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終の閨秀-幼女と女傑の異世界平定物語-  作者: 高麗俊
第二章 冒険者組合
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072.人外について

 ノックの直後、外から大姉院様がいらっしゃいましたと声をかけられる。一先ず小鬼でないことに安堵したアーシェは、エリザベートを招き入れて、茶会の用意をした。


 彼女曰く今までカスタレアで商談をしていたらしく、ようやく全ての話がまとまったので、こちらに戻ってきたとのことだった。

 先方によれば、ローズクォーツ連合国にて、金属類全般と麦などの保存の利く食料が高騰しているらしい。それで現在カスタレアに在中している輸送隊と、各支部が保有している輸送隊を幾つか引き寄せて、彼の国へ大規模輸出を行おうか考えているとのことだ。


 ローズクォーツは人類の生活圏にて最南に位置する国だ。

 それより南には広大な砂漠が広がっており、砂漠には貴族も手を焼く魔獣が蔓延っている、世界の果てがある。その境界には最高十メートル、最厚三〇メートル、長さ四三〇キロメートルに及ぶ壁が聳え立ち、魔獣の脅威から人類を守り続けている。


 その名は大防壁。

 二年に一度、ローズクォーツ連合国以外の国々が持ち回り式で魔物の領域へと兵を派遣し、魔獣を間引くことで、大防壁は有史以降数千年の間保ち続けてきた。


 幾度となく突破されては修繕し、間引きを更に強化して、時には派遣隊が全滅することもありながら、何とか守り抜いた状態が、今の大防壁である。


 そして来年、大陸歴一〇〇六年に兵を遣わす国は、小国の連合軍であり、その参加国から先日彼の国へ出兵申請があったらしい。

 この時期から既に準備を始めると言うことは、年始早々に大遠征を開始するつもりなのだろう。例年に習うのであれば、多くの魔物が弱体化する冬を狙うのが定石なのだが一部の魔物は冬眠明けと言うこともあり、身体が鈍っていることもあるので、確かに悪い手ではない。

 一番の悪手は夏である。灼熱の荒野に足を踏み入れること自体が自殺行為であるし、ほぼ全ての魔物が覚醒しているので、縄張り争いやらで気が立っている魔獣が非常に多い時期だ。


 連合国が人類の国家において唯一出兵が免除されている理由は、彼の国の国土と生い立ちに由来する。

 ローズクォーツの住人たちは、太古の昔大防壁が建造された直後に、防壁の運用保守と、修繕、魔物の動向の監視を言い渡された防人たちの子孫である。

 そのため彼等はどのような職種に就こうと常に魔物の脅威と隣り合わせであり、終わることのない国民総動員戦を強いられている。


 国土は大防壁に張り付くように細長く、防衛都市と呼ばれる巨大な防壁に囲まれた都市を線で繋ぐように、二重の大防壁となっている。


 自給自足は儘ならず、有事の際は国民全員が立ち向かい、数千年壁を守ってきた国。三大国とは違った形で人類を守ってきたその国は、魔力至上主義の大国貴族を以てしても、敬意と賞賛が尽きず、強固な軍事協定により、最大限の援助を送っている。


「貴族なら一度見たら分かるのだけどね、壁の素材は大国の建築素材と同じなのよ」

「……と言うことは魔法で作られているのですか?」


 この世界、いや、この国には大工という職業は存在しない。建築物を建てるときは、公族が自ら赴いて、設計図片手に集めた魔力で魔法を放つ。すると大地からにょきにょきと設計図通りの建造物が生えてくる。

 そう言う意味では公族こそが大工と呼べるのかも知れないが、それは本来の大工職に失礼というものだ。


 魔法で作られた建造物は非常に堅く、修繕も容易で、汚れた場合も魔力さえあれば一瞬で清潔な壁に元通りである。

 しかしその魔法、創造の魔法の運用には莫大な魔力が必要で、建造物の複雑さ、大きさによっては異空間を創り出す魔法に匹敵することもある。


 魔力が乏しい外界で魔法を扱うためには、普段の何倍もの魔力を用いる必要がある。それも比較的狭いとは言え大陸を横断するほどの超巨大建造物を二つも設置、運用するためには一体どれだけの魔力が必要なのだろう。


「いえ、わたくしの事情は良いのですわ」


 わたくしが入室したときに怯えていましたよねと、エリザベートは過去の話をぶり返す。せっかくアーシェが新しいものに興味を持ち、忘れかけていたところに燃料を再投下された彼女の背筋には、嫌な緊張感が走った。


 アーシェが小鬼の話を持ち出したら、あからさまに嫌な顔になった。

 彼女曰く、小鬼の存在は子どもを躾けるために用いられる文句で、現実にはいない架空の生物である――と思っていたらしい。


 しかしそれは間違いだった。彼等は確かに存在し、今もどこかで人類に仇なしている。彼等は森の中や草原の地下に巣を作り、巧みに隠蔽して人間を襲う。

 エリザベートは一商人として世界中を回っているとき、何度も小鬼に襲われた村々を目撃した。村人が連れ去られ、国軍が動き、小鬼が殲滅され、今度は別の場所で被害が出る。

 小鬼と人類の戦いは常にいたちごっこだった。


「小鬼は置いておいて、危険な魔物は何も理性無き獣だけではありませんことよ」


 人間と特に似ている二種族の悪魔と天人、巨大な身体を持つ竜など、他にも知性を持った魔物は多くいる。一部の魔物は人間を飼育し、食料として扱うこともあり、それらは小鬼のように警戒対象にされている。


 天人は分からないが、悪魔と言えばリリスたちだ。彼女たちにはあれ以来合っていないし、あの場にはアーシェしかいなかったため、彼女たちの存在を証明することは出来ないが、保護者たちは悪魔たちのことを知っていそうな素振りだったので、存在自体は疑っていない。


 アーシェ曰く、彼女たち悪魔はミリアシルでも知らない魔法を使っていたらしい。悪魔も神に祈るのかと最初茜は思ったが、お祈り系の魔法は使っていなかったと聞いて、そんなものかと匙を投げた。


「伯母様はそのような魔物にお会いしたことはあるのでしょうか」

「えぇ」


 この世界の天人や悪魔は、人間と併せて神が創った三つの種族とされているらしい。神典によると、神は三つの世界を創り、一五〇の王を置いた。そして誕生した王に魔力を持つ近臣を下賜し、彼等を支える柱となるよう命を与えたという。

 それが後に競い、廃れ、結ばれたものが人間側の三大国であり、同じような状況が別の世界でも起こっているのだとか。


 悪魔と天人はあまり人間の前に姿を見せないが、竜は希に人里に訪れることがあるらしい。竜は魔物の中でも最上位に位置する生物であり、その魔力は生まれたときから領主に匹敵する魔力を持つ。

 神が創った三種以外は種族によってある程度魔力の量は決められており、成長期が終わってからは殆ど変動することがない。平民と王のように、同じ種族でもここまで魔力に差が出るのはその三種族のみであり、他の魔物では見られない特徴らしい。

 強い魔物は種族からして強いし、弱い魔物は古今東西弱いままである。


「しかし、人の言葉を喋る魔物は必ずしも味方であるとは限りません」


 人の言葉を話すが故に、人と対立することもある。人間同士が対立しているのだから他の魔物ともいがみ合う事は、もはや摂理に則っているとも言えた。


 伯母との団欒も夕食を知らせる鐘が終わりを告げ、二人はともに食堂へ移動する。しかしミリアシルは、まだ御前会議から戻っていなかった。



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