パトリック・ブルックスの戦術‐二
「早速ですが、カフェで提供する食事と、各自の衣装を決めていきましょう!」
ネリエがぐいっとメガネを上げた。
“社交場がイメージなら、立食式がいいのでは?”
“軽食の食材、うちの特産使ってください!”
“飲み物なら最近出し始めた俺の領地のを使ってくれ!”
クラスの全員が次々に名乗りを上げ、カフェで出す軽食と飲料は、あらかた決まっていった。
「次に衣装ですね……」
ネリエがニタァと笑みを浮かべる。
“クラスの女子に、根回しした甲斐がありました”
という、ネリエの発言はパトリックにしか聞こえなかった。
「なぁ、やっぱり男が女の服を着るなんておかしくないか……?」
一人の男子生徒がぼそりと呟く。
ネリエが少し、焦った様子を見せる。
“やっぱり、おかしいよな?”
“女物とか恥ずかしい……”
“自分たちは、男物だからって……”
――それを皮切りに、困惑と不安が入り交じった、ざわつきが、男子の間に間に広がった。
それを聞いて、テイラーが「そうよっ」と立ち上がりかけた。
が、その前に――声を出す人物が一人。
「なんだ、男子諸君!決まったことに、意見するとは、男らしくないぞ?」
カイルが、がたっと立ち上がる。
「不満に思うなら、最初に言えば良いだろう?何故、決まってから文句を言い出すんだ?」
心底、不思議そうな顔でカイルは、周りを見渡す。
「カイルは、女物の服とか恥ずかしくないのかよ……?」
近くにいた男子生徒が、カイルに尋ねる。
「全く!……と言いたいところだが、少し嘘になるな。しかし、常日頃から女性が着ている服装なんだから、恥じることはないだろう?」
にかっと眩しい笑顔を、尋ねてきた男子生徒に見せるカイル。
男子生徒も「そうか……そうだな……?」と煮え切らない様子だったが、一応納得はした。
カイルがパトリックに向けて、親指を立てていた。
パトリックも、カイルに対して親指を立てた。
「男が女性服を着るのは、おかしい事ではないぞ!」
次に立ち上がったのは、ヘーレーだった。
「我の国では、ある年齢まで魔除けとして、男児は女児服を、女児は男児服を着る風習がある。」
“性別を撹乱させ、魔から子供を護るというのが由来だ!”
ヘーレーは誇らしげに胸を張った。
ヘーレーがパトリックに“どうだ、我も後押ししたぞ!”と言いたげな笑顔を見せた。
パトリックは、ヘーレーに“ありがとうございます”の意味を込めて、小さく微笑んだ。
「それは、小さい頃だから恥ずかしくないだけであって、今は違うでしょ!?」
テイラーが必死な形相で、どうにか食い下がる。
そんなテイラーの姿を、パトリックは苛立ちを隠して、じっと見つめる。
“埒が明きませんね”
パトリックが口の中で、セリフを吐き捨てる。
しょうがない、とパトリックは、“奥の手”を使うことにした。
「……男性が女性の服を着ることについて、どう思われますか――アーリヤ王子?」
パトリックは、アーリヤを名指しして意見を求める。
――なんとも“悪役”という表現がぴったりの笑顔で。
パトリックの顔で意図を察し、アーリヤは爽やかに話し出した。
「僕は、男性が女性衣服を着ても良いと思うよ。普段は知りえない、女性ならではの大変さが学べるからね。」
テイラーが口を挟みかけるが、それを許さないかのように“だって”と、アーリヤは言葉を続けた。
「一国を担う者ならば、それくらい経験しておかないと。」
先程よりも少し大きめの声で、アーリヤは話す。
「“知らなかった”を、免罪符にしてはいけないと思うからね。」
誰もが見惚れるような笑顔で、“僕が勝手に思ってるだけだけどね”とアーリヤが付け足した。
女子生徒たちは、ほぅとため息を吐きながら、うっとりとアーリヤを眺めた。
男子生徒たちは、アーリヤの心構えに何も言えなくなっていた。
テイラーの口が何かの言葉を紡ごうとしていたが、怒りのせいか、声は出ていなかった。
アーリヤは、パトリックを見るなりウィンクを一つした。
パトリックは、アーリヤのウインクを避ける動作をした後、小さく会釈をした。
「さあ男子生徒の方々と……聖女一名。」
男子生徒たちを見渡し、最後にテイラーを見据える。
「我が国の王子は賛成だと仰いました。」
――皆さんも賛成ですよね?
パトリックの言葉が、クラス全員に聞こえた気がした。
「多少残っていた慈悲で、着たい衣装を選ばせようかと思いましたが、大幅に時間を食ってしまったので、全員くじでいいですよね。」
パトリックが少し早口で捲し立てる。
「いいと思います!みんな公平に!」
ネリエが声を上げた。
――その時、ペイジが二人に声をかける。
「今日はもういい時間なので、また次にしましょうか。」
ペイジの言葉を聞いて、「わかりました」と席に戻るパトリックとネリエ。
――安堵の息を漏らす男子生徒たちであった。
「(なんで、攻略キャラたちが乗り気なのよっ!?絶対おかしい!!)」
テイラーは、机に突っ伏したまま、頭を抱えていた。
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