9 魔剣の秘密(魔力の真実)
登場人物
グロウ:男主人公。剣の国ブライダの魔法戦士。
エレナ:女主人公。聖獣の国セレスの元公爵家令嬢。
ユゼス:グロウが領主を勤めるスロウ村の神官。
――結婚式の翌日――
その日の朝。グロウは村の教会を訪ねる。
神官のユゼスは教会前を掃除していた。
「おや、領主殿。皆での朝の祈りは週一ですぞ」
「ああ。今日は相談というか……鑑定のスキルか魔法は使えないか? 俺の剣に何か変化があるかどうか調べたいんだが」
切れ味だけなら巻藁でも作れば試せるが、特別なパワーが宿っている場合、魔力を解析しなければ知りようが無い。
幸い、魔法のある世界なので魔法を調査する魔法やそのための技も確立されている。都市部の武具屋や道具屋ならばそのための魔術師を一人は雇っている物だ。
だが田舎村となるとそうもいかない。そこで教会の神官が大抵は村一番の知識人であり、子供達に読み書きを教える先生も兼ねる事を思い出し、こうして相談に来たのだ。
するとユゼスは頭巾の下で「フフフフ……」と笑った。
「よくぞ聞いてくださった。不肖ながら司教を目指した事もある身でしてな。鑑定のスキルなら都市の武具屋にも引けを取りませんぞ」
「へえ、そりゃありがたい」
期待以上に得意な様子。グロウは感謝しながら魔剣【エレクトラー】を抜いた。
剣に両手をかざす神官ユゼス。
「念動……集中……むぬううん……」
不気味な唸り声とともに掌に緑色の光が宿る。
しばらく集中を続け……やがて掌から光が消えた。頭巾の下に手を突っ込んで汗を拭うユゼス。
「なるほど。鑑定できました。領主殿、この魔剣【エレクトラー】は持ち主とレベルがリンクする能力がありますな? という事はこの魔剣、もしや貴方が生み出した『真の魔剣』なのですか!?」
「まぁ……そういう事だ」
「むう、領主殿が『魔剣使い』だったとは! 奥方がブライダ国人ならば感激なされたでしょうに。まぁそれは置いといて……この剣には、魔剣使い本人やその周囲の仲間の基礎能力を向上させるバフの力もありますな?」
「まぁほとんど無いも同然の威力だけどな」
グロウの返答に、ユゼスは「ふうむ?」と唸って考えた。
「そんな筈はありません。目に見えて効果を発揮すると思われます。まぁ、剣がレベルアップするうちに能力が進化したのかもしれませんが、この強化バフ能力は、物理的な距離、相手への感情、相手からの感情、そして関係の深さ……そういった要素で影響の強さが決まるとはいえ、相互に信頼があれば仕事仲間……同じパーティにいる冒険者のメンバーにならば、10レベルほど上昇したに近い威力を発揮しそうです」
「えっ? そこまでか?」
ユゼスの説明を聞いて戸惑うグロウ。
冒険者時代、そんな効果を実感した事は無かった。そこまで明確な威力が出るならかつてのパーティメンバーは彼を手放さなかった筈だ。
だが説明内容を思い出し、ユゼスへ訊き返した。
「相手が俺を嫌っていると仮定した場合は、どうだ?」
「その仮定ですと、領主殿に友好の情があっても無意味でしょうな。少しわかり難いかもしれまんせんが……互いの好感を合算して、関係による倍率をかけて、それを能力値にプラスするとでも言いますか。片方がマイナスですと、プラスマイナスして合計がゼロになる……そんな感じです」
「そ、そうか」
グロウは悲しくも納得する。
(あいつらが俺を内心では嫌っていたから効果がほとんど無かったのか。まぁもしそれに気づいて口頭で告げた所で、信頼なんて物が本当に芽生えてくれるとは思えんが)
そこまで考えると別の事が気になり、グロウは再びユゼスに訊いた。
「夫婦関係だとどうなる?」
「それは家族という事ですな。自分自身へと同じく、最も強く影響するでしょう。互いに深い愛情があれば効果は計り知れません。まぁそこまででなくとも結構な底上げはあるでしょうが、感情がゼロなら威力もほぼゼロというのは変わらないかと」
それがユゼスからの説明。
それでグロウが考えるのはエレナの事、そして結婚式で召喚された飛竜の事だ。
(あの結婚式で、俺はエレナと共に生きようと……少なくともその努力はしようと決めた。エレナも同じぐらいには俺に寄り添う気でいてくれたとして、それなら能力を高める効果もそれなりに有ったのかもしれん)
その仮定を元にさらに仮定する。
(エレナは元々聖獣召喚の力を秘めていたが、それに覚醒するには力が足りなかったとすればどうだ? それが【エレクトラー】の魔力で底上げされ補われて、あの結婚式で召喚できる域にとどいた。そういう事ではないのか?)
グロウが考えていると、教会前に一人の農夫が走って来た。
「大変です! 猟師のカールが、村に近づく魔物の大群を見つけて来ました!」
グロウの剣は自分と「味方の」パワーを上げる魔剣、だったのだ。
味方かどうかは魔剣が各人の信頼度に基づき独断で判断する仕様。
「RPGの味方全員にかかるバフ魔法ってどうやって敵味方分けてんだろな?術者が呪文唱えながら1つずつターゲット指定してんのか?」とか無駄に考えていた事が誕生の発端。




