5 初夜(文字通りの意味止まり)
登場人物
グロウ:男主人公。剣の国ブライダの魔法戦士。
エレナ:女主人公。聖獣の国セレスの元公爵家令嬢。
グロウは窓の外に夜の帳が降りつつある事に気づいた。
「とりあえず飯にしますかね」
そう言いつつも彼には気がかりが早くも一つ。
貴族家の夫婦ではあるが、彼らには使用人など一人もいない。
「使用人を雇う経済的な余裕が、こんな小さな田舎村の領主……というか村長にはないだろうし、悪いが家事もおいおい覚えてもらわないといかんな。まぁ今日の所は俺がやろう」
「料理できるんだ?」
驚くエレナ。元冒険者が料理をするなど意外に思う。
だがグロウは軽く笑った。
「旅の途中で手に入る食材を食える状態にする程度にはな。料理という程の物を作れるレベルじゃないが」
するとエレナが椅子から立ち上がった。
「じゃあ私がやろうかしら? 簡単な物なら作れるわ」
「え? マジで?」
今度はグロウが驚いた。貴族令嬢が料理など、冒険者以上に意外だ。
だがエレナはいくつかある荷物の箱を漁りながら話した。
「風邪なんかが流行ったりした時、動ける使用人は妹優先で、私の方は手が足りなくなったりしたからね。その時に自分が食べる分だけは自分でやってたの」
言いながらエプロンを身に着け、箱から小さな布包みを取り出す。
「ありゃ、見慣れた物があるわね。じゃあこれウチから持ってきた分か……私の荷物以外にもあったのね。ならシチューでもやっときますか」
包みから出したのは茶色いブロック。
しばしそれを眺め、何か理解してグロウは目を丸くした。
「固形のルウ!?」
そう、シチューのルウを調理してから水分をとばして石鹸のように固めた物。
だがそんな物は市販などされていない。
エレナはくすりと笑った。
「あ、わかった? ちょっとしたアイデアでしょ。湯に溶かせばシチューが作れるんだけど、簡単な魔法を使って割と手軽に作れるのよ。まぁ試行錯誤は必要だったから、そこは魔法の得意なエルフの友達に手伝ってもらったけど。必要な呪文とその威力がわかった今なら、私一人でもできるわ。時間と手間さえかければ魔法も要らないんだけどね」
「たまげた……地球のスーパーで見た以来だぜ」
思わず呟くグロウ。
そう、グロウには前世の記憶があるのだ。
魔剣【エレクトラー】を生み出してから、何日も連続で夢を見た。
地球という異界の日本という国で暮らした記憶を。
普通の夢と違い、見れば見るほど記憶に鮮明に焼き付いて、連鎖的にいくつも思い出がよみがえり……今では物心ついてから命を落とすまでの、日本人男性としての数十年の記憶を持っている。
自我が固まってから手に入れた記憶なので、自分としてのアイデンティティはグロウ=キャスタルに他ならないが、今の性格に少なからぬ影響は及ぼしていた。
そんなグロウの呟きを聞きつけ、エレナは小首を傾げる。
「チキュウ? 何それ。外国?」
その態度で察するグロウ。
(転生者というわけじゃないのか。なら、単に珍しい発想をしただけなんだな)
しかし……エレナは漠然と、不安にも似た想いを抱えた。
(どこかで聞いた気もするわね……?)
火おこしと火力調節はグロウが、料理自体はエレナが担当し、ほどなく熱いシチューができあがった。
荷物からパンを出し、それらで夕食をとる。
二人でさっさと皿を洗って片付けると――
「いよいよ寝る時間になったわね?」
「まぁそうだな」
エレナは警戒と不安を露骨に漂わせていた。
グロウの方も少々やり難そうに。
少しの間、気まずい沈黙……そして妻が夫に訊く。
「やっぱり……夜の営みと、なるわけ?」
この時点まであえて二人とも口にしなかった問題。
夫婦なら性生活はあって当然。
だがグロウは頭を掻いた。
「まぁ今日はやめとくか。というかしばらく無しでいいだろ」
「あ、そうなんだ。いやまぁ、正直、流石にこんなすぐではちょっと抵抗が、ね」
安心してエレナは笑顔を見せた。別にグロウが嫌いなわけではない。だが好きになるには時間が足りなさ過ぎる。仕方がない、の一言で体を許す事ができる程の度胸は流石に無い。
そんなエレナに、グロウは真剣な表情で切り出した。
「俺も正直に言わせてもらうぜ?」
「うん?」
何やら雰囲気が変わり、エレナは思わず身構える。
そこへグロウは、やや厳しい表情で話した。
「なんせ家の都合だけでいきなりの夫婦だ。上手くいくかどうかなんて見当もつかん。ウマが合わずにさっさと離婚、なんて事もありえるだろ。ちょいと慎重に進めた方がいい」
そして「ふう」と溜息一つ。
「出鼻を挫くような事をいきなり言って、気を悪くさせたかもしれん。だが、やっぱりダメだから別れよう、なんて話になった時に、子供ができちまってたら……一番迷惑するのはその子だろうからなぁ」
言われたエレナは。
気を悪くするどころか、微笑んで頷いた。
「そうね。結婚とお付き合いの順番が逆になっちゃうけど、私達はそうしましょう。家庭なんてそれぞれなんだから」
気を悪くするどころか、内心、好感を覚えていたのだ。
(そうよね、自分の事ばかり考えてちゃいけないわ。私も少し見習うべきかしらね)
こうして二人の意見はまとまったが……寝室は一つしか用意されていない。中を見れば、大きめのダブルベッドが一つだけだ。
額を抑えるエレナ。
「……まぁ大工さんも家具屋さんも注文通りにしたんだろうけど」
だがグロウは平気な顔だ。
「心配はいらんよ。毛布があれば俺は地べたでも寝れる。床が有るんだから上等なもんだ」
「流石にそれはちょっと悪いわ」
申し訳なさそうなエレナに、グロウはニッと笑って見せた。
「なら明日にでも藁布団を作るか。それを手伝ってくれりゃ、お互い気遣い無しでいられるだろ。じゃあ隣の部屋で寝るから、明日は頼んだぜ、奥さん」
そう言うと背を向け、自分の荷物へと向かった。
そんなグロウを見ながらエレナは思う。
(うん、悪くない……かな。愛情までは時間が要るかもだけど、仲良くなら割とすぐなれそうな感じ)
転生物っぽい事も後々やる予定。うなれ現代知識。




