パトリック・ブルックスの戦術‐三
……男子生徒にとって、運命のくじ引きの日が来た。
「引いてもすぐに、くじを開かないでください。」
ネリエが、男子生徒に声をかけながら、くじを引かせていく。
くじが入っている箱を持ち、パトリックは女子生徒たちに順番にくじを引かせていく。
ノエルが緊張した面持ちで、くじを引く。
いたずらを思いついた顔をして、パトリックはノエルに、こそっと耳打ちをする。
「学園祭が終わったら、衣装を買い取りましょうか。」
パトリックのセリフに不思議そうな首を傾げるノエル。
「……たまには“違う服”で、“やる”のも悪くないかもしれません。」
“夜の営み”の意味だと察したノエルは、顔を真っ赤にする。
「もうっ!まだ授業中ですよっ……!!」
逆上せているかと見間違えるくらい、ノエルは顔を赤くして、ぽこぽことパトリックを叩く。
「後ろがつっかえてるから、早く回した方がいいんじゃないかな?」
口角をぴくりと引き攣らせて、アーリヤは笑顔を取り繕った。
――アーリヤは、パトリックがノエルから離れたのを確認した後、
ノエルを睨むことを忘れなかった。
―――
「全員引きましたね?それでは開いてください!」
ネリエの掛け声と共に、かさりと紙が開かれる音が教室内に響き渡る。
“ドレスだ……”
“紳士服でしたわっ!”
“執事服ですって!”
“メイド服!?”
一喜一憂の声が、教室を包む。
そして、注目されているのは、“あの四人”だった。
女子生徒たちが、そわそわしながら四人を見ていた。
そんな空気を察して、パトリックは話しかけに行く。
「カイル兄さんは、どの衣装でしたか?」
「オレはメイド服だったぞ!」
少し照れたような顔で、カイルは答えた。
“きゃーっ”
黄色い声が、あちらこちらから聞こえてきた。
「ノアは?」
パトリックは振り返り、ノアに尋ねた。
「……」
ノアは返事をせず、引いたくじをパトリックに見せた。
「おや、ノアもメイド服でしたか。」
“なんか、想像しやすくて、面白みにかけますね”と小さく笑うパトリック。
それを聞いて複雑な顔をしながら、ぷいっとノアは顔を背けた。
“ノア様のメイド服!?”
一段と高い声たちが、騒いでいた。
「ヘーレーは……」
「我もメイド服だ!」
にかっと笑いながらヘーレーは、開いたくじを見せてくれた。
“隣国の王子からご奉仕をしてもらえるなんて……!”
期待と不安が混ざった声が聞こえてきた。
「アーリヤ王子は、なんでした?」
パトリックが尋ねると、アーリヤはにっこりと笑って紙を見せてくれた。
「ドレスでしたか。」
パトリックが頷く。
“ドレスを仕立てたい……”
“むしろドレスになりたいですわ……”
少し方向性が違う声が、混ざっていた。
「パティはなんだった?」
笑顔のままアーリヤが、パトリックに尋ねた。
「私ですか?ドレスですよ。」
夢の中の未来で起きた、斬首刑を阻止するために、パトリックはずっと男性服を着てきた。
久しぶりだな、とパトリックはわずかに感傷に浸る。
パトリックの言葉を聞いたアーリヤが、もっと笑顔を輝かせた。
「ドレス、お揃いにしない?」
――女子生徒たちに、文字通りの激震が走った。
ネリエを中心に、クラスの女子生徒が円陣を組んだ。
“さすが、我が国の王子……天才か?”
“雰囲気が全然違う、お二人がお揃い!”
“絶対、素敵ですね”
女子生徒たちの円陣から、聞こえてくる声をパトリックは無視をする。
「嫌ですよ。」
円陣を組んでいた女子生徒が、一斉にパトリックを見る。
「社交場というのなら、徹底的に雰囲気を作り上げたいんです。」
思った以上に真面目に取り込もうとしていたパトリックに、ハッと気づかされる女子生徒たち。
「それに――」
クラスの女子全員が、パトリックの次の言葉を待つ。
「同じ服だと身長差、体格差が如実に出るじゃないですか。」
女子生徒たちが、ズルっとその場で転びかけた。
「“王子の方が良い”とか言われたら、言った人の家を没落させます。」
ぷくっと頬を膨らませるパトリック。
アーリヤは「そんな可愛い顔して!誰かに攫われちゃうよ!」と褒めていた(?)が、
その物騒なセリフは、今のパトリックの表情とはまるで噛み合っていなかった。
「「(やっぱり、悪名高い“ブルックス家の悪魔令嬢”だ……)」」
クラス全員の心が、思わず一つになった。
テイラーがパトリックに向かって、「正体を現したわね!」と指をさそうとした。
しかし、ノエルに遮られてしまった。
「わっ、私も、パディ様とお揃いが、良かったです。」
だんだん声が小さくなっていくノエル。
「執事服だったの?」
「はい……」
ノエルが、気の毒に思えるほど、肩を落としていた。
「なら、私の専属の執事ってことにすれば、学園祭でずっと一緒にいれるわね。」
その言葉を聞いて、ぱぁとノエルの顔が明るくなった。
――ついでに、アーリヤがメイド服を引き当てたノアやカイルに「変わってくれ!!」と頼み込んでいた。
アーリヤの提案に、首を横に振るノアやカイル。
「我も赤薔薇の専属メイドに、名乗り上げるのも一興だな!」
「僕がパティの専属メイドやるから、くじを交換してくれ!!」
「謹んで、お断りしよう!」
“なんでだっ!?”とアーリヤは、膝から崩れ落ちた。
周りの生徒たちから、心配されるアーリヤ。
「なんで悪役令嬢ムーブが、黙認されてるのよっ!?」
“意味わかんないんだけど!?”
テイラーも“紳士服”と書かれたくじを握りしめ、机に突っ伏す。
テイラーに声をかける生徒は、結局、誰一人いなかった。
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