パトリック・ブルックスの戦術‐四
ひとしきり、自分が着る衣装で騒いだ後、衣装作成班と料理班に分かれる。
衣服制作班は、紡績が盛んな家の生徒や、縫製が得意な生徒が中心となって、作業の指揮を取っていく。
料理班も、王宮お抱えの料理長の子供や、お菓子作りが趣味だという生徒が、他の生徒たちをまとめていく。
パトリックは、ふと気づいた。
「私、どっちも苦手分野ですね。」
夢の中の未来でも、淑女の嗜みである、刺繍は初歩中の初歩で辞めてしまった。
今世では、裁縫道具さえ与えられていない。
料理やお菓子作りだって、今世でも夢の中でも、作ろうと思いもしなかった。
「(私が提供できる技術は……)」
考え込んでいるパトリックに、ネリエが声をかけた。
「ブルックス様!採寸いたしますので、こちらへいらしてください!」
「はい、今行きます。」
後で考えよう。と考えを切り替え、パトリックは呼ばれた方へ向かった。
―――
「それでは失礼しますね!」
肩から手首まで、首から腰まで、と次々に紐を身体に宛てがわれていく。
「胸の詰め物はいかがします?」
測ってくれていた女子生徒に尋ねられた。
「“これ”があるんで大丈夫です。」
そう言うと、パトリックはコルセットを外した。
――女子生徒が一斉にざわめき出した。
“えっ!?すごっ”
“どうやって納めてたの!?”
“私の三倍は、ある……”
「測らないんですか?」と不思議そうな顔をして、パトリックが尋ねる。
「で、では失礼して……」
女子生徒が、恐る恐る紐を当てにいく。
“私が測りたい”
“私も!”
“触ったら、ご利益とかもらえないかな……”
みんなが、ひそひそと話し出す。
女子生徒たちの息が荒くなり、紐を持つ手が明らかに不審な動きを見せ始める。
――それを制止するかのように、扉がノックされる。
「ノエルです。お手伝いすることはありますか?」
ノエルの声を聞き、パトリックが扉を開けに行く。
「えっ、ちょっ!?待っ、ブルックス様!?」
――“そのままの格好”で。
扉を開け、ノエルに話しかけるパトリック。
「ノエル、丁度、私の採寸をしてたんです……」
パトリックの顔を見て、目線を下に移動させたノエル。
「きゃーっ!パディ様、出てます!仕舞ってください!!」
顔を赤くしながらも、ノエルは目をぎゅっと閉じ、パトリックの胸を両手で隠す。
……隠しきれてないが。
「なんですか、毎晩見てるじゃないですか。」
「見てますけど!!」
後ろの女子生徒たちがざわつき出す。
「ここまで育て上げたのは、ノエルなのに。」
「そうですけどっ!!」
どよめきが、一気に広がる。
扉の前で、二人が話し込んでいるのを、ネリエが「とりあえず、こちらで話しませんか?」と呼びかける。
―――
「パディ様、無防備すぎます!私の後ろに他の方がいたり、殿方だったら、どうするつもりだったんですか!」
「ノエルの声だったから、開けたんですよ。他に足音はしてませんでしたし。」
「それでもっ!!」
ノエルが胸の前で、ぎゅっと自分の手を握る。
「今だって……私以外の方に、見てほしくないんです……」
パトリックにしか聞こえないほどの、小さな声だった。
潤んだ瞳のノエルが、上目遣いでパトリックを見る。
庇護欲と加虐心が、ないまぜになったパトリックは、「(ノエルと一緒に、早退しよう)」と考え出していた。
「あのー、大変申し訳ないのですが、二人の世界から戻ってきていただけると、ありがたいです。」
女子生徒全員から背中を押され、ネリエが代表して声をかけてきた。
―――
パトリックの採寸が再開された。
「……パディ様、少しよろしいですか?」
ノエルが採寸の手伝いをしながら、パトリックに尋ねる。
「なあに?」
「常々、不思議に思っていたんですけど……コルセット苦しいですよね?」
ノエルだけではなく、ネリエも、なんなら他の女子生徒全員が疑問に思っていたことだった。
女性の手では収まらないほどの大きさが、コルセットで毎日のように締め付けているのだ。
苦しくない、わけがない。
この場にいる全員が、コルセットの締め付けを悩んでいるため、同情的な表情を浮かべる。
――しかし、パトリックはきょとんとした表情で「これですか?」とコルセットを指さす。
「胸が大きくなり始めてから、水色髪の幼なじみを煽って、作ってもらいました。」
平然とした顔で、話し出すパトリック。
――パトリックの“水色髪の幼なじみ”といえば、一人しかいない。
全員が、ノアの顔を思い浮かべていた。
「胸元に、“異空間収納の魔法”を施してもらいました。」
パトリックは「見た目より苦しくないですよ」と、なんでもないかのように言ってのける。
コルセットを預かっていた女子生徒が、震え出した。
――“異空間収納魔法”
高位魔法の中で、取得が難しいと言われている四大魔法。
その内の一つであった。
価値をつけるなら、とんでもない額になる品物が手の中にある。
震えている女子生徒から、周囲の生徒たちは、気持ち距離をあける。
「……採寸終わりです。お疲れ様でした。」
ネリエのセリフに、震えていた女子生徒が、パトリックに素早くコルセットを渡す。
「そこら辺に置いといても、よかったんですよ?」
コルセットをつけながら“わざわざ、ありがとうございます”と感謝を述べるパトリック。
震えていた女子生徒は「そこら辺に置く!?滅相もない!!」と首を横に振っていた。
――『『幼なじみだからって、天才魔道士に高位魔法を頼めるなんて……悪魔令嬢、恐るべし。』』
女子生徒全員の心の声がもう一度、一つになった。
そんな事を思われているなんて、露知らず。
パトリックは何も知らないまま、ノエルに「ついでにノエルも採寸しましょう」と、にこやかに笑いかけていた。
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