37 敵将猛威(黄金の獅子)
登場人物
グロウ:男主人公。剣の国ブライダの魔法戦士。
エレナ:女主人公。聖獣の国セレスの元公爵家令嬢。
エリュトロス:最強の聖獣らしき小さな飛竜。
オニクス:元魔王軍のダークエルフ。グロウに敗れて従者となる。
ミリオボルト:新魔王軍・12真将の一人。
改めて剣を構えるグロウ。
不敵な笑みを浮かべてそれに大股で近づく敵将ミリオボルト。
近づき……間合いが接触。
次の瞬間、鋭い攻撃が交錯した!
幾度も幾度も、刃と拳が繰り出され、防がれ、また繰り出される。
この日初めて、ミリオボルトは攻防を繰り返す戦いを繰り広げた。
この男と戦闘になる者がようやく現れたのである。
だがようやく現れた男――グロウが弾き飛ばされて後ずさった。
攻防はほとんど互角……だがグロウが僅かに、しかし確実に圧されている。
「クソっ、とんでもないぞコイツ……」
焦るグロウ。
それを見て――既に周囲の敵兵を一掃した――オニクスが呻いた。
「レベル500のグロウ様でもダメか?」
しかもグロウのステータスはレベル相応の物ではない。
グロウだけが持つCosmossenseという能力……それが全能力値に加算されているのだ。200や300の能力値に独自能力値の699が上乗せされ、実質899や999となっている。
同じ魔剣から補正の一端を受けているオニクスは、今やその事をはっきりと認識していた。
その側によろよろとエルフの魔法剣士ペアーが来る。
彼女は相手のレベルを計測する【スキャニング】の呪文を唱えた。そして歯軋りする。
「あいつ……ミリオボルトのレベルは1280よ!」
「なにィ!?」
オニクスが驚愕する。
それを横目に笑うミリオボルト。
「半分以下のレベルで俺にここまで食い下がるかよ。装備がよほど強力らしいな。ならば受けろ、渾身の……【ジゴワット・ボルト】ォー!」
ミリオボルトの拳に膨大な電光が収束し、それを正拳とともに撃ち放つ。
だがその時にはグロウも魔剣エレクトラーに天から電光を落していた。
「くそッ、【ライトニングブラスト】!」
稲妻を纏った斬撃で、グロウは敵の必殺技を迎え撃つ。
奇しくも雷撃の拳と剣。
二つの稲妻がぶつかる……が、やはりグロウが明らかに圧されていた。その威力を止めきれず、じりじりと体が焼かれる。
強化されたグロウの能力を、新魔王軍のこの将軍は素で上回っていた。
だがしかし。
突然グロウの体が青白く輝いた。光は一瞬で消えたが、途端に魔剣が敵の稲妻を斬り裂き、霧散させる!
【スキャニング】ごしにグロウの状態を見て驚くペアー。
「これは!? 戦闘中にステータスが激しく変化している!」
strengthやAgility等、肉体的な能力にさらに別の補正が加わり、上昇していた。
その原因をミリオボルトは見抜いた。
「強化呪文か! だがこのレベル差を覆す程の威力を出せる奴がいるとは……!」
彼の視線はグロウの後方、馬車の陰、強化呪文を放ったエレナを見つけていた。
フィリスの千切れた腕は既に再生している。治療を終えたエレナは大急ぎで肉体強化の支援魔法【能力全開】を夫に使ったのだ。
そして敵の技を破ったグロウは――電光を纏った剣を敵に繰り出し一閃!
超高電力を帯びた斬撃は黄金の鎧を断ち切り、敵将の体を深々と切り裂いた。
鮮血を撒き散らしながらミリオボルトは吹っ飛び、頭から地面に激突。その衝撃で地面にクレーターさえ生じた。
地の底からブスブスと煙があがる。
「か、勝った……」
安堵の溜息をつくオニクス。
しかしグロウはまだ構えを解かなかった。敵の気配が、まだ、消えない……。
果たして、クレーターの底から声が届いた。
「やるじゃねぇか。なら真の姿を見せてやる」
穴の底からのしのしと力強く出てくる……獅子の頭と鬣、屈強な体を持つ獣人。その全身は黄金の体毛に覆われている。
「ミリオボルト……その正体は獅子獣人!」
驚くオニクス。
その側でペアーが、別の事に驚愕していた。
「れ、レベル25500!?」
「2倍差を覆せる事はわかったが、次は50倍差に挑戦してもらおうか。さあ見やがれ、黄金の獅子の牙を!【ジゴワット・プラズマ】ーッ!」
金の獅子が吠えた!
その腕に膨大な電光が収束し、正拳とともに撃ち出される。だが今度は一条の電撃ではない。無数の電撃が撃ち出され、獅子の前方一帯を縦横無尽に駆け巡った。文字通り電光石火の速さで。
一帯は超高電力の埋め尽くす地獄と化した。
その余波で、側で見ていた者達も吹っ飛ばされる。その中にはエレナ達も含まれていた。馬車が盾になって直撃はしなかったものの、エレナは地面を転がる。体は汚れ、服は泥まみれになり、無数の擦り傷ができた。
一方、グロウは――
立っていた。
魔剣と魔力で身を守り、敵の攻撃を受け止め、受け流したのだ。
だが全身からブスブスと煙をあげ、鎧は壊れて地面に転がっている。流血していないのは傷口が焼かれているからであり、全身は傷だらけ。無傷の部位などなかった。
がくり、と力が抜けて倒れそうになる。
辛くもなんとか踏ん張りはしたが。
「ほう、持ち堪えたか。大したもんだ」
倒れる事を拒んだグロウにミリオボルトが賞賛の声をあげる。
グロウは弱々しく剣を構え、なんとか笑おうとした。
「嫁さんを傷つけられて下を向いてる気はねぇよ」
それを聞いてミリオボルトは「ぶわははは」と笑った。
「古くせえ! だが……そういうのは好きなタチでな。俺の下につけば副官にしてやる。女も助かるが、どうだ?」
そう訊きながらも殺気は失せていない。
拒めば躊躇なく仕留める気だ。この問いに二度目は無い。
そこへ大きな声がとんだ。
「絶対ダメ! 負けても逃げてもいいけど、悪者になるのは許さないから!」
肩を抑えて膝をつきながらも、エレナが叫んだのだ。夫に向かって。
それを聞いてグロウが微笑んだ。こんな状況なのに、楽しそうに、嬉しそうに。
ミリオボルトが「ほほう」と感心する。
「なるほど。結構イケてる女だぜ」
エレナは側に転がっていた飛竜を両手で掴み上げた。
そして必死に訴える。
「エリュー、なんとかならないの? というか聖獣なんでしょ、どうにかしてよ。今ここで本気出さないでどうするの? おにぎり毎日いっぱい食べてるでしょ、ムダ飯食らいじゃないわよね?」
するとどうした事か、エリューの瞳が青く輝きだしたのだ。
その時……不思議な事が起こった!
今時流行らない危機描写だ。女主人公まで泥に汚れて叫ぶ。普通やらない事だとわかっているのだが。




