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終の閨秀-幼女と女傑の異世界平定物語-  作者: 高麗俊
第二章 冒険者組合
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074.魔法の応用と予兆

「その代わりと言うわけではありませんが、組合紙を一部頂けないでしょうか」


 組合紙は毎日単体で購入することも出来るが、週契約、月契約、三ヶ月契約、半年契約、年契約と契約期間が長くなるにつれて単価が安くなる。

 しかし、アーシェはいつ本国へ召還されるか分からない身である。一年契約をして数週間しか利用しなかったら、予算の無駄になってしまう。


 アーシェとしては、たとえモネ硬貨だろうと小国で落としたくはないと思っている。

 ミリアシルはモネ硬貨のことを外貨と言い、あまり重要視していないが、それは彼が生粋の貴族だからだ。


 確かにセルヴィスの上層では、モネ硬貨が使われることはないが、セルヴ公爵領の中でも、中規模以下の街なら、貴族街でもモネ硬貨が使われている。

 子爵領以下の下位領地ならば領都上層でもモネ硬貨を使うことはあるそうだ。


 ミリアシルは職務柄、どうしても公都セルヴィスを中心として計画を立てる。


 彼の方針は大きな都市を長年かけて緩やかに発展させるものだ。

 大領地としてその考えは正しいのかも知れないが、茜と何度も討論をした結果、アーシェは大都市を少しずつ発展させながら、余剰予算にて中規模以下、特に小規模都市と大規模農村をもっと発展させたいと考えていた。


 茜の説得により、アーシェの節制の考えは多少マシになったが、その分予算を領地に還元しようという考えが強くなってしまった。


「承りました。では依頼の手続き処理と共にお持ち致します。本日の依頼は何にしますか?」

「こちらで」


 アーシェが持ってきた依頼は街道拡張の依頼だった。

 拡張と言っても大規模工事などではなく、辺り一面に生えている草の刈り取りだ。この依頼は等級制限がある。

 とは言っても一般的な等級制限とは逆の、低級冒険者限定の依頼だ。


 ダリア曰く、低級冒険者への救済措置だそうだ。

 お上りさんが冒険者になって舞い上がり、貯金を叩いて装備を調え、初めての討伐依頼で失敗し、命からがら逃げてきたところで装備を紛失する。

 その見事なまでに定番と化した一連の流れは、多くの冒険者を失意のどん底へ突き落とし、多くの者はヤミ金へ手に出し、新たな装備を調えようとした。


 それで依頼を達成できるのなら、まだ早期返済できるのだが、二回三回と同じ過ちを繰り返し、債務が積み重なり、債務を返すために更に悪徳の金貸しから借りるという悪循環に陥る者がいた。


 そこで組合は新人を潰さないためにも、街の公共施設を管理する組合連合の仕事を幾つか請け負い、健全な生活を維持して貰うことにした。

 その一つが大門付近の整備だ。


「相変わらず選定基準が他とは違いますね」

「素直に変わっていると言っても良いのですよ」

「ははは……手続きしてきますね」


 ダリラに手続きをして貰い、アーシェは組合館を出た。行き先は南大門だ。


 大門に着くと従者を降りて近くの兵舎に訪れる。

 カスタレアの兵士は組合連合所属の公務員である。冒険者のような雇用形態ではなく、貿易都市内で逮捕権などの特権が付随した国家機関だ。


 その中の一人、中間管理職の衛兵に連れられ、アーシェたちは徒歩で貿易都市を出る。もちろんその際の関銭は払う必要は無く、書類上はアーシェたちはまだ街の中にいることになっている。


「こちらは南方の国々から訪れる商人たちの大動脈です。本格的な拡張は冬の間に行う予定ですが、それまでの下準備として、貴女方には一帯の草刈りをお願い致します。連絡用に兵士二人を置いておきますので、何かございましたら彼等にお尋ねください」

「はーい」


 どうやらアーシェ以外のも冒険者が依頼を受けているらしく、既に草刈りが始まっていた。


 ――一応ご挨拶に伺った方が良いかしら?

 ――たくさん人がいるし、近くに来たときだけで良いのでは?


 見えるだけでも十人以上。所々草むらが揺れているので、それらも含めると二〇人に届いているかも知れない。

 取り敢えず他人と関わりたくないアーシェは、まだ他の冒険者たちが手の着けていない場所へ移動し、彼女の作戦により、今回の依頼は魔法を使って熟すことにした。


 アーシェ曰く、人目にありながら、人には気付かれないように魔法を使う訓練がしたいと言うことだった。


 何やら透過している黒装束たちから魔力の乱れを感じたが、平民たちには気付かれていなかったのでお咎めは無しとする。


 見張りの護衛を二人残してアーシェたちは草むらに入る。数日前にいた場所は従者で都市周辺を回っていて気付いたのだが、都市の周辺には南北で生えている種類が違うようだった。

 北はせいぜい膝ほどの高さであるが、南はススキのように人間の頭を越えるほどの草木が生えている。少し行けば森があり、道を外したら遭難しそうなところである。


 ススキほどの高さの植物は、草原における乾性遷移の最終形態である。

 その後起こるであろう森林の侵食が気になるところではあるが、それは茜の知るところではない。

 ただ、この世界でススキの観賞が行われているのかどうか知らないが、個人的に茜はススキが好きなので、残って欲しい気持ちはあった。


 ――まあ、この植物は多分ススキではないんだけど。


 魔力のあるなしにかかわらず、違う世界で同じ生命が生まれる確率は限りなくゼロに近い。

 この世界の『人間』も、聞く限りでは以前の世界のヒトとは臓器の数が違ったり、感覚器が増えていたりしているので、見た目は近くとも決して同じ生物とは言えない。


 誰にも見えない場所まで移動したら扇子を取り出し袖に隠す。

 考えるのは地面の下。ススキに似た植物であるのなら、竹のように地面の下に根が張っており、普通に切ってもまたすぐに生えてきてしまう。

 もしこの場を恒久的に利用するのであれば、言葉通り根絶やしにする必要がある。


 魔力を足に集中し、そこから地面を伝ってアーシェの周辺に魔力を満たす。円状に広がる魔力を半径五メートルあたりで止めた。そして虫の気配、草木の存在を感じ取り、それらを上手く避けて限定的に大地を支配する。


 ――……予想以上に吸われるわね。

 ――喉が渇いてるみたいだね。


 魔力の乏しい大地が魔力を欲し、気を抜けばアーシェの魔力を霧散させるほどの吸引力だ。

 人間の世界を取り囲むようにそびえ立つ大樹海ですら、魔力が満ちあふれているというのに、平民たちの領地は、まるで誰かに魔力を吸われているかのように乾いている。


 自らの周りに薄い膜を張るように魔力を閉じ込め、外の領域と明確に魔力的な差を付けた。途中小鳥や小動物がアーシェの領域に入ってきたが、特に気にせず集中する。


 想像するのは表面の土と根の部分を入れ替える様な感じだ。

 編み目のように張り巡らされている根を魔法の刃で断ち切り、飛行魔法で根だけを持ち上げる。


 普通の労働力でこれをすると時間と費用、そして技術が必要になるが、魔法でやれば費用が増える代わりに時間が減る。

 きっとその姿を下位領地の直階貴族が目にしたのなら勿体ないと思われるだろうが、その魔力の量もアーシェにとっては微々たる量だ。


 茜は一ヶ月の旅路の間に、効率的な魔力の捧げ方を考案していた。

 それは精神世界に神棚を設置し、そこにお祈りをすれば、何故か外界に吸われることなく魔力を神に届けられるという方法だった。


 精神世界はどうやら現実世界とは違い、魔力に満ちた別世界のような場所なのだろう。

 それも現実よりも三輪国、神の世界に近い場所だ。

 それと関係があるのかは分からないが、現実世界では出来ないような魔法も精神空間では扱うことも出来、その空間は魔力が増えたら同時に広くなるようだった。


 そんな手法を見つけてからは、起きている間は見境無く魔力を神に奉納し続けた。

 捧げて捧げて捧げて、そうして翌日には少しだけ精神空間が広がり、次の日も消失ギリギリまで捧げてを繰り返し、最初はアーシェの部屋しかなかった空間も、今はすっかり橋が見えなくなるまでに広がっていた。


 ――よっこらしょっと。

 ――…………。


 扇子を握る力で魔力を加減し、大地ごと根を持ち上げる。そして飛行魔法を全体制御から分割制御に変更し、それぞれ違う動きをさせることで、根にこびりついた土を揺れ落とす。


 土が落ちる音が少なくなると、アーシェは魔法を切ってドスンと根を下ろした。

 成果は上々。たった数分でこの作業効率だ。作業に慣れれば倍以上の早さで進められるだろう。魔力に糸目を付けないのであれば、ここら一帯の植物を一度に根絶させることも出来る。

 尤も、大規模な魔法を使うとまず間違いなく詮索されることになるので、絶対にやらないが。


「どうかしら」

「素晴らしく存じます」


 ただ、この方法は飛行魔法と、強靱な根を断つ魔法を習得している者に限られる。そうは言っても、その二つはアーシェの元で働く武官であれば、あらゆる襲撃から主人を守るためにも、全員が習得済みである。

 彼等はアーシェに指令を出されると、円形ではなく正方形に形を取り、隙間無く作業を始めた。




 昼食休憩を挟んで数刻が過ぎ、日がもうすぐ落ちようとしているところで彼等は作業を切り上げた。

 きっと上空から見たら、アーシェたちが作業したところだけ何も無い空白地帯になっていることだろう。


 因みに切り取った雑草は飼料や堆肥に利用するため、衛兵たちに預けることになっている。

 ある程度の大きさに切ったら、その場に放置して良いと言うことなので、そうしておくと、一桁から十代前半の子どもたちが回収しに回っていた。


 冒険者なのかそれとは違う日雇いなのかは分からないが、兵士たちが言っていたことは、彼等の仕事を残しておいて欲しいと言うことだろう。

 きっと、これもまたどこかの経済支援に繋がっているのだと解釈したアーシェは、同年代より少し上の子どもたちを見て、何だか不思議な気持ちになった。


「撤収します」

「ご苦労様です」


 見張りの衛兵に声をかけ、作業していた場所を教えると、アーシェたちは街の中へ戻った。


 街へ戻ると再び兵舎へ行き、上長兵士に依頼の報酬の再確認が行われる。

 この依頼は定額料金に加え、追加報酬として歩合制になっている。追加報酬の算出には二日ほど時間がかかり、後日冒険者組合を通して支払われると言うことだったので、今回は定額報酬のみとなる。


 アーシェたちが貰った金額は一人あたり銀貨一枚。十モネだ。追加報酬の概算では更に五十モネは下らないだろうと言われているが、消費した魔力のことを考えると、費用対効果としてはまったく割に合わない。

 部下たちの魔力を合わせて三〇アルテ分ほど消費したので、この世界での魔力と人件費にどれだけの差があるのかも分かるものだ。


 報酬を受け取ると、アーシェたちは兵舎を出て馬車に乗り込む。

 ちょうどその時――。


 立っていられないほどの地響きと、全身を強打するような衝撃波がアーシェを襲った。



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