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終の閨秀-幼女と女傑の異世界平定物語-  作者: 高麗俊
第二章 冒険者組合
53/197

053.到着

 魔物に襲われたときに付いた血痕を洗ったり、不具合がないか点検していたりして、次の街の出発は三日後となった。

 そしてそこから二日後、ついに貿易都市カスタレアに到着する。


 ここに来るまでに貿易都市に関する情報も、エリザベートから聞き及んでいた。

 カスタレアは様々な組合が徒党を組んだ組合連合なる組織が運営する都市国家である。戸建て、もしくは支払い間隔が月払い以上の集合住宅に住まう成人住民は、必ずどこかの認可組合に入る必要があるが、短期滞在ならばその必要は無いらしい。

 それ故、アーシェは既に戸建てを購入しているため、組合への入会が義務づけられている。


 認可組合の種類は多岐にわたり、アーシェも知っているような冒険者組合から、マイナーなものだと染織組合などもある。

 その下に準認可組合と言うものもあり、組合連合に活動届は出しているものの、組合の基準に達していない組織である。


 それ以外の組合は全て非公式組合であり、慈善団体のようなものから非合法な悪事まで、身内の集まりから、認可組合に匹敵するほどの大規模集団までと、ピンキリだ。


「認可組合は連合会議への参加権や多額の支援金、都市内部での様々な特権が得られます。準認可組合は支援金のみ。非公式組合は一切の支援を受けられない代わりに、連合のしがらみが殆ど無い故、自由に動けるようです」


 窓から外を覗くと、ちょうどカスタレアの正門が開かれる風景が見えた。

 輸送隊はどの街に対しても到着する前に先走りを出している。その一番の理由は一切待たずに街に入るためだ。

 先にこちらの人数、荷物、獣車の数等を正確に記した書類を見せ、大門を開ける必要があるのならば、到着と同時に開門する。


 多くの場合、商人が門を通るという理由だけでは、都市の大門が開かれることはない。それは大門の開閉には時間が掛かり、警備上の問題があるからだ。

 都市が大門を開けると言うことは、ある種の歓迎の仕方でもある。危険を冒してでも貴人を招き入れることで、その街は代表者から住民まで全員で持て成していることを意味するのだ。


 もちろん門前渋滞の緩和としての意味もある。

 三キロ近くの縦列を持つ商人群が、一度に通常開いている小門に並んだら、早朝からだとしても日が暮れてしまう。それを阻止するためにも、率いている輸送隊はそのまま通過、それ以降の商人は検問を広げて実施する手段を取る。


 セルヴ商会の重役が白装束の仮面集団だと言うことは、もはや周知の事実。

 彼等は必ずパール王国から正式に発行された旅券を所持しているので、人数分の旅券を確認できたら、後は顔パスならぬ仮面パスである。

 もちろん関銭も徴収するが、先走りの持つ書類と一緒に支払われるので問題ない。


 彼等は首長に対しても、門番に対しても気前の良い祝儀(チップ)を贈るため、双方共に歓迎されることは、公僕たちの中では有名な話だった。


 いつもなら先走りとして来る者は、商会にてそこそこ高い地位を与えられた平民たちだ。

 使い走りではあるが、それでいて大金や商品詳細を預け、現場判断ができる者。信用がおける仲間の中では一番の下っ端。


 しかし、今回ばかりは毛色が違った。

 先駆けとしてきた者は、白装束の仮面たち。それも一人ではなく複数人が来ている。

 そんなことは今までなく、門番たちは邪推した。今回の輸送隊には、大国の貴族すらも使い走りにするような人物が乗っているのではないか。


 彼等は一人の人物を考える。

 セルヴ商会の主、商会統括たるエリザベート・セルヴだ。大国の公爵の姉くらいしか小国には情報が伝わっていないが、それだけでもどれほどまでに大物なのか想像は付く。

 いつも以上に緊張した表情で、彼等は前を通る獣車を目で追った。


 そんな平民たちを気にも留めず、アーシェたちは事前に購入した一軒家に到着する。

 それは正しく豪邸だった。


 巨大な門を潜ると目の前に広がるは広大な庭。

 石畳で整備された道を行くと、そこには立派な岩垣に囲まれた池があり、エントランスに入る客人にひとときの安らぎを与える。

 そして見えるは富をこれでもかと詰め込んだ豪華な屋敷。

 全体的な茜の評価は、城塞都市内部にこんな豪邸建てて意味あるのか、だった。


 しかしアーシェの評価は違う。

 彼女の基準は全て城である。もちろん彼女自身もそれが一般的ではないとは、この一ヶ月で重々理解したので、城ほどの大きさは求めていない。しかしそれはそれとして、評価の基準が分からないのである。


「セリア、このお屋敷は大きいの?」

「然様ですね。小国の別荘としてであれば十分ではないでしょうか」


 セリアがそう言うのであれば、この屋敷は妥当な大きさと言うことだ。

 屋敷に入って早速城へ繋がる魔法陣を作ろうとするが、その前にやらねばならないことがあると、エリザベートに窘められた。


 アーシェたちの獣車は非常に目立つ。そのため、自分たちが街に入ったことは住民たちの噂になっている可能性があり、城に帰る前に組合連合に登録しなければならないらしい。

 要は住民登録だ。目立つ人物が街に入っても暫くその街のルールに従わないと、街の沽券に関わるらしいのだ。


 特に治安維持に力を入れている街や、カスタレアのように冒険者や、傭兵が国内で高い地位を得ている、半軍事国家のような街では体裁を重視している。

 そう言う場所では波風を立てずに身を任せるのが一番なのだとか。


 帰りたい気持ちをぐっと抑えて、アーシェは再び獣車に乗り込む。

 その後獣車で十五分ほど移動すると、大きな円形の建築物が見えた。その建築物こそ組合連合、そしてこの都市の中枢であり、アーシェたちが目指している場所だ。


 登録においても先触れを出しているので、アーシェは応接間に連れられ、会員の登録をするだけである。まるで会議をしているかのような配置で登録を行う。


「――」

「認可組合の一覧を頂きたく存じます」


 認可組合は三十あまり五つあるが、今入れるのは十八らしい。


 ――炭素数九のアルケンの構造異性体と同じくらい多いね。

 ――その分かりにくい例をやめなさい。


 認可組合への初回登録料は一律五モネ必要であり、認可以外では組合によって様々である。

 組合には受付でそのままは入れるものと、組合内部からの推薦がなければ入会できないものがある。例えば職人組合がそれにあたり、親方級の商会がなければ入ることが出来ない。


 アーシェは取り敢えず冒険者組合、商人組合、魔術師組合、錬金術師組合に目星を付けて、それらの説明を請う。


 冒険者組合は割愛して、商人組合はこの街で店を構える場合は、必ず所属しなければいけないらしい。

 行商のような店舗を持たない商人は入る義務はないのだが、入った場合一部の都市の通行税が免除されるので、殆どの商人が入っているのだとか。


 魔術師組合は、魔術に関する研究開発を行う組合だそうだ。

 質の低い魔石を粉末にし、エネルギーを取り出す魔術に何の研究する余地があるのかと思ったが、どうやら取り出した魔力をどのように活用すれば、効率良く魔物へ有効打撃を与えられるか、と言う研究をしているらしい。


 魔物は平民よりも魔力を持っていることが多く、通常の武器では歯が立たない。そこでその魔物の弱点となる属性を武器に付与することで、有効打にする研究が成されている。


 魔石を粉砕し、内蔵されている魔力に属性を与える処理は錬金術師組合が行っている。

 他にも魔術薬や、薬師組合と提携して特殊治療薬の研究開発も行っているらしい。


 ――魔力を扱えないのにどうやって属性を換えるのかしら。


「――」

「冒険者、商人、魔術師、錬金術師、薬師組合の規約を頂きたく存じます」


 疑問が残る中、アーシェは大まかな組合の役割を把握する。最初の四つに加えて薬師組合にも目を付けて規約の閲覧を所望する。


 これまでアーシェは一度も連合側の人間と言葉を交わしていない。

 アーシェが伝えたい言葉は、扇越しにメリッサに伝えられ、彼女が向こうに伝えるのである。貴人は賤民と言葉は交わさない。そう言う意味も確かにあるのだが、アーシェは平民を気味悪がってはいるが、嫌ってはいない。


 芋虫を見ているようなものであって、あまり身分の格差自体は気にしていないのだ。

 しかし、彼女は未だ魔力を完全には制御できない。それ故に、メリッサを挟むことで、何かあっても相手を傷つけない対策を採っている。


 規約に書いてある内容はどの組合も概ね同じだった。違うところと言えば、冒険者組合だけは罰則規定が随分曖昧に書いてあったところだろうか。


 聞くところによると、冒険者は多くが文字を読めないらしい。

 そのため規定を細かに書いても揉めるときは揉めるため、現場が柔軟に対応できるように簡素に書いてあるらしい。支部によってその罰則は変わることがあり、その支部の慣習法が適応されるとのことだ。


「――」

「以上、五つに入会すると仰せです」


 契約書に署名をすると、組合職員さんはその書類を持って退室する。どうやら書類を元に組合証を発行しているようで、それまでの間はお茶を出されて待たされるらしい。


 しかしアーシェ姫。

 この一ヶ月で平民の食事にある種のトラウマが芽生え、持て成されていると分かっていても、如何せん食欲がわかなくなってしまった。

 仕方が無いので、仮面を付けていることを理由に丁重にお断りを入れ、以前ロベルティーネと一緒に食べた、焼き菓子の詰め合わせの別種を送る。


 こういう時のためにエリザベートが用意してくれていたものだ。


「お持たせで申し訳ございません」


 思惑通り、あちらが出してきたものはアーシェたちが贈った品だった。

 接客の場で用いられる菓子折りは、贈られた品と自分たちが用意している品で比較し、より上位のものをお茶請けにすることが多い。

 商人同士の交渉の場では、駆け引きとして違う思惑が働くこともあるのだが、一般的には相手を歓迎しているのなら、高価なものを出す。


 それで言えば、この菓子折り以上の品を用意することは、大国の外では難しく、もし上位のものがあろうとも、それならそれでアーシェも食べることが出来るものだし、そもそも仮面を取れないことは本当のことであるため問題は無い。


 エリザベート曰く、この焼き菓子は大国貴族の間では、祝儀用の粗品としてよく使われる王道のものらしい。

 詰め合わせ三つで一アルテと言う、少しばかり割高な品だが、その味はアーシェを持ってしても舌鼓を打つほどである。


 余談であるが、それを聞いた彼女は、今度からセルヴ公姫御用達の文句を入れさせて貰うと言っていたが、減るものではないので当の本人はあっさり許可を出した。


 お茶請けを出されたとは言え、こちらの陣営は誰も飲食できない。

 仮面を付けているので当たり前だろう。しかし出さないわけにもいかないので、無駄になると分かりつつもお茶を出す向こう陣営の職員は、苦笑いと冷や汗を浮かべて固まっている。


 客人が茶に手を出さないので、主人側も手が出せない。そんな拮抗状態が続く中、その空気を壊す使いが現れた。



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