38 勝利(いろんな意味で)
登場人物
グロウ:男主人公。剣の国ブライダの魔法戦士。
エレナ:女主人公。聖獣の国セレスの元公爵家令嬢。
エリュトロス:最強の聖獣らしき小さな飛竜。
オニクス:元魔王軍のダークエルフ。グロウに敗れて従者となる。
フィリス:エレナの妹。聖獣フェアリーパピヨンを召喚できる聖女。
ミリオボルト:新魔王軍・12真将の一人。
エレナが訴えると、エリュトロスの瞳が青く輝きだした。
不思議な事が起こった……!
エリュトロスがみるみる大きくなる。すぐに人間と同じぐらいの大きさになったのだ。
「あれ? なんでその大きさで止まるの?」
首を傾げるエレナの前から、エリュトロスは飛んだ。グロウのもとへと真っすぐに。
そして宙でエリュトロスから『Charge Up』と声が響く。
直後、金属のような金と銀の体がバラバラに分解した。だが分離した部品のまま高速ですっ飛び……グロウの全身に次々と装着されてゆく。金と銀に輝く装甲が、全身あます所なく覆った。
エリュトロスだった全身鎧を纏ったグロウの姿は、まさに輝く竜人戦士だ。
「よ、鎧になったァー?!」
驚愕する従者のオニクス。
グロウは新たな鎧に包まれて驚愕していた。
(なんか前世でこんな漫画を見たような?)
(なんか前世であんなアニメを見たような?)
同じような感想をエレナも抱いていた。
その傍らで、エルフの魔法剣士ペアーの計測呪文【スキャニング】による映像が爆発して砕ける。
「測定限界を超えたぁーッ!?」
一方、新魔王軍・12真将ミリオボルトは敵の新たな姿を前に喜んで吠えた。
「それが伝説の聖獣か。予想とは違ったが、どれほどの力か見せてもらうおう!」
その腕に再び膨大な電光が宿る。
それを正拳とともに繰り出す必殺の奥義!
「【ジゴワット・プラズマ】ァーッ!!」
獅子の前方一帯に、再び縦横無尽に走る稲妻が迸った。凡そこの世に存在するあらゆる物を粉砕する超高電力の地獄の只中で、グロウは――
握る魔剣を一閃し、全ての電撃を薙ぎ払った!
「なにィ!? まるで効かんだと!?」
驚愕するミリオボルト。
そこへ声が響く。
『無駄ダ。普段を1とすればこのフォームのパワーは100。レベルに換算するなら50000程度にまでなら確実に高まっていル』
「えっそうなのか?」
驚くグロウ。解説するその声は鎧から……兜にある目が点滅して発した物だったのだ。
ともかく敵の攻撃を凌いだ事に変わりはない。グロウは魔剣【エレクトラー】を構え、天から落雷を召喚して受け止める。そして鎧の翼を広げて敵へ飛んだ。
爆発するかのようなエネルギーを発し、見舞うは稲妻の速さでもって叩きつける雲耀の一太刀!
それは黄金の獅子獣人を正面から断ち切った。
『超電稲妻斬り(り・り・り……←エコー)』
「技名コールも鎧なんだ……」
鎧から響く必殺技の名に呆然と呟くエレナ。
斬り裂かれたミルオボルトが呻く。
「こ、これが伝説の、最強の聖獣の力か……?」
『否。愛の力ダ(キリッ)!』
「お前が答えるのかよ……」
鎧から響く声に思わず呟くグロウ。
ミリオボルトは焼かれて煙をあげる傷口を抑え、ニヤリと獅子の面で笑った。
「愛の奇跡が起きちまったなら、悪党がやられるのはスジってもんだわな……」
そして仰向けに倒れる。
屈強な獅子獣人の将軍が、ついに息絶えた。
生き残っていた新魔王軍の兵士達が恐怖の声とともに逃げ出してゆく。
疲労しきったファディスの防衛軍が形ばかりの追い打ちをかけ……ほどなく戦は終わった。
グロウから鎧が外れ、再び組み合わさり飛竜の姿をとると、みるみる縮んでエリュトロスに戻った。
――小一時間ほど後――
誰も彼もが疲れきってはいたが、数知れない負傷者の手当が行われる。
そんな中、エレナは回復呪文をグロウにかけて夫の治療に専念していた。
そこへ数頭の馬が到着する。騎士達に守られた貴人が二人。
「あれはエルシオ公爵?」
「こ、国王もいるぞ!」
兵士達が驚く中、その二人はエレナを探すと側にやってきて馬から降りた。
王が小さな飛竜を見て声を震わせる。
「それが聖獣の三つの頭の一つ、猛き飛竜のエリュトロスなのか……」
一方でエルシオ公爵は娘のエレナへ言い渡した。
「エレナ、家に帰ってこい。お前も聖女だ。この国の至宝としてこの国を守るのだ」
だがエレナは反発の視線を真っ向から返した。
「あらら、エリューが聖獣だと認めなかったくせに、今さら。それに私、エレナ=キャスタルは隣国のスロウ村領主に嫁ぎました。お忘れですか?」
「事態は変わった! 戻らんなど許されん!」
怒鳴る公爵。
だがエレナは全く怯まなかった。
父に命令されずとも、聖女となったのだからこの国に居らねばならないと帰省前には思っていた。だが父が、家族が、エリュトロスを聖獣だと認めなかった時、そんな思いは消え失せた。
確かに伝説とあまりに違う姿。また嫁入り前のエレナに大した魔術の技量などなかったのも事実だ。
しかし全く調べもせずに頭から否定して決めつけるとは。
あの時、エレナは己の居場所がどこか改めて決めたのである。
だからエレナははっきりと言い返した。
「許していただかなくて結構です。私は帰りますから」
だが……そう言うと一転、エリュトロスに優しく微笑みかける。
「エリュー、夫を助けてくれてありがとう。でもあなたはここに残って。元々この国の聖獣だもの、あなたの好きにしていいの。私達を助けてくれたけれど、私の持ち物じゃないからね」
エレナと家族の諍いは彼女達の問題だ。エリュトロスへ片棒を担ぐよう命じるのはお門違いというもの。
またセレス国に必要なのは聖獣であり、エレナではない。エリュトロスがここに残り、別の令嬢を聖女に選ぶなら……多分それが、一番丸く収まるのだ。
エレナはエリュトロスを優しく抱くと、頭に口づけした。感謝と別れを籠めて。
グロウが「ちぇっ」とちょっぴり僻む。
さてエリュトロスは……宙に羽ばたき「ンゲー」と鳴くと、再び巨大化し始めた。
周囲が驚く中、今度は見る間に10メートルを超える体長になり、尻尾で器用にエレナとグロウとオニクスを背に乗せた。馬車の残骸と散らばる荷物も二つの足で鷲掴みにした。
そして大空へ羽ばたき、軽やかに天高く飛んでいく。
「ま、待ってくれ……いや、待ってくだされ!」
哀願する王、呆気にとられる公爵、戸惑う騎士や兵士達……全てを尻目に、誰にも縛られぬ大空へ。
それを地面にへたり込んだまま眺める、エレナの妹フィリス。がっくりと肩を落とし、俯き、呟く。
「どうして……どうして? 私は全てに勝った、筈だったのに」
ぽとり、ぽとりと。涙の雫が地面に落ちて、沁み込んでいった。
誰にも縛られぬ大空を飛翔する飛竜。
進路はブライダ国の方向。行き先がスロウ村だと、エレナにはわかった。
かなりの高度ととんでもない速さにも関わらず、その背に流れる風は心地よい涼風だった。以前空で感じた恐怖など微塵も無い。
「あはは! エリュー、ありがとう! 帰ったらおにぎりいっぱい作るから! 好きなだけ食べてね!」
最高の気分で笑うエレナに、飛竜は「ゲウー」と鳴く。
「いいんですかね……」
ちらちらとファディスの都の方を気にするオニクス。
だがグロウは仰向けに寝そべり、腕枕しながら空を気楽に見上げていた。
「さあな。ま、女房にゃ逆らえんよ」
王様にとってはとばっちりだな。




