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終の閨秀-幼女と女傑の異世界平定物語-  作者: 高麗俊
第二章 冒険者組合
73/197

073.モデルに興味はありませんか?

 ミリアシルから外出禁止令が出されてから四日後。

 思ったより情報が少なかったのか、死に物狂いで整理して想定以上に早く終わったのか、何にせよ期日の前に納品するという立派な成果を彼等は残した。


 それにより、アーシェはその翌日から外で活動しても良いことになり、貰った情報からルーディ伯の件に関しても複数の迎撃法を編み出していた。

 最初から予想は付いていたものの、やはり彼の派閥とやらには、アーシェも関わるのをやめるよう指示が出されたのだ。


「お久しゅう存じます」

「はい。お久しぶりです」


 お断りのためだけに彼の住居に向かうのも、何だか時間の無駄だなと考え、同じ組合に属しているのだから、いつかは会えるだろうと言うことで、アーシェは以前と同じように依頼を受けにきた。


 ここ数日何も言わずに休んでいたこともあり、受付嬢や交流のあった職員たちから心配されていたらしい。


 冒険者は別に毎日依頼を熟す義務はない。

 しかし等級に応じて設定されている期間依頼を受けていない場合は、再登録料を取られることになり、払われなかった場合は一時的に冒険者身分が凍結される。

 冒険者の最底辺である壬級が一週間、そこから己級までは一週間ずつ増えていき、戊級が二ヶ月で丁級が半年、丙級が一年、それ以上は期限無しである。


 アーシェは辛級に属しているため、二週間依頼を受けなければ冒険者の身分を剥奪されてしまう。因みに再登録料は十モネで、組合証をなくしていた場合、別途再発行料がかかる。


 この制度は等級の低い冒険者を無理矢理働かせることで、アーシェたちが普段受けているような雑用も、誰かは必ず受けるという、依頼消化目的でもあった。


 もちろんアーシェが心配されている理由は身分の剥奪では無い。彼女は純粋に人望が厚く、今まで先勝のお参りだけしか休んだことはなかった。

 その日は午前に神殿へお参りに行き、午後は部屋に籠もってお稽古の猛特訓である。


 そこまでは教えていないが、経験的に彼女が先勝だけはお休みだと言うことを知っている。


「まずは朗報があります。……おめでとうございます。辛級から庚級に昇格致しました」


 辛級になってから大した依頼をやっていないはずだが、昇級査定は依頼の達成数だけではないらしい。

 日頃の行いや、組合への貢献度等々、多角的に評価される。

 低級冒険者が、組合職員の目に留まることは非常に希であり、そのため殆どの冒険者は依頼の達成率、達成数、難易度、依頼者からの印象などを反映して査定を決めるらしい。


 アーシェの場合は職員からの評価は凄まじい。

 壁内で完結する依頼を多く受けているため、時間効率が良く、達成数も群を抜いていた。

 依頼者からも好印象が強く、悪評は一度も聞いたことがない。ただの一度も失敗したことがなく、自身の情報料を高めに設定することで、本人からも、他者からも少なくない額が払われている。


 唯一の欠点は依頼の難易度だ。討伐系や遠征系は明確な難易度が設定されているが、その他の依頼はその扱いが難しいものがある。


 例えば書類整理の依頼は、文字が読めなければ甲級冒険者ですら手に付けられない。

 しかし、書類整理は冒険者の本分でもある戦闘力には直結せず、そのため、アーシェたちの戦闘力は今まで計測できなかったが、先の依頼でネズミを狩る戦闘力を見せた。


 初めての討伐依頼でネズミ五匹というその成果に、ダリラは表情にこそ出さなかったものの、大いに感心した。


 整備され、地肌がむき出しになっている街中ならともかく、夏の成長期を終え、腰にまで届く草原の中で、立ち上がっても臑あたりしかないネズミを見つけ、仕留めるなんて、駆け出しができるような事ではない。


 因みにアーシェが討伐は全て部下が行ったと正直に話したところ、どうやら何の問題も無いらしく、組合の方針としては強い仲間や従者を持つならば、それもまた戦力の一つと考えているらしい。


 実際に奴隷を多く従わせ、自らは手を下さずに丙級にまで上り詰めた冒険者もいる。

 一般の冒険者が負傷し、時には手足を失うと降格処分になる事があるが、彼等の場合は奴隷の戦力が減ると降格処分になるため、意外とそう言う者ほど奴隷を大切に扱うこともある。


 尤も、消耗品として無謀な人海戦術に使用されたりすることもあり、むしろそちらの方が多いので、冒険者の奴隷になったら、果てはもう近くだと捉える者が大多数なのだとか。


 所有戦力として判定されないのは、当人が冒険者の場合のみである。

 派閥のトップが部下を自分の戦力としてみないように、もしも奴隷を組合に登録した場合、評価基準としては主人と奴隷を別戦力として判定する。

 つまりいくら奴隷が強かろうと、主人の評価には繋がらないので、奴隷の方が先に昇進することになるだろう。


 今回依頼を受けたのは四人で、その上全員が別々の個体を討伐している。

 組合証が記録するのは魔物の討伐数だけではない。その魔物を討伐した時、周囲にある組合証の数も記録され、討伐報酬は魔物の数を組合証の数、つまり討伐に参加した冒険者の数で割った金額が支払われることになっている。


 しかし、以前の四人の組合証には、確かに一人ずつが五匹ずつ討伐したと記録されており、それはつまり全体では二〇匹の討伐に成功したと言うことに他ならない。

 本当はその事についてアーシェに尋ねようと思っていたのだが、あの日は面倒なところから邪魔が入ってしまい、中断せざるを得なかったのだ。


「次に、これは報告と言うより宣伝なのですが、宜しければ組合紙は如何ですか?」


 組合の広報担当が毎日手書きで送る組合紙。

 直近の事件やそれについての組合の見解、最近の活躍している冒険者の情報等々、様々なことが書かれている。


 冒険者組合の組合紙はどちらかというと外部向けの情報誌である。

 組合紙を買うほど余裕がある冒険者は、情報屋や自身の交流から既にそれらの情報を手に入れていることが多く、あまり新鮮味がない。


 それらの情報が本当に必要な者は、公式発表を知りたい部外者である。

 特に冒険者と専属契約を結びたく、青田買いを目論んでいる商人などは、等級ごとの注目冒険者情報を喉から手が出るほど欲している。


 組合紙に載ると言うことは、他の誰でもない組合からの公式推薦である。多くの冒険者にとってそれは名誉なことであり、有名冒険者への登竜門とも言われている。


 しかし、アーシェは別に名誉を欲していない。

 自分を売り出そうともせず、出世したいとも、財産が欲しいとも思っていない。況してや生活に困っているわけでもないのに、何故冒険者をしているのか甚だ疑問である。


 ただ、組合としてもアーシェを宣伝することで、彼女の情報を求めた同業者や商人が、多くの情報料を払って貰えるのであれば、是非とも前面に押し出したいところではある。


「それで、何故本日組合紙についてお話ししたかと言いますと、お嬢様方を等級別注目冒険者一覧に加えたいという旨を広報担当から預かっておりまして」


 組合紙に載せる情報は全て組合内で完結するものだけであり、出自や普段の生活などを載せるわけではない。

 依頼者の性格などは、関わった職員たちや人事部の印象などで判断する。


 基本冒険者の宣伝が目的なので、彼等の情報は、民衆が負の受け止め方をしないように書くし、本当にやましいことがあればその部分は無視か、それでも酷い場合は記事に取り上げることを断念することもある。


 言ってしまえば組合の広告塔にならないかというお誘いだった。

 その広告塔がいつまで続くかは分からないが、少なくとも庚級の間はアーシェリットの名が消えることはないだろう。


「お話は嬉しく存じますが、今回は辞退させて頂きます」


 もちろん、アーシェはその誘いを断った。



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