10 迫る魔物軍(夫婦仲も危機)
登場人物
グロウ:男主人公。剣の国ブライダの魔法戦士。
エレナ:女主人公。聖獣の国セレスの元公爵家令嬢。
ユゼス:グロウが領主を勤めるスロウ村の神官。
――村の外周にある見張り櫓――
村唯一の望遠鏡で、若者が山野の向こうを見ていた。
ゴブリンやオークの群れが武装し、百匹を優に超える数で迫って来るのを。
道も無い場所を徒歩で踏み越えて来るので進行速度は遅いが、止める方法は到底思いつかない。
「ちょっとした軍レベルだぞ、ありゃ……なんでこんな田舎村にあんな数が?」
「どうすんだよ? 街へ助け呼びに行っても間にあわねーぞ」
若者の側にもう一人青年がいるが、彼の顔は蒼白だった。
村にも武具はあるし、入り込もうとした獣や魔物を追い払う事ならちょくちょくある。だがそれも1~2匹を村の男衆達が数頼みで、だ。
ちゃんとした兵士達は街に行かないと呼べないし、今から村へ来てもらうのに数日はかかってしまうだろう。
――魔物の群れの奥――
後方で馬に乗っているダークエルフの魔法戦士がこの部隊の隊長である。彼はスロウ村が見えると、横について歩くゴブリンの斥候へ訊いた。
「あんなちっぽけな村にドラゴンが?」
「へえ、この目で見ました。なのに村に何の被害も無いみたいなんで、竜騎士か凄腕の召喚魔術師でも来たんじゃねぇかと」
斥候ゴブリンの意見に頷くダークエルフ隊長。
「まぁそう考えるのが妥当か。そんな奴がこのタイミングで来る以上、我らが砦を建造している事を嗅ぎつけられたのだろう。油断せず一気に叩き潰さねば」
なんという不運。結婚式に訪れた飛竜の姿を、近隣に住む魔物に目撃されてしまったのだ。
しかも魔物達はちょうど前線基地を秘密裏に造っている最中であり、神経質になっていたのである。
魔物達とてドラゴンの強さはわかっているので、手持ちの全戦力を最初から投入してきたのだ。
――スロウ村・領主邸前――
村人達がエレナに頭を下げていた。
「聖女様! あの飛竜を召喚してください!」
「四の五の言ってられないわね。やってみるわ」
真に伝説の聖獣なら、並の魔物など百や二百ぐらい一蹴してしまえる筈だ。
エレナは両掌を握り合せ、目を閉じて祈った。
(お願い! ここへ来て、飛竜!……)
……待つ事しばし。
「来ませんね……」
村人の一人が呟く。
空は今日も雲などほとんどない良い天気だ。何か飛んでくればすぐに見える。それが見えないのだから何も来ていないのだ。
村の神官ユゼスが腕組みして考え込んだ。
「召喚魔法も大がかりな物になると儀式や供物が必要になる。結婚式を祝いには来てくれたが、平時に呼ぶなら何か特別な物が必要なのかもしれん」
別の村人が溜息をついた。
「それを今から調べても、間に合わないでしょうな……」
そこへ聞こえる馬のいななき。馬具を装備した馬をひいて、鎧具足で武装したグロウが厩から現れたのだ。
「村人は皆逃げろ。エレナもだ」
「ちょっと! まさか足止めに行くんじゃないでしょうね?」
「まさかも何も、他に無いだろう」
「馬鹿言わないで! 結婚一日で私を未亡人にするの? カッコつけてないで皆で逃げるのよ!」
必死に訴えるエレナ。
彼女とてわかってはいる。ただ逃げるだけでは、敵に追撃の意思があった時に多数の犠牲が出る事を。殿で止める者がいるといないでは大違いなのだ。
そんなエレナの側に来て、グロウはフッと微笑んだ。
「ゴメンな。来て一日だが、これでも領主様で騎士なんで。俺がこの村の軍事力なんだわ、使う時にゃあ使わんと。それにあの飛竜が俺の魔剣を何やら強化してくれたようだし……案外、引っ掻き回す事もできるんじゃねぇか?」
「いい加減に……!」
それでも食い下がるエレナ。
グロウは……
妻の肩を抱いて、額に優しく口づけした。
驚き、言葉の続かない妻に、旦那はあくまで微笑みかける。
「共に人生を歩むとか、天の神様に大嘘こいちまったが。できればそうしたかったのは本当だ。君の事を好きになりたかったのも、な」
そう言うと、グロウは踵を返して馬に乗った。そしてもう振り向きもせずに村の外へ駆けてゆく。
その背を見送り、エレナは握り拳を振るわせて怒った。
(それが男らしさってヤツ? 古臭いわよ、そんなの!)
そう考えもするが、怒りの矛先は主に己自身だ。
(やっぱり私は聖女じゃなかったというわけ? じゃあ飛竜は何だったの? この背中の魔法陣は? 結局、出来の悪い役立たずなの?)
「奥様、とにかく逃げましょう。我々がいなくなれば旦那様も逃げる事ができますんで」
気まずそうに、村人の一人がエレナに声をかけた。
他の村人達は各自の家へ走り、最低限の荷物を持ち出そうとしていた。
――村を出てすぐの野原――
迫る魔物の軍が視認できる所まで馬を走らせたグロウ。
当然、相手側も気づき、たった一騎に大勢が弓矢を持ち出す。強力な敵が控えていると思っている以上、目に着いた敵全てに油断はしないのだ。
弓の射程に捉えようとじわじわ近づく敵の群れを睨み、グロウは魔剣を抜いて呪文のために精神集中を始めた。
(まず鼻面に叩き込む。その後は森に誘導して……さあて、どこまで凌げますやら)
死の予感に戦慄しつつも、それでも冷や汗を流しながら不敵な笑みを作るグロウ。己の魔剣に視線を向ける。
「俺の力を底上げしてくれてるんだろう? 限界までドデカく頼むぜ」
そう呟いて、攻撃の呪文を唱えようとした。射程に優れる雷弾の呪文を使おうとする、が……不思議な事に気づいた。
(!? 詠唱しなくても呪文が成立する……)
精神への手応えとでもいうべき物が、組み上がってゆく魔術を感知する。
グロウは見た。
魔剣の刃に魔術のルーン文字が映り、一節ずつ次々と浮かんでは消えてゆくのを。その呪文はグロウの詠唱しようとしていた内容……ではなかった。
――村の外周にある見張り櫓――
領主の戦いとその動きを見ようと、村の神官ユゼスは一人で見張り櫓に登っていた。
彼は村のすぐ外で、巨大な光と轟音が炸裂するのを目にする。
「ゲーッ! あれは?」
昔読んだマンガに倣い、1対100以上から始めてみようと思う。




