表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】斬首された悪役令嬢、今世は男になってみることにした  作者: 邑輝 麻斗
二週目if〜パトリシアのままだったら〜
102/103

パトリシア・ブルックスの今世?


「きゃあぁっ……」


自分の悲鳴で、パトリックはがばりと起き上がった。

声を出したはいいが、即座に『叫ぶ必要はない』と判断して口を閉じた。


既視感のある目覚めに、随分と昔にしなくなったはずの『うなじを触る癖』が出ていた。

そして、触って気づいた。

――手が小さい。

うなじから手を離し、じっと自分の手を見つめた。


はっとして、さっきまで隣に寝ていたはずのノエルを探す。

……どこにもいない。

まず、自分が寝ている部屋が幼少期に使っていた部屋だと気付いた。


小さな自分の手。

ノエルの温もりが残っていないベッド。

そして、幼少期の部屋。


そしてベッドサイドテーブルから、恐る恐る一枚の手紙を取り出した。


“アーリヤ王子、誕生日会へのご案内”


――考えられることは、ひとつだった。


「……()()、五歳の時に戻っているっていうの?」


―――


パトリックは、まず最初に最愛の人(ノエル)と、子供たちを探した。

部屋から抜け出し、屋敷を見て回る。

いくら探しても、ノエルと子供たちの姿はなかった。

ノエルたちがいない代わりに、使用人たちの顔ぶれが懐かしいものばかりだった。


……子供たちが増えてから、増築した部屋がなくなっている。

いや、まだ()()()()()()()()状態だった。

本当に、幼少期の頃に戻っているようだった。

パトリックは、自身の手を固く結び、次の部屋へ向かった。


――父である公爵の部屋である。


パトリックは、公爵の部屋の前に立ち、荒くなった息を整えた。

ごくりと唾を飲み込み、扉をノックした。


「パトリ……シアです。今よろしいでしょうか?」


この時は、まだパトリックではない。

言い慣れた名前を、慌てて言い直した。


「入りなさい。」


低く落ち着いた声色だった。

聞けなくなってから、だいぶ経つ父の声。

今にも泣きそうなのをぐっと我慢する。


「……失礼します。」


「こんな時間にどうしたんだい、パティ。怖い夢でも見たかい?寝れるまで手を握っていようか?」


優しい目をこちらに向けている公爵。

おいでと、パトリシアを手招く。

導かれるように、ふらふらとパトリシアは公爵の元まで行き、公爵を思わず抱きしめた。


――ああ、お父様が生きているっ!

私が三十五歳になってからしばらくして、流行病はやりやまいに伏してしまったお父様。


『かわいい娘が二人になって、孫も、ひ孫も見せてくれた。……私は満足だよ。』


そう言い残して、お母様の元へ向かわれてしまった。

また会えるなんて……!

パトリシアは年甲斐もなく、ぐずぐずと泣いてしまった。

……肉体年齢は五歳なので、年齢でいうなら悪いことではないのだが――

気持ちの問題である。


「お父様っ、お父様……っ!!」


涙が溢れ出して止まらない。


「おやおや、今日のパティは甘えん坊さんだね。」


公爵は、パトリシアの頭を優しく撫でた。


「明日はアーリヤ王子のお誕生日会だ。早く寝ないと。」


目を赤く腫らし、鼻水をすするパトリシア。

公爵は、メイドに冷たいタオルを持ってくるように指示した。


「どんな顔のパティもかわいらしいが、王族の前で変な姿は見せられないからね。」


公爵は、メイドから受け取ったタオルをパトリシアの目元に当てた。


――そうか。明日はアーリヤ王子の誕生日会か。

行きたくないと駄々をこねてもいいが……

その時、パトリシアは『あること』を思いついた。


目元へタオルを当てている公爵の手に、そっと自分の手を乗せた。


「お父様……わたくしが、明日どんなワガママを言っても許してくださる?」


「私のかわいいパティ。もちろんだとも。パティの望むものはなんでも叶えようね。」


「本当に?うふふっ、嬉しい!」


――とりあえず、これで保険になるでしょう。


パトリシアは、にこりと笑みを深める。

公爵の付き添いを断り、パトリシアは自室へと向かった。


―――


アーリヤ王子の誕生日会、当日。

パトリシアは、ぼんやりとアーリヤが入場するのを待っていた。

――これからの人生の計画を立てながら。


その時、やっとアーリヤが入場してきた。

前の通り、短剣を腰にさしながら。


アーリヤが色んな人々からお祝いの言葉を述べられ、一人の令嬢が「“とても素敵な剣ですわね!”」と声をかける。

それに気を良くしたアーリヤが短剣を抜き、剣舞のように動いてみせようとした。


――刹那。

パシンッ


乾いた音が、会場に響いたような気がした。

子供たちも大人たちも一斉に、パトリシアを見ていた。

アーリヤの短剣を叩き落とした少女を。

……だが、そんな視線を気にするようなパトリシアではなかった。


呆けたアーリヤに、パトリシアは口を開いた。


「やたらむやみに武器を振り回すものではありません。誤って怪我をさせたら、王子の責任になるんですよ?」


斬首された夢の中でも、大往生をした前の人生でも、怪我をしたのはわたくしだった。

……なら『怪我をしなかった』時は、どうなるのだろうか。


ちょっとした『思いつき』である。

そして、パトリシアはアーリヤに向かって、しずしずとカーテシーをした。


「注意を促すためといって叩いてしまい、申し訳ございません。」


しかしパトリシアの顔は、アーリヤを叩いたことに対して罪悪感など持ち合わせていなかった。

アーリヤも、叩かれた手を擦りながら「あ、ああ…… こちらこそ、すまない。」と平謝りをするしかなかった。


「何の騒ぎですか。」


誰かに呼ばれたのか、王妃がこちらへと近づいてきた。


「(王妃様もご逝去せいきょされてから何年経ったかしら?本当、懐かしい顔ばかりだわ)」


パトリシアは、王妃の顔をまじまじと見た。

誰の咳払いで、パトリシアは『アーリヤに嫁いでくれないか』と言われてた頃とは違う、と思い出し、慌ててカーテシーをした。


王妃の顔は、アーリヤに向けられている。

この時のアーリヤは、パトリシアに好意を抱いていない。

ここで、アーリヤが『この子に手を叩かれました。』と言えば、パトリシアに何かしらのお咎めがあるだろう。


――だから昨日の夜、公爵に“ワガママを聞いて”と保険をかけたのだ。


こめかみに伝う冷や汗に気づかない振りをして、パトリシアは頭を下げ続けた。


「――いえ、僕の不注意でこの子が危うく怪我をしそうになったんです。」


アーリヤは、パトリシアに向き直り「ごめんね。怪我はない?」と声をかけた。

予想とは裏腹に、自身を庇われたことに驚きが隠せないパトリシア。

何とか声を絞り出し「こちらは、なんともないです。」と返事をした。


――これは……保険がなくても、良かったかもしれない。

そんなことを考えていたら、慌てた様子の声が聞こえてきた。


「大丈夫かい、パティ!どこも怪我はしてないかい?」


公爵が、パトリシアの身体を隅々まで確認する。


「傷一つないですよ、お父様。」


「……みたいだね。良かった。」


パトリシアの様子を確認するためにしゃがんでいた公爵は、すっと立ち上がり、王妃とアーリヤに向かって深々とお辞儀をした。


「我が娘が粗相をしたのなら、大変申し訳ございません。そして、娘の責任は私の責任です。」


力強い声が、会場に響き渡る。


「罰があるなら、どうか私めに。」


公爵の言葉を聞いて、王妃とアーリヤは顔を見合せた。


「顔を上げてください、公爵。どちらかと言えば、僕が悪いので、お咎めも何もないですよ。」


パトリシアは、ほっと小さく胸を撫で下ろす公爵を盗み見ていた。


「(やっぱりお父様にも、怖いものがあるのね)」


少し的はずれなことを考えていたパトリシアだった。


―――


「せっかくの祝いの席で、水を差すような真似をしてしまい、申し訳ございません。誠に勝手ながら、中座させていただきます。」


公爵はそう言葉を残し、パトリシアを連れて会場を後にした。


「よろしいの?お父様。」


揺られる馬車の中で、パトリシアは公爵に尋ねた。


「本当はよろしくないけど……周りの人たちがパティのことを悪く言ったりしたら、お父様がその人を許せなくなっちゃうからね。」


公爵は、隣に座るパトリシアの頭を撫でた。


――その気持ちは、よくわかる。

昔、ニコラスがクラスメイトに悪口を言われたと聞かされた時、私も言った奴の家を取り潰そうとしたから。

ノエルとアレクシス、そしてアメリアに止められて潰せなかったのよね。

……先に潰しちゃおうかしら?


そんなことを考える帰路だった。




番外編的なやつです。

でもすぐ終わると思います。



評価、ブクマ、レビュー、感想ありがとうございます!

大変励みになっております!

引き続き、どうかよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ