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終の閨秀-幼女と女傑の異世界平定物語-  作者: 高麗俊
第二章 冒険者組合
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061.情報料はご自身で決めてください

 それから十日ほどは、職員たちとの人脈作りやその他の依頼を熟していた。

 人脈作りはアーシェがやっていることではなく、人形で創り出した茜を次の日に冒険者登録させ、彼女の部下だといって書類整理などをさせたのだ。


 そして、そこで誰だお前と言わせんばかりに愛想を振り撒き、職員たちの信頼を勝ち取っていった。


 常日頃から、がさつな冒険者を相手にしている組合職員が、茜の魔の手に落ちるのに時間は掛からなかった。

 社交界でも通用するほどのおだてっぷりや、相手の良いところをとことん探して、悪いところは気付かせるようにフォローする。

 アーシェと違って夜も活動できるため、アーシェが寝ている時以外は、常に職員の誰かと話をしていると言う状態だった。


 そのおかげもあって、職員、特に受付嬢は、茜に対して日頃の冒険者への愚痴すらも吐くようになり、茜も嫌な顔一つせずにそれに付き合うようになった。


 彼女は天性の聞き上手だった。

 どんな話題を振っても殆どのことには応えてくれるし、知らない話題であっても興味があるような素振りを見せて相手に近付く。個人情報に関してはとても口が堅く、誠実であり、その事からつい自分も安心して心の声を漏らしてしまう。


 同僚への不満などに対しては、決して明確な同意をしない。

 曖昧な相づちを打って返すだけであり、その姿勢は、他者に不満を持つと同時に、他者から不満を抱かれる事に怯える、未熟な心を簡単に掌握した。


 一方アーシェは、引き続き他冒険者がやらなそうな雑務を引き受けていた。

 依頼の内容は殆どが掃除や片付けなどのその他の区分だ。薬草採取等もやってみても良かったのだが、魔力溢れる大国の植物と小国とでは生えているものが違うらしく、誰も判断がつかないと言うことから却下された。


 エリザベートが依頼に同行したのは最初の一日のみであり、それ以降は統括として商談に行ってくると言って別行動を取るようになった。

 そして冒険者として慣れ始めた十日目、組合からアーシェたちに一つの知らせが届く。


「おめでとうございます、お嬢様。人事部が貴女方の活動を評価し、壬級から辛級へ昇格しました」


 すっかり忘れていた冒険者組合の等級制度。

 甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬の九段階からなり、甲級はよほどのことが無い限り与えられることはないため、実質的には乙から壬までの八段階等級である。

 戊級までは組合の判断で勝手に上昇し、それ以降は任意の審査制となって、その査定を受けることで上へ上へと上り詰めていく。


 冒険者は等級が上がるにつれて、権利と義務が与えられる。

 壬級になると、冒険者同士で集まって班を作る権利が与えられる。もちろんアーシェのように最初から団体行動をすることもできるが、班を組めば正式に団体行動が認められ、今後の権利の共有などができるようになる。


 義務は、例えば丁級になると、緊急時に冒険者組合が発令する特別緊急指令、通称特緊令に従わなくてはならない義務が発生する。

 魔物の襲来への徴兵だったり、大規模な自然災害への救護活動だったりだ。


 その特緊令があるから、丁級への昇格は任意のものとなっている。


「お嬢様方は全員辛級となりますので、班等級も辛級になります」


 班等級の計算方法は、班員の切り捨て平均等級かつ、最低級班員の一つ上まで、である。例えば甲級と丙級の場合は乙級班となり、甲と戊なら丁級班となる。甲一人と辛級七人であれば、辛級班となる。

 班等級制度のおかげで、班員は同じ等級同士が集まることが多く、頻繁に解散と再集合を繰り返しているため、人付き合いも鍛えられる。


 モノによっては一定以上の等級でなければ受けられない依頼もあるため、少なくとも戊級までは上げる利点があるみたいだ。


「ふいー、やっと戻って……あ」

「あら」


 受付嬢と話していると、組合館に入ってくる一団と目が合った。

 外見はどこにでもいるような平民服。革の鎧に身を包み、一見中堅冒険者のように感じられた。四人で班を組んでいるらしく、奴隷を連れているわけでもない。

 全員が同じ剣を持っているが、それも特に凄腕の一品と言うわけでもなく、鞘から見るに一般的な武具店で買えるような、ありふれた武器なのだろう。


「情報閲覧制度を利用できるかしら。対象はあちらの殿方四名で」

「え、はい。少々お待ちください」


 冒険者組合はその性質から冒険者の情報を逐次収集している。いつ組合に登録し、どのような依頼を熟し、出身地はどこか、過去の犯罪履歴、組合規約違反履歴等々、どんなに些細な情報でも集めている。


 それを何に使うかというと、主要な目的は二つ。一つは危険人物のマーク等の防犯・犯罪捜査目的。そしてもう一つが、冒険者専門の情報売買である。


 その情報を他人が閲覧する場合は、設定額に応じた情報料が徴収される。


 実はこの情報、その冒険者自身が価値を決定することができる。

 簡単な話で、組合にいくら寄付したかによって、その値段が決まるのだ。初期設定金額は入会と共に払った五モネ、そこから自分の情報は百モネくらいの価値があるだろうと感じたのなら、その分の差額を組合に寄付する。


 そうした場合、もしも他人がその人の情報を欲しがった場合、それと同額を組合に支払わなければならなくなる。


 因みにアーシェの情報料は十万モネ。

 決して個人で払えるような額ではないのだが、エリザベートからその報告を受けたミリアシルは、ちょうど良い外貨の捌け口になったと言って気にも留めていなかった。


「照合しました。あちらの冒険者の情報料は一人三百モネとなります」


 四倍の金額を払って彼等全員の情報を買った。彼等の目の前で行うあたりかなり堂々とした立ち振る舞いである。


 たった今初めて会った彼等に何故アーシェたちがここまでご執心なのか。それは彼等が魔力を持った貴族であるからである。

 身なりなんて関係なく、一目見た瞬間に分かった。アーシェにとって、彼等は普通なのだ。普段アーシェの周りにいる従者に比べて魔力はいささか劣るものの、彼等は見慣れた雰囲気を纏っている。


 アーシェは父から、この地の他の誰かが派遣されているとは聞いていない。つまり高い確率で他の領地、もしくは他二国からやってきた貴族だ。彼等と事を構えるつもりはないが、無視するわけにも行かない。

 ある程度の情報を集めてから、それをミリアシルに提出して接触するかどうかの判断を仰ぐ必要があると判断し、堂々と彼等の目の前で情報を買ったのだ。


「はあ!? 十万モネ!?」


 どうやらあちらも考えは同じらしく、アーシェの情報を聞き出そうとしていたらしい。

 本人たちの照合が取れると、地下一階の閲覧室に通される。閲覧室でしばらく待機していると、先ほどの受付嬢が資料を持ってやってきた。


 彼等は三ヶ月ほど前に貿易都市カスタレアへやってきた平民となっていた。

 出身地は三大国家が一、カーネリアン王国のウィンストン伯爵領。最東端の大国とされる彼の国は、パール王国と並び、魔力を持つ本物の貴族がいる国である。


 等級は全員戊級で止まっており、昇格試験を受けることも出来るが、本人たちはまだ受けていない。

 過去最高速度で戊級まで上り詰めた冒険者とされ、見かけによらない驚異的な身体能力と謎多い魔具により、数多の依頼を熟した実績を持っている。

 今までの受注履歴は圧倒的に討伐系が多く、次に遠征系が来る。護衛やその他の依頼は殆ど受けたことがないようだ。


 受付嬢が少し目を離した隙に異嚢へしまい、すぐに出して情報だけ読み取る。その後すぐに出して、何事もなかったかのように受付嬢へ返却した。


「この資料は模写しても良いのでしょうか」

「はい。問題ありませんが、妄りに情報を拡散すると規約違反となり罰則対象になりますのでお気を付けください」


 組合側も情報料を収益の一つとしているので、それは仕方が無いだろう。

 アーシェも世間に言いふらすようなことは考えていないので特に問題ない。その後は組合にとどまることなく、茜の分身体だけを残して組合会館を後にした。



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