パトリック・ブルックスの戦術‐五
四芒星の読みを“よんぼうせい”に変えました。
ノエルの採寸も終わり、次は男子生徒たちの採寸が始まった。
ノア、カイル、ヘーレー、そしてアーリヤの採寸時、廊下に声が響き渡るほどの騒ぎとなっていた。
「……もう二度とやるか。こんなこと。」
少し乱れた服を着直すノア。
「アッハッハッハ!確かに、少し熱烈だったな!」
カイルは、面倒なので胸元をはだけたままにしていた。
「そうか?我が家と、大して変わらなかったぞ?」
きっちりと着直しているヘーレー。
「慣れもあるだろうね。」
袖のボタンを留め、アーリヤは上着を羽織った。
……他の男子生徒の採寸は、流れるように滞りなく終わっていた。
「いいですか、皆さん。」
ネリエがメガネをくいっと上げる。
「私たちでっ!“四芒星”の魅力を引き出しましょうっ!!」
ネリエの力強い声に、衣装制作班が“オオーッ!”と拳を上に突き上げていた。
―――
料理班は、出し物で提供するメニューをあらかた決め終わり、そのまま内装も手がける。
衣装制作班は、服のデザインを決めていき、制作に取り掛かっていく。
「さて、衣装ができないと撮影もできないので、どうしましょう。」
パトリックが一人で悩んでいると、ネリエが声をかけてきた。
「よろしければ、一緒に衣装制作をしてみませんか?」
ぽかんとした表情で、パトリックはネリエを見た。
「……刺繍も嗜んでませんけど、よろしいんですか?」
「ええ、もちろん!何事も挑戦、ではないでしょうか。ブルックス様?」
ネリエは、にぱっと明るく笑う。
それに釣られるかのように、パトリックも苦笑いをこぼす。
「下手くそでも、文句は言わないでくださいね?」
「あははは!」
笑うだけで、ネリエはパトリックの言葉を否定しなかった。
―――
慣れない手つきで、ゆっくりと針を刺すパトリック。
「あっ」
パトリックの人差し指から、ぷくっと小さな血の球が浮かび上がる。
「大丈夫ですか、ブルックス様?」
ネリエがパトリックに尋ねた。
「これくらい唾つけとけば、大丈夫ですよ。」
困った顔をしながら「でも……」と、ネリエは言い淀む。
「それって、舐めていいってこと?」
「ダメです。」
パトリックの後ろから、ぬっとアーリヤが顔を覗かせた。
間髪入れずにアーリヤの言葉を否定するパトリック。
にこりと無言で微笑んでいるアーリヤ。
パトリックは、その笑顔から『念の為、保健室行ってきたら?』という、圧を感じ取った。
「……保健室行ってきます。」
パトリックは、すくっと立ち上がった。
―――
滅多に来ることのない保健室。
そのせいか、少し緊張してしまう気がする。
「失礼します。」
保健室に入ったあと、「ノアに頼めば良かった。」という考えがよぎったが、
バカにした顔をするノアが、容易に想像できたので、頭を横に振って、考えをかき消した。
「念の為、消毒をお願いしたいんですけど……」
パトリックは、奥の方へと声をかけた。
「はーい、ちょっと待っててチョーダイ。」
――居るわけのない声が、聞こえてきた。
自身の心臓が大きく飛び跳ねた気がした。
「(あの人は、競技大会の時にどこかへと飛び去っていったはず)」
パトリックは思考を巡らす。
『まさか』と考えていると、声の正体が明らかになる。
「あーら、アナタだったの?」
“おひさ〜”と手を振りながら、顔を出したのは――
――魔王の部下のイライジャだった。
「……何故、貴方がここにいるんですか?」
競技大会の時は、何事もなく去っていったイライジャだが、今回もそうとは限らない。
パトリックは『武器になりそうなものを置いてきたな……』と、考えていた。
『無いよりはマシか』とベルトに手をかけるパトリック。
「ちょっと!そんな敵意増し増しの目で見ないでよっ!」
「失礼しちゃうワ!」と頬をぷくっと膨らませるイライジャ。
「もう一度聞きます。何故、ここにいるんですか?」
「えー、どうしようかなー?」
ニヤニヤと笑いながら、イライジャは、パトリックをちらりと見た。
「いる理由を知ったら、ワタシの手伝いをしてくれる?」
意地の悪い笑みを浮かべ、イライジャはパトリックに尋ねた。
「……」
イライジャがいる理由を問いただし、監視しながら彼の手伝いをするか、
イライジャの存在を黙認して、学園を好き勝手にされるか。
パトリックの中の天秤が、ぐらぐらと揺らめく。
――そして、パトリックの中にもう一つの考えが浮かぶ。
『誰かに任せよう。』
私は、勇者でも、物語の主人公でもない。
別に厄介事に、自ら進んで関わる必要はない。
アーリヤかペイジ辺りに報告して、自分は傍観していればいいか。
「……私には、大事な婚約者がいます。」
「へ?」
「その大事な婚約者を、結婚する前から未亡人にさせる訳にはいかないので、貴方のことは知らなかった振りをします。」
至極、真面目な顔をして、パトリックは答えた。
「……ぷっ、あはははは!何それ!?」
ヒィヒィと、お腹を抱えながらイライジャは笑い出した。
イライジャの反応を見て、少し拗ねた顔をするパトリック。
「あー、おかしい……」とイライジャは、目尻に溜まった涙を拭いていた。
「アナタ、面白いわね!」
パトリックに近づき、自分と目が合うように、彼女の顔を無理やり向かせるイライジャ。
「魔王様の、次の次くらいに好きになっちゃったカモ!」
「……迷惑この上ないですね。」
嫌な顔を隠しもしないで、パトリックは吐き捨てる。
「うふっ!生意気な子って、だぁい好きよ!」
イライジャの顔を近づいてくる。
パトリックは突き飛ばすように、イライジャから距離を取った。
「失礼します。」
そのまま足早に、パトリックは保健室を出ていった。
イライジャの揶揄うような笑い声は、パトリックの耳には入らなかった。
……人差し指の小さな傷が塞がっていることにも、気付かなかった。
しぼうせいにすると、脂肪性が最初に来るのが辛すぎる。
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