風が奏でる祝祭都市の街 ソナリア
「ふふふーん、ふふーん♪ ――ねぇアルト、聴こえる? 空気が歌ってるみたい!」
プランタン号の操縦桿をリズミカルに
トントンと叩きながら、
エーテル・ヴィアトールはご機嫌に鼻歌を歌っていた。
アクア・ルミナの遺跡で見つけた『
青銅の羅針盤』に導かれ、白い雲の海を越えること数日。
エーテルたちの前に現れたのは、巨大な盆地に広がる、
おもちゃ箱をひっくり返したような賑やかな街
――音響の祝祭都市『ソナリア』だった。
この街の建物はすべて、巨大なホルンやチェロ、
オルガンといった楽器の形をしている。
山から吹き下ろす心地よい風が
建物の隙間を通り抜けるたび、
街全体が優しく美しい三重奏のメロディを奏でる、
文字通りの「音楽の街」だ。ここでは耳の大きな兎人族や、歌を愛する妖精族が、毎日をまるでお祭りのように陽気に暮らしている。
「確かに綺麗な音色だが……おいエーテル、お前の鼻歌のせいでプランタン号の飛行リズムが狂ってるぞ! ちゃんと真面目に操縦しろ!」
エーテルの膝の上で、不満そうに耳をピクピクと動かしているのは、使い魔のアルトだ。
音の街に敬意を表してか、
今のアルトは『眼鏡をかけた、お洒落な蓄音機』の姿に変身している。
人間にはなれない彼だが、
この姿なら「お説教」の声がラッパからよく響く。
「大丈夫だよー。ほら、もうすぐ着陸場――わぁっ、見てアルト! あそこで兎人族の人たちが、おっきなハープを演奏してる! 楽しそう!」
「おい、よそ見をするな! 着陸コースがズレて――って、あっちの巨大オルガンのパイプに向かって突っ込んでるぞ! 速度を落とせーっ!」
「うにゅ!? ブレーキ、ブレーキ……あ、間違えて加速の魔法陣を踏んじゃった!」
「このド天然魔術師――!!」
エーテルが焦ってペダルを踏み込んだ瞬間、
プランタン号はおんぼろの翼を派手に羽ばたかせ、
爆発的な七色の魔力光を吹き出しながら猛加速した。
彼女は世界に数ある魔術師の頂点、
世界を優雅に照らす10人の大天才に与えられる最高峰の称号――『十聖の魔術師』の一人。
その天才的な魔力は、おんぼろ船を恐ろしい速度の弾丸へと変えてしまう。
ズドォォォン……!!
プランタン号は、
ソナリアの象徴である中央広場の超巨大パイプオルガン
――その一番大きな『低音のパイプ』の真っ只中へと、
すっぽりと頭から突っ込んでしまった。
「……ぷはっ。いたたた、ちょっと狭いね、アルト」
「狭いじゃ済まない! 完全に詰まったぞ! しかも、パイプを壊しちまったせいで、街の風のメロディが……!」
アルトの言う通り、プランタン号がパイプを塞いでしまったことで、街を流れる美しい三重奏が「プーーーー……」
という、
マヌケなおならのような低音一色に変わってしまった。
街中の兎人族や妖精族たちが、
一斉に耳を押さえて「なんだこの不協和音は!?」と
広場に集まってくる。
「大変、街の音楽が台無しになっちゃった! よーし、こうなったら私の魔法で、もっと素敵な音楽にしちゃおう!」
「待て、お前は『色彩の魔術師』だろ!? 音楽はどうするんだよ!」
「アルト、大きいラッパになって!」
「ええい、やけくそだ!」
ポンッ、と紫の煙が上がり、
アルトはプランタン号の甲板を埋め尽くすほどの
『巨大な蓄音機のラッパ』へと変身した。
「世界よ、音にも鮮やかな命を――
『響け、七色の交響曲』!」
エーテルが両手を広げて呪文を唱えると、
彼女のピンク色の髪がまばゆく輝いた。
次の瞬間、アルトの巨大なラッパから、
ただの音ではなく、目に見える『色とりどりの光の音符』がドババババッ! と街中に向けて噴き出したのだ。
ドレミの音階に合わせて、赤、青、黄色、緑の光の粒子がソナリアの空を華やかに染め上げていく。
それは、エーテルの色彩魔術によって
「視覚化された音楽」だった。
耳を押さえていた街の人々が、
呆然とその美しさに目を見張る。
「わあ……綺麗……!」
「音が、色になって踊ってる……!」
不協和音は大パニックを引き起こすどころか、
エーテルの天然な思いつきによって、街の歴史上、
最も鮮やかで美しい
「光の演奏会」へと塗り替えられてしまったのだ。
「ふふん、大成功!」
「ふぅ……。心臓に悪いのは相変わらずだが、本当に大したもんだよ、お前は」
ラッパの姿のまま、
アルトは感心したように息を漏らした。
しかし、この光の演奏会が、
街の奥深くに眠る『あるもの』を刺激していることに、
二人はまだ気づいていなかった――。
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