7 巨大な客人(人ではないが)
登場人物
グロウ:男主人公。剣の国ブライダの魔法戦士。
エレナ:女主人公。聖獣の国セレスの元公爵家令嬢。
天より降りてきた家屋より巨大な影。金と銀に輝く体に巨大な翼、長い尾。それを見た村人の誰かが慄いて叫ぶ。
「ど、ドラゴン!?」
悲鳴をあげて逃げ惑う村人達。
グロウもエレナを抱えて逃げようとしたが、その眼前に竜は降り立った。地響きを立てて大地が揺れる。
やむなくグロウは剣を抜いた。魔剣を有する者として腰にさげてはいたが、正装の一部としてであり、まさか結婚式で抜くなどと思いもしなかった。
巨大な竜を前に流れる冷や汗……中級の入り口に立った元冒険者一人で巨竜と戦うのは正気の沙汰ではない。グロウの現在レベルはせいぜい50程度。だがドラゴンなら確実に100はある。未熟な最弱の個体でも、だ。上級の物となると天井など有って無いようなもの。
金と銀に輝く体は金属の部品を組み合わせた人造物のようでもあり、瞳の無いガラスのような目からは感情が全く読み取れない。
ただグロウの直感は告げていた。こいつは途方もない代物だ、と。
右手に剣、左手に花嫁。冷や汗が止まらない中……グロウはニヤリと不敵に笑った。
「ドラゴンはお姫様を欲しがるというが……本当にこんなのが来ちまうとは、エレナは大したもんだぜ」
その軽口と笑ってみせる事だけが、可能な精一杯の抵抗だった。
その腕の中でエレナが呻く。
「だめ……」
「理屈じゃそうなんだが、さっき旦那になっちまったからな。終生共に歩むと誓ったばかりだ。終わりが早すぎるとは思うがよ」
そう覚悟を決める事ができたのも、戦士としての修行を子供の頃から積んできたからか、冒険者などといういつ命を落とすかわからない仕事をしていたからか。
しかしエレナは夫の首に手を回して止める。
「これ、悪い子じゃないわ」
「はい?」
思わず新妻を覗き込んで目をぱちくりさせるグロウ。
村人の一人がエレナの背を指さして叫んだ。
「奥さんの背中に刺青が!?」
いつの間にか、エレナの背には魔法陣が浮かんで輝いていた。その中央には降り立った物とそっくりなドラゴンの姿がある!
神官ユゼスが「ハッ!」と気付き、グロウに声をかけた。
「もしや、あのドラゴンは奥様の召喚した聖獣? このタイミングで聖女の力に覚醒なされたのですか?」
「え? そんなタイミング有り得るのか?」
ちょっと信じられないグロウ。なにせ結婚式であり、何かの修行をしていたわけではないのだ。
しかしユゼスはドラゴンに前足が無い事にも気づき、さらに声をあげた。
「飛竜? 確かセレス国108の聖獣の頂点に立つ三つのうちの一つが、神話に語られる最強の飛竜……ならば奥様は伝説級の聖女という事に?」
神官の驚きを他所に、エレナはグロウを促した。
「私達を呼んでる」
「お、おう?」
困惑したまま、それでもグロウはエレナを抱えたまま一歩ずつ、されど剣は抜いたままで飛竜に近づく。頭を見上げる位置まで行くと、おっかなびっくりながらも軽く頭を下げた。
「妻の身内が式に参加って事なら、まぁ歓迎しますからよ……」
すると飛竜は――なんとお辞儀を返した。
そして大きく翼を広げる。そこからオーラとでも言うべき「力」が立ち昇った。星々のように燐光が煌めくその「力」は、まるで宇宙の銀河のごとし。その「力」がグロウに降り注ぎ、手に持つ魔剣に吸い込まれていった。
「こいつは一体!?」
グロウが驚いているうちに「力」の奔流は収まった。全て魔剣【エレクトラー】に吸い込まれて。
グロウは魔剣の刃をまじまじと見つめる。
「見た目は変わっていないようだが……」
だが飛竜は再び羽ばたき始めると、ほぼ垂直に空へ飛びあがった。そのままどこまでも高く飛び、人間の視力の限界のその先まで高度を上げて見えなくなってしまう。
「帰っていったぞ……」
村人達が慄きつつも物陰から出てきた。
特に子供達は興奮して駆け出して来る。
「すっげー! 奥さんドラゴン使いなんだ! カッケー!」
「ドラゴンのお姫様だー!」
男の子も女の子もおおはしゃぎで駆け寄り新婚夫婦を囲んだ。
慌てて剣を鞘に収めるグロウ。その首に片手を回したまま、エレナは子供達に微笑みかけた。
「ありがとう。これからは仲良くしてね。じゃあパーティを続けましょうか」
歓声をあげる子供達。エレナは旦那から離れ、「おめでとう」と口々に祝福する子供達へ、テーブルの料理をとりわけていった。
それを眺めるグロウの側へユゼスがやってくる。
「物凄く急な赴任と結婚式なので、なにやら事情がお有りだと村人一同感づいてはいましたが。予想を遥かにこえる奥様ですな」
「まぁ、夫婦喧嘩をやるのは覚悟を決めてからにするよ」
いまだ困惑しながらもグロウはそう返した。
今時はドラゴンもすぐ美少女になるそうだが、この作品でそれをやると新婚夫婦の邪魔者にしかならないので保留という事にしておいた。




