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終の閨秀-幼女と女傑の異世界平定物語-  作者: 高麗俊
第二章 冒険者組合
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070.家族会議

 その後夕食を挟み、久しぶりの保護者とアーシェの首脳陣会議である。

 以前はアーシェがいなかったり、ロベルティーネがいなかったり、エルミニクが護衛として参加していたので、一切発言をしなかったりとで、中々この顔ぶれちょうどになることはなかった。

 どういうわけか、茜も気合いを入れて高精度人形を作り出しており、従者たちは皆ミリアシルの執務室から退室している。


 アーシェから話す内容は先ほどミリアシルに伝えた内容とまったく同じである。説明している最中、女性陣保護者たちからは何やらただならぬ気配が漏れていたが、残念ながらアーシェにだけは巧妙に隠されており、感知することが出来なかった。


「ところで、そちらはどうなったのですか?」


 見かねた茜が強引に話題を変える。そちらというのは言わずもがな、緊急御前会議のことだ。


 大筋は枢密院で話し合った内容と変わらず、顧問官が話した内容をそのまま君主の名の下に議長が伝えるだけである。

 しかし国の最高峰だけが集まる枢密院とは違い、御前会議には公爵領のような裕福な領主もいれば、男爵領のような領地運営に困窮している領主もいる。そのため議題一つ一つが議論を呼び、当然一日で終わるものではなかった。


 特に茜が予測した通り、上位領地と下位領地で意見がきっぱりと別れたらしい。大きく二つに分けると、上位領地は守りを固め、長い時間をかけて敵の尻尾を掴む戦略を練るのに対して、下位領地は怪しい輩を総当たりで摘発し、短期決戦を望む傾向があった。

 これは上位領地が直接的な損害を被っていないことに加え、下位領地には悠長に敵の出方を待っている時間が無いことに起因している。


 犯人は明らかに狙う対象を選別していた。その基準は国でもなく、派閥でもなく、その領地の豊かさである。特に、人材が少ない領地の出身者が多く狙われており、危機感も下位領地の方が高いらしい。


「やはり内情を知る賊の存在は疑うべきでしょう」


 領主たちには箝口令を布いているが、既に一部の領地では噂程度に広まっているらしい。

 セルヴ領公都セルヴィスでもその噂は点在し、公式発表はしていないものの、下位領地にて拉致問題が起こっているという話は、良く聞くようになったと城の従者は言っていた。


 問題はそれをいつ公開するかだ。何の足がかりもない状態で全てを話したのなら、ただでさえ不安が蔓延する中、不要な混乱も与えてしまう。

 しかし、このまま領主からの表明がなかった場合、この先公爵領にまで被害が及んだのなら、これまでの不安が公室への不満へと置き換わってしまう。


 さすがにたった一度で崩れ落ちるほどセルヴの名は脆くはないが、それでも家名に傷を付けてしまうことには変わりはない。ミリアシルたちも、アーシェと同様に家の名に縛られる者の一人なのだ。


「襲撃を受けたと言う事実の公表程度であれば、明日にでも官報の特別号外などで知らせても良いのではないでしょうか」

「であれば敵意が外へ向かうように誘導しなければなりませんね」


 ロベルティーネが出した案に茜も乗っかる。

 噂程度でしか知らないと言うことは、まだ先入観を植え付けやすいと言うことである。今のうちに領内の貴族に対して情報操作をして、彼等の意識を一点にまとめ上げた方が、今後の行動への影響は最小限に出来るだろう。


 となると、ある程度の方針をこの場で決めなくてはならないのだが、先ずは矢面に立たせる存在を作り上げなければならない。国外にいる存在であれば一連の真犯人、実行犯、もう少し的を絞るのであれば小国の平民だろう。他国への敵意誘導にも繋がるし、何より題材にしやすいところが良い。


 国内の貴族がいくら他国の平民に嫌悪感を抱いたところで、地位的にも地理的にも離れた存在同士、一生のうちに関わる機会など滅多にないだろう。それに元々三大国家の貴族たちは小国にあまり良い感情を持っていない。それが少し増えたところで大した変化は出ない。


 実際に虚構の正義を振り撒かれると困るのだが、そのような愚か者は、少なくとも公爵領にはいないと思いたい。


「我が領地は未だ被害は出ていないが、情報収集と防衛対策を採るために、対策本部を設置する」

「ミリアシル様、その件について一つ、宜しいでしょうか」


 珍しくエルミニクが提案した内容は、対策本部の司令塔には先代セルヴ公爵、つまりはミリアシルの実父を置いたらどうだと言うものだった。

 確かに先代であれば、その手腕はミリアシルに匹敵し、多くの経験を積んでいることから、予想外の事態への対応にも困らないだろう。それに加えて彼への信頼は未だ厚く、多くの貴族だけでなく、ミリアシルや他の領主たちからも実績を認められるほどだ。


「姉上はどう思われる」

「良いのではないかしら」


 本来セルヴ公爵家の政治的指針には、離宮に移った公室は政治に関わることを避けるという理念がある。

 しかしそれは、エリザベートが商会統括をしていることからも分かる通り、法的強制力を持つものではなく、立つ鳥跡を濁さずと言ったように、前権力者が後続に悪影響を及ぼさぬようにと考えた自戒の意味が強い。


 ならば商会統括のように、領主からの要請で、政治の根幹からは少し離れた位置に据えられるのも、人材の有効活用としては決して憚れるようなものではない。


 いくら五年前の大厄災から持ち直したと言っても、それは一部の事業を一時凍結し、人材をやりくりすることで回復傾向になっているだけであり、現在も慢性的な人材不足であることには変わらない。

 領内貴族だけで三百人以上の犠牲者が出たのだ。それに加え、心を病み、現場に復帰できずにいる貴族も多い中、出し惜しみしていられる余裕はない。猫の手も借りたいと思うのであれば、先祖の手を借りることは間違いではないだろう。


 そうと決まればさっそく一筆認めるミリアシル。彼にとっても、親とはいつまでも尊敬できる人間であり、親の背中を間近で見て育ったが故に、その存在は彼の精神にも、業務量にも多くの余裕を与えるのだ。


「こんなもので良いだろう」


 父への手紙と、官報に記載する文面を軽く書き、ロベルティーネに渡す。それを受け取った彼女は黙読して校正し、問題がないことを確認すると異嚢へとしまった。


 官報に書く偏向情報は、やはり臣民の反感を小国の平民へ向けることだった。また、一連の事件を利用し、領内の平民たちにも、ある程度国外の平民に対して排他的な意識を持って貰うよう、ミリアシルは別途平民向けの官報を出す考えであるらしい。


 彼等平民は、貴族が毎日どのような仕事をしているのか知らない。それ故に、時代によっては、貴族は働いていないのではないかと考えるものも出る。

 それらを定期的に解消することも、一つの戦略であると彼は考えており、この機にどれほど自分たちが恵まれている存在なのかを、思い知らせてやろうと考え、小国の現状や、彼等が恵みを与える貴族に対して行った仕打ちを、絶対悪のように書き連ねた。


 嘘は何一つ綴っていないし、大した誇張もされていない。しかし貴族の立場を脅かす内容だけは取り除き、貴族も平民も魔力、ひいては神の恩恵で生きているのだと強調し、思想統制を図るのだ。


 神職は政治に関わりを持たないものの、国家宗教が貴族の中に強く根付いているこの世界は、臣民の心を掴むことを容易に行える。何より実際に魔力という神の恩恵を直に与えられている貴族と、貴族から明確な恩恵を与えられている平民は、その思想を疑う思考回路を持たない。


 まるで人の手で作られたかのような統一性を持つ政教関係に、茜は大いに感心した。


 ――そう言えば私が降ってきたとき、女王陛下は神託が降りたと言っていたんだっけ。

 ――そうね。

 ――と言うことは神様は結構頻繁に下界を覗いているのかな?


 この世界で定義付けされている神が存在することは、もはや疑う余地はない。

 それが、茜たちが出会った、あれらの存在と同一のものかどうかは定かではないが、少なくとも賢者の人数を四七人だと認識し、着地地点を下界の者へと伝えられるほどの正確さを有する存在であることは間違いない。


 ならば賢者という間接的な手段に頼らずに、もっと直接的に手を加えてはダメなのかと思うが、きっと何かしらの思惑があるのだろう。


 ――……あれ。


 そう言えば今まで誰も気にしていなかったが、茜は派遣される順番としては最後の賢者である。なら、茜がこの世を去ってから今まで数千年もの間、監視管理という賢者の恩恵を受けてきた国家は今後の方針をどうするつもりなのだろうか。


 三大国家は既にかなり安定した管理社会を築き上げているが、話を聞くところによると、小国なんかは、概ねあちらの世界と同じような歴史を歩んでいる気がする。これでは初期に賢者が想定していた計画が、一部の人類のみにだけ反映され、他は放置という非常に危うい社会となってしまう。

 それは本当に健全な発展と言えるのだろうか。


 それはつまり、私の代で周辺国家全てをまとめ上げろと言うことかな?


 どこで先達者たちの予定が狂ったのかは知らないが、最後の人のことも考えて欲しかった。もしも本当に周辺諸国全てを掌握しなければならないのだとすれば、アーシェの寿命を全て費やしても足りるかどうかは分からない。


 そんなはずはないだろうと考えながら、心のどこかであいつらなら自分の好きなことだけをして、面倒ごとは他人に押しつけるかも知れないと考えている自分もいる。


 首脳会議に時々相槌や意見を送り、裏で大規模な計画修正を行う茜は、泣きたい気持ちでいっぱいだった。



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