水底の遺産と次なる航路
「うわぁ……。外はあんなに瑞々しいのに、中はなんだか厳かだね」
エーテル・ヴィアトールは、
パタパタと靴音を響かせながら、
水が引いたばかりの海底遺跡の奥へと進んでいた。
数百年もの間、深い水底に眠っていた漆黒の神殿。
その通路の壁面には、
古代の魔導回路が淡い青色の光を放ち、
まるで生き物のように脈打っている。
「おいエーテル、あまり勝手に動き回るな。古代の遺跡ってのは、侵入者を排除するための防衛機構――つまり、トラップの塊なんだからな!」
そう言って彼女の斜め後ろを不機嫌そうに
浮遊しているのは、使い魔のアルトだ。
暗い通路を照らすため、今のアルトは
『眼鏡をかけた、不気味に発光するチョウチンアンコウ』の姿に変身させられている。
「大丈夫だよアルト! 悪い空気はしないもん。それにほら、あそこに何かいるよ?」
エーテルがピンク色の髪を揺らしながら指差した先。
通路の突き当たりにある広大な玄室の真ん中に、
それは鎮座していた。
金と銀の歯車で構成された、
体長3メートルはあろうかという
『機械仕掛けの巨大な守護虎』。
侵入者の気配を察知した瞬間、
虎のレンズ状の眼が赤く妖しく点灯し、
蒸気を吹き出しながらガシャン! と咆哮をあげた。
「ほら見ろ! 出たぞ、遺跡の防衛ゴーレムだ!」
「かっこいい――! 綺麗な金色! ねぇアルト、あの色、私の魔法で塗り替えちゃってもいい?」
「戦う気満々かよ!? 頼むから壊さないように足止めしてくれ!」
猛然と襲いかかってくる機械の虎。
その鋭い爪がエーテルを引き裂かんと振り下ろされる。
しかし、エーテルは避けるどころか、
楽しそうにステップを踏んだ。
「世界よ、私の色に染まりなさい
――『桃色の束縛』!」
エーテルが空間に指先で弧を描くと、
彼女の背後から鮮やかなピンク色の
魔力光が奔流となって溢れ出した。
その光は虚空で実体を持つ
『強固なリボン』へと姿を変え、
機械の虎の巨体を瞬時にぐるぐる巻きにして拘束する。
ズゥゥン! と重々しい音を立てて倒れ込み、
ジタバタと不格好に手足をバタつかせる守護虎。
「よし、今のうちに奥の祭壇を調べるぞ!」
アンコウ姿のアルトが祭壇を照らすと、
そこには一本の古びた、
しかし精巧な彫刻が施された
『青銅の羅針盤』が安置されていた。
「これだ……!」
エーテルがそっと羅針盤を手に取ると、
文字盤の針が不規則に回転したのち、
天高く――あの誰も届かない『浮遊島』のある方角を
ピタリと指して静止した。
それと同時に、
羅針盤から放たれたまばゆい青い光がプランタン号の
魔導核へと吸い込まれていく。
おんぼろ空中船の最高高度を引き上げる、
古代の水魔術のデータが更新されたのだ。
「やったねアルト! 最初のピース、ゲット!」
「よくやったエーテル! ……って、感心してる場合じゃない、虎の束縛が解けるぞ! ズラかるぞ!」
「はーい!」
エーテルは羅針盤を鞄に放り込むと、
アルトを抱きかかえて遺跡の出口へと全力疾走した。
――数時間後。
中央水門が再び開かれ、
元の美しい水の都へと戻ったアクア・ルミナ。
その上空を、七色の虹の尾を引きながら、
プランタン号が軽快に駆け抜けていく。
「さぁアルト、羅針盤が次の場所を指してるよ! 次は……山をいくつも越えた先にある、街中から綺麗な音が聞こえる国だって!」
「やれやれ、今度は『音楽の街』か。次こそは平穏な旅になるといいんだがね……」
人間の姿になれない使い魔の愚痴を乗せて、
おんぼろ空中船は新しい街の色彩を求めて、
どこまでも続く蒼穹へと消えていくのだった。
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