカイルとノア、それからアーリヤで訓練に励んでいた。
そして三ヶ月が経った頃、アーリヤが「紹介したい子がいる」と話し出した。
アーリヤ曰く、「笑顔が素敵な子」
そして、ついに顔合わせの日がやってきた。
陽の光を、きらきらと反射させる黒髪。
真っ赤な薔薇が、そのまま埋め込まれているかのような瞳。
さわやかに笑う――
「(てっきり女の子かと思ったけど、男の子だったのか)」
アーリヤの姿が、あまりにも『恋する少年』だったので、婚約者でも連れてくるのかと思っていた。
――確かに、剣術や魔法の訓練に女の子なんて連れてこないよな、とカイルは考え直す。
「カイルだ、よろしく!」
パトリックも、にっこりと笑い返してくれる。
カイルとパトリックが握手を交わそうとした時だった。
「お前、女のくせに男みたいな格好してるな。変なの。」
ノアの口から衝撃のセリフが出てきた。
「えぇっ!?女の子だったのか!」
思わずカイルは、ノアとパトリックを交互に見た。
すると、アーリヤがずいっと前に出てきて、ノアとアーリヤが口論を始めた。
アーリヤの「僕のパティ」という発言を、キッパリと断るパトリックの凛々しさ。
その後、一歩引いて、小さく笑っているパトリックの可憐さ。
――胸の鼓動が、大きく跳ねた気がした。
―――
自己紹介も終わり、訓練が始まる。
今日は、魔法の授業からだった。
パトリックは、ノアの魔法に惹かれたらしい。
ノアの真似をしているが、魔法が発動する気配は全くなかった。
「……フッ、初歩中の初歩できないのかよ。」
ノアが鼻で笑った。
次の瞬間だった。
――ペチンッ
乾いた小さな音だけが、この場に響き渡った。
何をされたのか理解ができず、呆然とするノア。
同じく何が起こったのかわかっていないので、アーリヤとカイルは口を開けて、ノアを見ているしかなかった。
ノアの頬を叩いたのは――パトリックだった。
「長ったらしい詠唱をするより、こっちの方が早いわね。」
パトリックは、ノアを小馬鹿にしたように笑っていた。
――ドクンと心臓が飛び跳ねた。
最初に思ったことは、“ノアが羨ましい”だった。
オレも、見下されて笑われたい。
冷たい声で、罵倒されたい。
高笑いしながら、オレのことを叩いてくれないだろうか――
―――
「ちょっと待ってください。」
パトリックがカイルの話を遮った。
「ということは……出会った日からずっと、その……特殊性癖な感じなんですか……?」
「そうだ!」
曇りのない笑顔で、カイルは答えた。
パトリックが、カイルと出会って十年が過ぎようとしていた。
学園祭が終わり、振替休日も明けた学園で。
パトリックたちは、カイルの問題発言を問いただしていた。
「……だから、なんで生物準備室に、集まるんですか?」
ペイジが、少し呆れながらパトリックたちに苦言を呈した。
――もっとも、ペイジの言葉は誰にも聞き入れられなかったが。
「さすが、僕のパティ!カイルも魅了しちゃうなんて!」
パトリックに向かって、にこにこと笑うアーリヤ。
そしてアーリヤは、くるりとカイルの方へ向き直った。
パトリックに向けていた表情とは、全く別の冷めた表情だった。
「しかし、やってくれたな。カイル。」
殺意がこもった目で、カイルを見下げるアーリヤ。
「僕のパティを、ずっと不埒な目で見てたんだね……」
アーリヤは、はぁとため息をつき、帯刀していた剣に手を伸ばした。
「……僕は悲しいよ。幼なじみを一人、消さないといけないなんて。」
「王子!ここじゃなくて、外でやってください!」
ペイジが、必死にアーリヤを押さえつける。
「ノア様も手伝ってください!」と、ペイジがノアの方を見た。
「……」
まだ現実を受け止めきれていないノアが、そこに居た。
――無理もない。
お互いを知り尽くしていると思っていた相方に、特殊性癖一面があるとは、思いもしなかっただろう。
そして、今まさに命の危機であるカイルは――
「お手柔らかに頼む!」
満面の笑みだった。
「……てっきり、赤薔薇にだけ、そのような態度なのかと思ったんだが……」
「もしや、」とヘーレーが言葉を続けた。
「他の者たちでもいいのか……?」
ヘーレーのセリフを聞き、全員が動きを止めた。
そして、一斉にカイルの方を向いた。
――太陽のような笑顔だった。
「私のノエルで、変なことを考えたら、許しませんから。」
ノエルを、ぎゅっと抱きしめるパトリック。
「パディ様の方が、危ういと思います!」
抱きしめられたノエルは、パトリックを抱き締め返した。
「……胸に留めておくだけなら、特別に許そう。」
気持ちに折り合いがついたのか、アーリヤは剣から手を離した。
「……」
相方を、信用したい気持ちはある。
しかし、相方の特殊性癖を許容できないという気持ちもある。
ノアは、ちらりとカイルの顔を見た。
申し訳なさそうな顔。
カイルを見ていると、捨てられた子犬の姿がチラついてしまう。
「……俺に、“そういうの”を頼んで来たら、許さないからな……」
絞り出すような声で、ノアはボソッと呟いた。
ノアの言葉を聞き、カイルはぱぁと顔を明るくした。
カイルは、がしっとノアの肩を抱いた。
「前向きに検討しておく!」
「そこは、“もちろんだ!”とかだろ!?」
ノアは「離せ!バカ!」と抵抗するが、腕力でカイルに勝てるはずもなかった。
「学園を卒業したら、良いお店紹介しますね。」
苦笑いしながらも、ペイジは、カイルに向けて親指を立てた。
その光景を、興味深く見ていたヘーレー。
ふと、「今まで、隠し通せてたんなら、これからも特に問題ないのでは?」と伝えようとしたが、
「我に実害がないならいいか」
そう結論づけ、ヘーレーは朗らかに笑った。
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