36 さらばかつてのチームメイト(前座)
登場人物
グロウ:男主人公。剣の国ブライダの魔法戦士。
エレナ:女主人公。聖獣の国セレスの元公爵家令嬢。
エリュトロス:最強の聖獣らしき小さな飛竜。
オニクス:元魔王軍のダークエルフ。グロウに敗れて従者となる。
フィリス:エレナの妹。聖獣フェアリーパピヨンを召喚できる聖女。
シグルド:グロウがかつて所属していた冒険者パーティの戦士。
ディエン:グロウがかつて所属していた冒険者パーティの盗賊。
ミリオボルト:新魔王軍・12真将の一人。
魔剣エレクトラーを手に、鎧を纏ったグロウが敵将ミリオボルトの前に立ち塞がる。
新魔王軍12真将ミリオボルトは不敵な笑みを浮かべた。
「こんな場面で出てくる以上、俺らの敵で間違いなさそうだな」
「ご理解早くて助かるぜ」
言いながらグロウは剣を構え、じりじりと間合いを詰める。
それに真正面から大股で迫るミリオボルト。
一方、エレナも飛竜のエリュトロスを連れて馬車から跳び下りた。地面に倒れて弱々しく呻く、腕の千切れた妹・フィリスへ駆け寄る。その側には護衛としてオニクスがいた。
乱入してきた二人へと魔物兵達が走る。
二人は足を止め、オニクスが短い詠唱で攻撃呪文を行使した。
炎の嵐が爆発的に巻き起こる。魔物兵が大量に飲み込まれ、断末魔とともに吹き飛ばされた。
元々一軍団を任される腕はある魔法戦士のオニクスである。グロウの魔剣によって能力を補強されている今、一流の専業魔術師に匹敵する魔法が可能となっているのだ。
怯む魔物どもを片っ端から斬り捨てるオニクス。
その間にエレナはフィリスの側に膝をつく。
オニクスが戦いながら肩越しにフィリスを見た。
「その負傷では長くないと思いますが」
「いいえ、死なないわ」
はっきり否定し、エレナは回復の呪文を手早く唱える。その両手から緑色の輝きが生まれ、傷口へと流れ込んだ。
徐々に、だが見てわかる早さで……腕が再生し生えてくる!
「そんな、こんな高度な回復魔法をこの威力で……」
治療されながら信じられずに呟くフィリス。
欠損部位さえ再生する【リジェネレーション】の呪文は知識としては知っていたが、普通なら数日かかる筈の再生が急速に進んでいくのは初めて見た。
一方、グロウの方は……
「ちょいと待てや! 久しぶりだな、グロウ!」
横から乱入した者が敵大将との戦いを阻んでいた。
それはかつて共にパーティを組んでいた戦士、シグルドである。
彼は己の肩越しにミリオボルトへ声をかけた。
「コイツとはちと因縁がありましてね。ここはお任せください」
「ふーん? まぁやる気があるのはいい事だ。やってみろ」
ミリオボルトが許可すると、シグルドの側へ駆け寄る者がもう一人。盗賊のディエンだ。
懐かしい顔が新魔王軍側に揃っているのを見て、グロウは呆れた。
「なんでこの国にいるのか知らないが、よりによってそっち側か。この国を守る側で手柄を立てれば英雄になれるだろうに……」
「うるせぇ! でかい戦があるからと声かけられてこっちに来たんだよ! セコい魔剣で自分の能力だけ上げてたお前の息の根、俺の新しい魔剣で止めてやる!」
叫ぶシグルドが巨大な両手剣を構えた。血のようなオーラを醸し出す不気味な剣を。
そして大きく振りかぶり、渾身の一撃をグロウへ打ち込んできた!
殺意と力の籠った一撃。しかも合わせてディエンが弓を放つ。この同時攻撃は、生半可な技量で凌ぐ事は到底できない。
しかしグロウは――矢を避けながら両手剣へカウンターで一撃を叩き込んだ!
レベル500というのはこの世界において決して「半端」な技量ではないのだ。
シグルドへの一撃は十分な手応えがあった。胸を裂かれて重傷、戦闘不能に陥っても不思議ではない。
だが……
「チッ、小賢しい!」
シグルドは舌打しつつ立っていた。
胸甲は裂かれ、そこから結構な量の出血をしている。だが平然と立っているのだ。
驚くグロウ。ディエンが笑った。
「俺達二人、新魔王軍から魔法の武器を貰ったんだぜ。俺の弓は威力も射程も並みの長弓の倍はある」
「そして俺が貰った魔剣【ベルセルクロード】は、いかなるダメージにも耐えて戦う事ができる! 倒せない相手には勝てるわけがないよなァ? この魔剣があればお前なんぞ物の数じゃねぇ! 死ねやぁ!」
勝ち誇って再び斬りかかってくるシグルド。先ほどと同じ、防御を度外視した全力の攻撃。それは絶対のタフネスがあればこそ。
ディエンも再び同時攻撃を繰り出して来る。
この状況に、グロウは……溜息をついて諦めた。
「加減したかったんだが、そうも言ってられんのか」
後ろに跳ぶと、その手の魔剣エレクトラーの刃にルーン文字の列が浮かんでは消えた。それは高位攻撃呪文の詠唱であり――
「【エレクトロファイヤー】!」
グロウが着地と同時に剣の切っ先を地面に刺す。そこから火花をあげて複数の電撃が走り、シグルドを貫通し、後ろのディエンをも撃った。
悲鳴、そして絶叫!
ディエンは煙をあげて倒れ、動かなくなる。
シグルドは前進しようとして、力尽き、膝をついた。
「お、俺は不死身の筈……」
「しっかり傷を負っていただろ。なら無敵になったわけじゃない。動けなくなる程のダメージを受けたらそこまでだ」
グロウが告げると、シグルドは何か言おうとして、そのまま倒れた。
与えられた魔剣は痛みを無視し、朦朧や失神に陥る事を防ぐ力はあるものの、ダメージが無くなるわけではない。単に無理が利くようになるだけ……言い換えれば「死ぬまで戦えるようになる」能力なのだ。
本当に不死になるような魔剣があったとしても、それが与えられるほどシグルドは重宝されていなかった。
結局、大電力で感電した体は、本人の意識がどうあろうと焼けて動けない状態に陥った。
もちろんそんな威力の電撃を受ければそのまま絶命する危険も非常に高いので、グロウにしてみればできるだけやりたくなかったのだが。
「話にならんかったか。どうやら俺がやらんとどうにもならん相手のようだな」
呆れ半分、しかし――グロウの魔法の威力を目の前で見ていながら――どこか楽しそうに。
敵将ミリオボルトが呟いた。
片方ぐらいは従者にでもやらせようかと思いもしたが、字数が嵩むので一緒に片付けておいた。




