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蒼穹のヴィアトール  作者: yaoyao
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地底の狂騒と白銀の歯車


「……ううっ、頭が痛い。ちょっと派手に落ちちゃったね、アルト」


エーテル・ヴィアトールは、

桜色の髪についた鉄屑をパパッと払いながら身を起こした。


周囲を見渡すと、

そこはフェルムの誰も立ち入ったことのない、

巨大な地下空洞。

頭上のはるか高くには、

自分たちがぶち抜いて落っこちてきた工場の床が、

ぽっかりと黒い穴を開けている。


「おい、エーテル……お前、天然とかおっちょこちょいとか、そういう可愛いレベルを完全に超越して犯罪者だからな!? 街のインフラを破壊した上に、不法侵入と器物破損のフルコースだぞ!!」


彼女の横で、

ブリキのロボット姿から元の眼鏡をかけた『黒猫』に

戻ったアルトが、

毛を逆立てて大絶叫している。


「まぁまぁ、誰も見てないし、怪我の功名ってことで……」


「見てるわい、この大馬鹿者がぁぁぁ!!」


一緒に落っこちてきていたドワーフの親方が、

頭に大きなタンコブを作りながら怒髪天を突く勢いで

怒鳴り声をあげた。


しかし、その怒声も、地底の奥底から響いてきた不気味な駆動音によってかき消される。


ゴゴゴゴゴゴ……ガガガッ!!


空洞の中央、フェルムのすべての動力を司る

『古代魔導炉』が、

エーテルの規格外の魔力と落下の衝撃で完全に

暴走していた。


漆黒の鉄鋼フレームが意思を持つように蠢き、

組み替わり、全長十メートルを超える『鋼鉄の戦車竜』へと姿を変えていく。

その炉心からは、

街の全エネルギーが臨界突破した赤黒い熱線が

パチパチと放たれていた。


「マズいぞ! 魔導炉が防衛形態(ディフェンス・モード)になっちまった! 街の奴らを侵入者と見なして、地上のフェルムごと焼き尽くす気だ!」


親方が顔を真っ青にして叫ぶ。


「大変! よーし、ここは『十聖(じゅっせい)の魔術師』であるこの私に任せて!」


「お前が原因の火事に、お前がガソリンを持って突っ込むな!!」


戦車竜の砲身が赤く輝き、

超高圧の蒸気熱線がエーテルたちに向けて発射された。


「アルト、一番硬いものになって!」


「ああもう、国家賠償請求してやるからな! ――とうっ!」


ポンッと紫の煙が弾け、アルトは地面に深く突き刺さる

『眼鏡の紋章が刻まれた、巨大な鋼鉄の城門(シールド)』へと変身した。


凄まじい熱線がシールドに激突し、

激しい火花が散る。

アルトの頑強な変身術は何とか熱線を防ぎきった――

かに見えた。


「おい、熱線がシールドの隙間から回折(かいせつ)して後ろに回り込んできてるぞ! 逃げろ!」


「えっ!?」


色彩の魔術師であるエーテルは、

光の性質(回折)には詳しかったが、

戦車竜の熱線は単なる熱ではなく『光線』の特性を持っていたのだ。

城門の脇をすり抜けた熱線が、

背後の岩盤をドババババと爆破していく。


「わわわっ、おのれトカゲめ! ――『色彩よ、重さを変えよ(ヘビー・ペイント)』!」


エーテルは戦車竜に向けてピンク色の魔力を放ち、

その巨体の自重を100倍に跳ね上げた。


ドスンッ!! と凄まじい音がして、

重さに耐えかねた戦車竜が地面にへばりつく。


「よし、動きを止めたよ!」


「バカ野郎! ここは地下空洞だって言っただろ! 100倍の重さがかかったらどうなるか考えろ!」


親方の悲鳴と同時に、

戦車竜の足元の地面がバリバリと崩れ始めた。


重すぎる戦車竜のせいで、

フェルムの地下の構造そのものが耐えきれなくなり、

さらに深いマグマ層へと街ごと沈没しかけるという、

文字通りの泥沼大ピンチに陥ってしまったのだ。


「あ、あはは……。地面が柔らかいのがいけないんだね。よーし、じゃあ全部固めちゃう!」


エーテルは天然全開のまま、両手を天高く掲げた。


「世界よ、すべての色彩を灰色に染め上げ、沈黙せよ――『灰塵の世界(セメント・パレット)』!」


エーテルのピンク色の髪がまばゆく輝き、

彼女から放たれたドロドロとした『灰色の魔力』が、

戦車竜も、崩れる岩盤も、噴き出しかけた蒸気も、

すべてを巻き込んで津波のように広がっていった。


色彩を奪われ、灰色に染まった空間は、

一瞬にしてカチカチの硬質な『セメント(石化結界)』へと変化する。

暴走していた戦車竜は、咆哮をあげた姿勢のまま、

灰色の石像となって完全に動きを止めた。

マグマの噴出も、岩盤の崩落も、

すべてが無理やり物理的に固定されたのだ。


「……ふぅ。これで、一件落着だね!」


エーテルは額の汗をぬぐい、満面の笑みを浮かべた。


「一件落着なわけあるかぁぁぁ!! 街の貴重な古代魔導炉が、ただのセメントの塊になっちまったじゃねぇか!!」


親方が涙目で叫ぶ。

だが、石化した戦車竜の胸のあたりから、

パキン、と綺麗な音がして、

ひとつの部品がポロリと床に落ちた。


それは、灰色に染まらずに白銀の輝きを放ち続ける、

精巧な『白銀の歯車』だった。

神々の島を覆う結界を解除するための、

3つ目の古代遺物。

エーテルの羅針盤が、

その輝きを吸い込んで嬉しそうにキィィンと鳴る。


「あ、目的のものは手に入ったよ、親方!」


「お前の目的のために、我が街の歴史が一つ終わったんだよ!!」


その時、

頭上の穴から「おい、地下で何が起きているんだ!? 衛兵隊、突入せよ!」と、ガシャガシャと鎧の音が響いてきた。本物の警察(衛兵)の登場だ。


「大変、アルト! 捕まったらあの島に行けなくなっちゃう!」


「だから最初から犯罪だって言っただろ!! ほら、早く俺を『ドリル』に変身させろ! 壁をぶち抜いて逃げるぞ!」


黒猫の姿のアルトを抱きかかえ、

エーテルは怒り狂う親方と衛兵たちを背に、

フェルムの地下から慌てて脱出を図るのだった。


天才にして、歩く天災。

エーテル・ヴィアトールの世界を揺るがす指名手配(?)の旅は、まだまだ加速していく。




最後までお読みいただきありがとうございました。

この話は6話も含めて編集する予定です。

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