パトリック・ブルックスの戦術‐六
パトリックは保健室にイライジャがいたことを、アーリヤとペイジに報告した。
手が空いている時間に、アーリヤ、ノア、カイルで保健室に向かうことになっていた。
自分の役目は終わったとばかりに、パトリックはそそくさと衣装制作班の元へ向かった。
「ただいま、戻りました。」
「大丈夫でしたか、ブルックス様?」
心配そうに尋ねてくるネリエに、「大丈夫ですよ。」と、パトリックは手のひらを見せた。
そこには、針が刺さった形跡など何もなかった。
―――
学園祭まで、あと数日となっていた。
料理班の方では、試作と試食を重ね、自分たちが満足できるものに仕上がっていた。
衣装制作班の方も、最終調整の段階になっていた。
「見て、ノエル。どうかしら?」
パトリックが、調節のためにドレスを着ていた。
たまたま居合わせたノエルに声をかけ、くるりとその場で回って見せた。
黒を基調とし、所々に赤の差し色があるドレス。
胸元が大胆に開いているデザイン。
コルセットも、これでもかと締めあげられており、零れそうなほど胸が強調されていた。
その光景を見たノエルは、胸元を押さえて「うっ!」と呻き、うずくまる。
「どうしたの、ノエル?」
「……押さえてないと、今にも心臓が何処かに走り出しそうで……」
潤んだ瞳で、うずくまったままパトリックを見上げるノエル。
「おや、ドキドキしてるってこと?」
パトリックは頬をほのかに赤くさせ、うっとりと目を細めた。
「(絶対、衣装を買い取りましょう)」
と、心の中でパトリックは、固く誓った。
――傍から見るパトリックの目線は、獲物に狙いを定めた蛇のようだった。
本人に、その自覚があったのは知りませんが。
と、後にネリエが語ったという。
―――
「ついでに、皆さんにも見せてあげますね。」
そう言うと、パトリックは“四芒星”の前に出た。
「褒めてくれていいですよ?」
自慢げなパトリックを前に、各々色んな反応を見せた。
「な“っ……、胸元が、少し、開きすぎじゃないか?」
声が裏返ったノア。
顔が赤いのをパトリックに見せないため、そっぽを向いた。
「おや、ノアには少々、刺激が強かったですか?」
にやにやとしながら、パトリックはノアににじり寄る。
「パティ?あんまり、ノアをからかってはダメだよ。」
ノエルが、パトリックの腕を慌てて引き寄せる前に、
爽やかな笑顔のアーリヤが、パトリックの腰に手を置き、アーリヤ自身の方へと引き寄せる。
「離してください。」
アーリヤの手を、パトリックはパンッと叩いた。
「とっても似合ってるね、パティ!僕の八歳の誕生日会を思い出すね!思い出した記念に、婚約しようか!」
「しません。」
「……予想よりアーリヤが大人しいな。もっと、こう……気持ち悪くなると思っていたが。」
カイルが、不思議そうな顔で「いや、十分気持ち悪くはあるが」と、じろじろとアーリヤを見ていた。
「いえ、それならご心配なさらず。おそらく王子の許容量はとっくに限界値超えているはずなので。」
そう言うと、パトリックはアーリヤに向き直った。
わかっているような口ぶりのパトリックに、カイルは頭にハテナを浮かべた。
「アーリヤ王子、ご機嫌よう。」
パトリックが、アーリヤに向かって挨拶をする。
「着たいドレスの色はあるかい?僕的には、白がメインで差し色が青とかオススメだよ!」
「着ません。」
「……すまん、いつもと何が違うんだ?」
心底『わからない』という表情のカイル。
「あれ、わかりません?いつも以上に会話になってないんですよ。」
「わかるか!」
気を立て直したノアが、パトリックに向かって大声で指摘した。
空気を読めないのか、読む必要性がないと判断したのか、ヘーレーが近づいてきた。
「それにしても凄いな。我が赤薔薇の胸は、どういう仕組みなんだ?」
そう言いながら、ヘーレーがパトリックの胸を突く。
「自前ですよ?」
なんでもないように答えるパトリックに、ヘーレーは固まってしまった。
「パディ様!むやみにお身体を触らせてはいけません!!」
ノエルは思いっきりパトリックの腕に抱きつき、パトリックからヘーレーを引き剥がした。
アーリヤとノアは、ヘーレーを逃がさないようにジリジリと近づいて行く。
「僕だって、僕だって触ったことないのに……!!」
「触ったら、腕ごと切り落としますよ。」
アーリヤの言葉に、間を置かずパトリックは反論した。
「(羨ま……じゃなかった!)……何してんだ、お前っ!!」
喉元まで出てきた本心をぐっと飲み込み、ノアはヘーレーに詰め寄る。
激怒しているアーリヤとノアに、ヘーレーはボコボコにされていた。
カイルは、ボコボコにされているヘーレーの横にいた。
「許可なく触ってはいけないぞ!ヘーレー!!」と、助けることなく豪快に笑っていた。
「この胸は私とノエルのものです。許可なく触らないでください。」
パトリックは小さな子供に、言い聞かせるような口調で注意した。
そして、短くため息をつく。
「ま、今回は大目に見てあげましょう。どうせ減るもんじゃないですし。」
「「「減るよ!!(減りますよ!!)」」」
アーリヤ、ノア、そしてノエルの声が重なった。
その声量に、パトリックの肩はびくっと跳ねさせた。
「アッハッハッ!」
――笑ってはいるが、カイルの目に光がないことを知る者は、いなかった。
その意味がわかるのは、まだ少し先の話。
……もう一方で、詰め寄られていたヘーレーだったが、
指にまだ残る、パトリックの“感触”を心に刻み込む。
そして、無意識のうちに何度も頭の中で反芻させていた。
これを書くために、学園編を始めたので、やっと書けて感無量です!
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