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終の閨秀-幼女と女傑の異世界平定物語-  作者: 高麗俊
第二章 冒険者組合
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081.業務連絡

 翌朝、アーシェは朝食を済ませると人形を作り出し、貿易都市の屋敷へと赴いた。昨夜のこともあり、従者たちは皆総じてピリピリとした雰囲気を纏っている。


「連絡があります。まず、一部のものには既に伝えておりますが、昨晩、貿易都市南方に位置するツェペット森林において、小鬼の出現を確認しました」


 皆の意識がアーシェの言葉に反応するのは、魔力の揺らぎにて一目で分かった。

 皆、この二ヶ月で小国の空気に慣れ始め、気の抜ける場面もあったのだろう。もちろん公室から与えられた職務を蔑ろにしていたわけではない。やるべきことは滞りなく熟し、万が一異常が発生したのなら直ちにアーシェらに報告もしていただろう。


 しかし、ここへ来てようやくこの地が本国でないことを実感した。

 出会いたいかどうかは別として、小鬼は大国では既にお目にかかれない魔物である。二世紀以上も前、まだ三世代前の賢者が存命だった頃、周辺諸国の怠慢により小鬼の大量発生が各地で起こり、世界各地で甚大な被害を齎したことがあった。


 その際、王令のもとに全領地参加の討伐隊が組まれ、文武侍官、そして公族総出で殲滅作戦が決行された。あらゆる魔法、軍用魔獣を用いて地中に隠されている卵一つ逃さず、文字通り小鬼を国内から殲滅してみせたのだ。


 大量発生の源が周辺諸国だと言うこと、そして初動の早さもあり、大国は比較的被害を抑えることに成功した。しかしそれでも比較的である。

 当然地方村の損害は少なからず出ており、数百の村が襲われ、その内一割ほどは自己再生が不可能になるほどに陥った。さらには幾つかの村は何一つ、人間だけでなく全ての生物が消失したところもあった。


 殲滅作戦の完遂が宣言されるまで、実に半年の月日を要した。

 実際には全現役貴族を動員した強引な人海戦術により、二ヶ月で小鬼の成体は殲滅できていた。いや、二ヶ月の間に殲滅させなければならなかったのだ。


 小鬼の繁殖能力は凄まじいが、集団でいても、鉄の鎧など毒の武器を防げる防具があれば、魔力を持たざる者が挑んだとしても然したる脅威ではない。しかし放置すれば放置するほど増殖し、増加値に討伐速度が追いつかなければ泥沼に陥り、やがて飲み込まれる。


 そして当時、対処に終えなかったのが、小国の中でも比較的国土の広い国々だった。

 都市国家は兵力も少ないが、国土も狭いため、首都とその周辺の警戒だけで十分だった。問題は、当時地方分権による反乱を恐れ、中央集権主義に走った国々だ。

 元々都市国家の成り立ちこそが、そのような力を持った地方領主による独立などであり、力こそが正義と言われる現代において、辺境領の独立は看過できるはずもなかった。


 当時は多少の諍いこそはあったものの、世界的に見て平和が持続していた時代であった。軍縮が進み、平和に酔い、そして油断していたのだ。

 その結果が小鬼の氾濫だ。森林遠征や登山演習の頻度が低くなり、十分な警戒が出来ず、小鬼が繁殖できる隙を与えてしまった。


 氾濫が起きた後もそうだ。

 徴兵しようにも兵士たり得る人材の不足や、どのような理由であっても軍備強化に反発する絶対平和主義者により、牛の歩みとなった対策室は、無理難題を強いられ、会議に呼ばれては無駄な時間を強制させられ、本来やるべきことすら邪魔される始末。


 多くの国々が地方領主の増長を恐れて、対策室を中央主導で行ったことも悪手の一つだったかも知れない。

 事態を楽観視した内界領主たちの協力は得られず、地方から送られてくる情報には時差があり、どうしてもその場その場の臨機応変な対応が出来ない。それ故に、領主たちが独断で指揮を執るに至るまで、然したる時間はかからなかった。


 戦後処理も酷いものであったと記録に残っている。

 対応の遅れを王族になすりつけた小国の内部領主たちは、国王のみならず多くの王族を弾劾し、傀儡に出来る幼い王族のみを残した。


 その直後。パール王国へ戦争を仕掛けたヒスイ王国国王も、同様の立場に迫られていた。

 むしろ他の国々よりも多くの損害を被ったと言えよう。


 疲弊した国力を振り絞り、勝てるはずもない大国に戦争を仕掛けたのは、一見して狂人の行いと言える。

 しかし、公的記録に残されてはいないものの、そこにはパールとヒスイとの間で取り引きがあった。


 国王の首を以て、ヒスイを彼の国の従属国とし、大国の庇護下に入る。


 腐った貴族に何もかもを奪われる前に、自らの命を引き換えに、国民の安全と、王族の命を紡いだのだ。

 彼の国の歴史書には最低最悪の愚王として未来永劫語り継がれるだろう。そして実の父を断罪し、その決意を以てパール王国に忠誠を誓い、瞬く間に国を再編、再生させた王太子は、希代の賢王、新生ヒスイ王国の初代国王として祀られている。


 小鬼は時として国家を壊滅まで追い込む。それを正しく認識しているからこそ、大国貴族は小鬼を恐れるのだ。


「敵勢力は拉致した祈祷師を用いて、強力な小鬼の養殖を目論んでいる可能性があると、枢密院にて決議されました」


 彼等はアーシェが枢密院に赴いていることを知っている。それは茜の存在を知っているのではなく、アーシェがミリアシルの後を継ぐ故に、連れて行かれているのだと思っているからだ。

 もちろん公式発表を前に、対内的に認知させる宣伝としての側面もあるので、彼はそれを隠れ蓑にして事実を隠す路線で行くらしい。


 その他にも枢密院で決まった事項を話せる範囲で伝えていく。

 今回従者たちに一番影響を与えたものは、やはり女官の召還命令だろう。黒装束や武官の多くが男とは言え、文官や侍官は女の比率が高い。

 しかし、彼女らにも持ち前の職務というものがある。引き継ぎを行うにしてもそれなりの時間を要し、そう簡単に頷けるものではなかった。


 無論ミリアシルも、それは承知のことである。それ故に後日送られてくる交換人員への引き継ぎ期間を設けていた。あらゆる作戦行動を中断して即時帰還するのは、必要に迫られた一部の者のみである。


 例えばこの街にいるアーシェとは違うパール間者。

 今や国外にて安全な場所はないが、小鬼の報告により、カスタレア周辺区域が最も警戒すべき場所へと塗り変わった。それは現在巷を騒がしている拉致騒動もそうなのだが、それよりも圧倒的に質の悪いものだ。


 しかしこの情報は、外部の者には知らせてはいけないという箝口令が敷かれている。

 例外的に、外務郷の要請により、セルヴ領経由でアーシェと共にカスタレアにやってきた通信兵団が、先ほど彼女と別れて一目散に大使館へと向かっていった。十中八九この都市の大使と、前の被害者へ、話を付けに行くためだろう。


 即時帰還しない従者たちへの制限は、決して女官は敷地の外に出ないこと。

 屋外に出ることすら極力避けるようにとのお達しがあり、一時的に男性陣の負担が大きくなるが、不満を言うものは誰一人としていなかった。



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