表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/103

パトリック・ブルックスの戦術‐七


学園祭当日。

冬の気配を帯びた風が、身体の芯を凍らせるように冷たかった。

賑やかな王都で、学園の上空に号砲ごうほうが打ち上がった。


色んなクラスが、来客に向けて呼び込み始めた。

その中でも一際目を引くのは、午前中の呼び込みに選ばれてしまったノアとカイル組と、アーリヤとヘーレー組だろう。


クラシカルなメイド衣装を身にまとい、ムスッと不機嫌を隠さないノア。

黙っていれば、美少女にしか見えない。

口を開かなければ、の話である。

ノアの隣にいるのは、何故か膝上丈のスカートのせいで、逞しい足が見えているカイル。

快活に笑いながら、「貴族科の出し物、“社交パーティ”ぜひ、見に行ってくれ!」と宣伝していた。


別の場所では、ヘーレーとアーリヤが学園内を練り歩く。

膝下までの長さのメイド衣装を揺らし、「貴族科、“社交パーティ”をよろしく頼む!」と大声で宣伝しているヘーレー。

ヘーレーの一歩後ろにいるのは、自身の目の色のような青のドレスを身にまとい、美しい笑みを周りに振りまくアーリヤだった。

二人に見惚みとれて、ぞろぞろと彼らの後ろに続く者たちが行列を作っていた。


同時刻。

貴族科の教室は、宣伝組のおかげか、既に賑わいを見せていた。

パーティ会場に見立てた教室の奥。

等身大の人形のような美しさを放つ令嬢。

そして、側に使える執事が一人。


――パトリックとノエルであった。


穏やかな笑みを浮かべ、教室を見渡すパトリック。


「……いい加減、同じ顔するもの飽きたわ。」


「そろそろ交代の時間になるので、それまでの辛抱ですよ、パディ様!」


パトリックの呟きに、ノエルは返事をした。


ドレスを着た男子生徒が、お客と談笑していた。

メイドに扮した男子生徒が、飲み物と軽食を運んでいた。

執事服を着こなした女子生徒が、別の女子生徒とぶつかりそうになっていた。

紳士服を身に纏う女子生徒が、女性客に“わたしと一緒に撮って!”と迫られていた。


パトリックは、その光景をじっと真顔で見つめていた。

音も立てず、すっと動き出し、パトリックは撮影をせがまれている女子生徒の元へ向かう。

それに気付いたノエルが、慌ててパトリックの後を追う。


パトリックは目を細め、にこりと女性客に微笑んだ。

突然、目の前に現れた磁器人形ビスクドールのような生徒に、呆気に取られる女性客。


その隙に、客に絡まれていた女子生徒に、小声で「今のうちに。」と、そっと裏に戻るように伝えるノエル。


「お人形さんみたいで、綺麗……」


ぽーっとパトリックに見惚れていた女性客は、「さ、撮影をしても……?」と彼女に尋ねた。

表情を崩さず、パトリックは小さく首を横に振った。


「そこをなんとか」と口を開こうとした女性客。

パトリックは、女性客の耳に手を添える。

そして、女性客の耳を思いっきり引っぱろうとして――


――ノエルに、腕を掴まれてしまった。


「……お嬢様、いくら“聞かないお耳”でも、引き裂いてはなりません。」


「ヒッ」


ノエルの言葉を聞き、女性客は短い悲鳴を上げた。

パトリックは右頬をぷくっと膨らませ、女性客から離れる。

パトリックはノエルに右手を差し出し、真顔で顎をしゃくる。

ノエルは素早くハンカチを取り出し、パトリックの右手を丁寧に拭いた。


パトリックは“手袋”を、はめていたのにも関わらず。


ノエルに拭いてもらった後、パトリックは再びにっこりと女性客に微笑みかけた。


『次はない。』


実際は、パトリックの口は少しも動いてなかった。

しかし、女性客はそう聞こえた気がして、一目散に教室から出て行った。


先ほどまでの賑わいが、嘘のように静まり返っていた。


「さぁさぁ!皆さま、ちょっとした演芸はいかがでしたでしょうか?」


ネリエが声を張り上げた。


「華やかな舞台の裏には、こういった闇が潜んでいたり――いなかったり?」


客たちに、動揺を悟られないように、ネリエは堂々と振る舞う。


「こういった催しを、変則的に行わせていただきます!立ち会えればラッキーかも!」


つらつらと、即興で話し続けるネリエ。


“え、劇?”

“社交パーティってこんなことも起きるんだ”

“小説の中の悪い令嬢みたいだったね!”


納得したのか、再び賑やかになっていく教室内。

それを確認して、ネリエは小さく安堵の息を吐いた。

ネリエはくるりと振り向き、パトリックと向き合う。


「ブルックス様!度を過ぎたお客様の対応をしていただいたことには、感謝します!」

「でも」と、ネリエは言葉を続ける。


「どれだけあっちが悪くても、私達こっちから手を出したら、私達こっちが悪者になるじゃないですか!」


「もうちょっと穏便に!」と、パトリックに頼み込むネリエだった。


パトリックは、「考えとくわ」と、反省する素振りさえ見せず、返事を返しただけだった。


ため息をついた後、ネリエはノエルに感謝を伝える。


「ノエルさんのおかげで、大事になりませんでした。本当にありがとうございます!」


「いえ、お気になさらず!引き裂いた後、処理するのが大変だなと思っただけなので。」


そう言って、にこっと笑うノエル。


ネリエは、「そうですか……」と口角をヒクつかせる。

「(ブルックス家に長く居ると、気弱そうな彼女でもこうなるのか)」

やはり恐ろしい家だなと、ネリエは彼女たちの距離感を考え直そうと胸に誓った。


―――


あともう少しで、正午になろうとしたところだった。

貴族科の教室に、少し柄の悪い男性が入ってきた。


学園なので酒類は提供してないはずだが、頬が赤らみ、彼から少しだけぶどうの香りが漂っていた。


「お客様、ウェルカムサービスでございます。」


メイドの格好をした男子生徒が、男性客に近づいた。


「なんだァ?酒じゃねえし、おまえ男かよ!」

“バカみてぇな格好してんな!”と下品な笑い声を上げる男性客。


パトリックは、ノエルに「誰でもいいから男性の先生を呼んできて」と指示を出した。

ノエルは、パトリックの言葉に「わかりました」と頷き、足早に教室から抜け出した。


「……ネリエ?お客様に“手”を出してはいけないんですよね?」


「そ、そうですけど……」


「……わかりました。」


ネリエに確認を取り、優雅に微笑んで、男性客の元へ歩き出すパトリック。


「なっ!?ちょっと、ブルックス様!?」


止めるネリエの声を無視して、パトリックは男の前に出た。

パトリックは綺麗な所作で、男に向かってカーテシーをした。


顔を上げたパトリックの目は、獲物を見つけた捕食者のようだった。


――『悪魔令嬢』と言われた“わたくし”の姿、とくとご覧あれ。



評価、ブクマ、レビュー、感想ありがとうございます!

大変励みになっております!

引き続き、どうかよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ