第5話:光の音符と目覚める旋律
「うわぁ……! 見てアルト、街のあちこちがキラキラ歌ってる!」
エーテル・ヴィアトールが放った色彩魔術
『七色の交響曲』によって、
ソナリアの街は今、
目に見える光の音符で埋め尽くされていた。
おんぼろ空中船プランタン号がパイプを塞いだことで鳴り響いた不協和音は、エーテルの天然な思いつきによって、視覚と聴覚を魅了する奇跡の演奏会へと塗り替えられていたのだ。
「おいエーテル、感心している場合じゃない! 街の奴らは喜んでるが、お前の魔力がソナリアの共鳴石に過剰反応しちまってるぞ!」
巨大な蓄音機のラッパの姿のまま、
アルトの眼鏡が焦りでガタガタと震える。
エーテルが放った虹色の光の音符。
それが街の建物――楽器の形をした家々の魔導回路に吸い込まれるたび、ソナリアの街の地下から、重低音の地響きがゴゴゴゴ……と鳴り響き始めた。
「あっ、中央広場のあそこ! 何か出てきたよ!」
エーテルがピンク色の髪を揺らして指差した先。
街の中心にある干上がった噴水が割れ、光の音符に導かれるようにして、純白の結晶でできた『巨大な音叉』が競り上がってきたのだ。
それは、かつて神々の時代に作られたとされる、
空の結界を狂わせる特殊な周波数を放つ古代遺物
――『天籟の音叉』だった。
「やっぱり! あそこから、あの島と同じ『空の匂い』がする!」
「させるかぁぁぁ!!」
その時、街の異変を嗅ぎつけた、この地域を荒らす空賊の魔導アーマー(蒸気と魔術で動く飛行兵器)が、天籟の音叉を奪おうと雲の上から急降下してきた。
「あの宝物は俺たちのものだ! 邪魔な魔術師め、消え失せろ!」
放たれる無数の魔導弾。
「危ない! アルト、今度はすっごく硬い盾になって!」
「お前な、人使い……いや、使い魔使いが荒すぎるぞ! ――とうっ!」
ポンッ、と紫の煙が弾け、アルトはプランタン号の全面を覆うほどの『眼鏡をかけた、超巨大なシンバル』へと変身した。
ドォォォォン!!
空賊の魔導弾がアルトのシンバルに直撃する。
しかし、アルトの高度な変身術と硬度は、
すべての攻撃を火花とともに完璧に弾き返した。
「アルト、ナイス! お返しに、最高のフィナーレをあげるね! ――
『色彩よ、爆ぜて響け(クレッシェンド・カラー)』!」
エーテルがタクトを振るうように手を突き出すと、
街中に漂っていた七色の光の音符が一斉に空賊たちの周りに集まり、眩い光の爆発を起こした。
空はペンキをひっくり返したような鮮やかな極彩色に染まり、空賊の魔導アーマーたちは目が眩んで
「目が、目がチカチカするー!」と悲鳴を上げながら、
遥か彼方へと墜落していった。
「ふふっ、これでおしまい♪」
エーテルがにっこり笑って着地し、
天籟の音叉に手を触れる。
すると、純白の結晶がキィィン……と
美しく澄んだ音を立てて砕け、
その輝くエッセンスがプランタン号の魔導エンジンへと
吸い込まれていった。
これで、浮遊島を囲む嵐の結界を突破するための2つ目の鍵が手に入ったのだ。
「ふぅ……。二つ目の街にして、早くも寿命が縮んだよ……」
黒猫の姿に戻ったアルトは、
へとへとになって地面にへたり込んだ。
街を大騒ぎに巻き込みながらも、結果的に空賊を退治し、幻の古代遺物まで目覚めさせてしまった
『デケム・ルミナ』。
ソナリアの住人たちからの大歓声と拍手に、
エーテルは天然全開の満面の笑みで手を振り返す。
「さぁアルト、次の街へ出発進行! 羅針盤が、今度は黒い煙のあがる『歯車のたくさんある街』を指してるよ!」
「次はスチームパンクの街か。頼むから、次こそは静かに観光させてくれよな……」
賑やかな二人の旅路は、まだまだ始まったばかり。
プランタン号は再び、
果てしない蒼穹の彼方へと飛び立っていくのだった。
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