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39 決心(結ばれる夫婦)

登場人物

グロウ:男主人公。剣の国ブライダの魔法戦士。

エレナ:女主人公。聖獣の国セレスの元公爵家令嬢。

エリュトロス:最強の聖獣らしき小さな飛竜。

エルシオ公爵:エレナの父。

フィリス:エレナの妹。聖獣フェアリーパピヨンを召喚できる聖女。

リュカ:元エレナの婚約者、ルヴェル侯爵家の跡取り。

 セレス国から帰った日の翌朝。

 グロウとエレナは同じベッドで目を覚ました。二人とも一糸纏わぬ姿……互いに求め合って結ばれ、一夜、夫婦の仲を深めたのだ。

 グロウは自然とこみ上げる笑顔を愛しい妻に向ける。


「おはようさん」

「……おはよう」


 エレナは答えながらも布団に身を(うず)めた。

 グロウはそっと妻を抱き寄せ、布団から引っ張り出す。


「顔を見せてくれねぇのか? 夫に意地悪しないでくれよ」

「だ、だって、なんか恥ずかしくて……」


 エレナは真っ赤になって、今度は夫の胸に顔を(うず)めた。


「ほんと、たまりませんなぁ」


 浮かれながら妻の髪を撫でるグロウ。

 やがて腕を妻の躰に回し、顔の位置が重なる所まで引っ張り出す。

 そして恥じらう妻へ口づけを……


「もう朝なのに……」


 エレナは夫の瞳を見つめながらそう漏らす。

 しかし――


「ダメかい?」

「……いいよ」


 グロウが訊くと、許して目を閉じた。


 結局、また始まってしまい……二人が寝床から出るのは陽が真上近くなってからの事だった。



 ――昼――



 少しの疲れと妙に艶の出た笑顔を浮かべるエレナと、その肩を抱くグロウ。微妙に着衣の乱れた二人が身を寄せ合うようにして居間兼台所のテーブルにやってきた。


「流石にお腹すいたね……あーっ!」


 エレナは驚き慌てて大声をあげた。

 テーブルの上に飛竜(ワイバーン)のエリューが伸びている。仰向けになって、その腹からはグウグウと空腹を報せる音が鳴りっぱなしだ。

 帰ったらたらふく食わせるというエレナの言を真に受け、一晩と半日中待っていたらしい。


「ご、ごめん。すぐに作るから!」


 慌てて米を煮る所から始めるエレナ。

 グロウは食材を入れる箱から干し魚やリンゴを手にし、エリューに訊く。


「今すぐ食べられる物もあるが……」


 エリューはそっぽを向いて「ゲー」と不満げに鳴いた。

 流石は聖獣、(こだわ)りを知るのだ。



 ――セレス国・エルシオ公爵邸――



 邸宅の中を小走りでうろつく、エレナの元婚約者リュカ。彼はきょろきょろと何かを探し、使用人達に不審な目で見られていたが、やがて庭にフィリスを見つけて彼女に駆け寄る。


「公爵は?」

「もう出たわ」


 フィリスの言葉に、リュカはがっくりと膝をついた。


「ああ……エレナを取り戻したいという僕のお願いは通らなかったのか! 彼女は僕の物だったのに!」


 嘆くリュカを見るフィリスの目は白け、諦めもある。

 リュカの態度は酷い物だ。フィリスに乗換えながら、エレナがより高位の聖女になったらよりを戻したいと言う。エレナが既に人妻なのにも関わらず、だ。

 彼にとって、愛はブランドと切り離せない物なのだろう。


(わかってはいたけどね)


 フィリスはこの男と一緒にいたくなかったので、その場を後にした。


 一方でエルシオ公爵はどこに「出た」のか?

 彼は交渉のため、ブライダ国のスロウ村へ向かったのである。



 ――数日後。ブライダ国・スロウ村――



 騎士達の部隊に護衛され、エルシオ公爵の馬車が村に着いた。

 公爵は領主の邸宅を訪問し、グロウに頭を下げる。

 彼はテーブルに着くやいくつかの宝石箱を出した。どれにも高価な宝石や貴金属が詰められており、貴族といえど用意するのは難儀な額になる。

 実際、この半分は王から渡された物だった。


「先ずこれをお収めください」

「とは言いましても……」


 戸惑うグロウ。この後何かの依頼をされるのだろう、という事は容易に想像できる。だからそれを先に聞きたい……と思ったのだが。

 しかしエレナがにっこり笑顔で箱を全部手元に引き寄せた。


「もちろんいただきます。先日()()()()()()()正当な報酬として」


 ぐっ、と一瞬固まるエルシオ公爵。

 ここで「そうではない」と否定すれば、続く要求が通り難くなる事は明らかだ。

 だから公爵はあえて娘の言葉を否定せずに話を続けた。


「……そうですか。では本題に入りましょう。お二人にはセレス国に引っ越していただきたい。グロウ殿はエルシオ公爵家の正当な跡取りとして迎えます。この事は父上のキャスタル男爵にも了解を頂いております」


 それを聞いてグロウは確認した。


「父の了解ですか。『私の好きにさせる』と言ったのですね」

「……さようで」


 認める公爵。

 エルシオ公爵はキャスタル男爵が賛成しているかのようにあえて伝えたのだが、そこはグロウにとって男爵は実の親。父がどのように反応したか、見当がついたのである。


 そしてまたもエレナが微笑みながら答えた。


「その件に関しましては、お断りいたします」


 と。

跡取りをつくるものこういう社会では大切な事だ。極めて真面目。

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