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35 聖女敗北(無残)

登場人物

グロウ:男主人公。剣の国ブライダの魔法戦士。

エレナ:女主人公。聖獣の国セレスの元公爵家令嬢。

エリュトロス:最強の聖獣らしき小さな飛竜。

オニクス:元魔王軍のダークエルフ。グロウに敗れて従者となる。

フィリス:エレナの妹。聖獣フェアリーパピヨンを召喚できる聖女。

ミリオボルト:新魔王軍・12真将の一人。

 ミリオボルト軍の進撃速度の速さを真に支えるもの。

 それは総大将が初手で敵を半壊させるが故の、損耗度の低さにあったのだ。受ける被害が小さければ、補給や休息も最小限で済む。



 だがしかし。

 ファディス軍を蹴散らす新魔王軍が、逆に倒され始めた。勢いがそこで止められる。

 ミリオボルトが「ほう?」と呟く。その目がファディス軍の奥から現れた聖獣達をとらえた。

 獣、鳥、植物、中には人型の物もいるが……その姿は輝く金属でできたよう。強さや発揮する魔力は明らかに普通の動物とはケタ違いで、魔物の兵士どもが容易く蹴散らされてゆく。

 怯んだ兵士どもにエルフの魔法戦士達が斬りかかり、形勢は逆転されつつあった。


 ミリオボルトの乗る竜の周りを虹色の蝶が囲む。

 竜が炎を吐き薙ぎ払う……が、蝶達は炎を浴びても焼けも燃えもしなかった。そして蝶達の翅が一際強く輝く。


 ミリオボルトが竜の背から跳び下りた。攻撃の気配を察知したのだ。

 次の瞬間――

 虹色の光が弾け、竜が消滅した。文字通り粉々になり、粒子となって宙に溶けてしまった。


 そして地に降りたミリオボルトへ跳びかかる、エルフの魔法剣士ペアー。


「必殺剣【ブリザードブラスト】!」


 凍気を帯びた細身の剣が一閃、黄金の兜が砕ける!


「ほう、なるほど。流石に首都を防衛する連中となると違うな」


 そう漏らすミリオボルトの声は……笑っていた。

 露わになった素顔は、人間の歳なら20代の半ばから30歳ほどの男。乱れた短い髪に太い眉、自信にあふれた精悍な顔。なかなかの男前ではあるが、野獣のような獰猛さが露わになっている。

 そして傷一つ、血一筋流れていない。兜を捉えた剣もこの男を傷つける事はできなかったのだ。


 そこへファディス軍の騎士や他のエルフ達も駆け付けてくる。


「敵将、覚悟!」


 だがミリオボルトの腕に再び電光が集まったかと思うと、それが爆発し、周囲を吹き飛ばした。

 向かっていった者達はことごとく大地に叩きつけられる。

 それはペアーも例外ではなかった。地面を転がり、彼女は呻きながら敵将を見上げる。


(ケタ違いだ……人間じゃない?)


「俺に覚悟させる程の奴はいないようだな」


 そう呟くと、ミリオボルトは乱戦の繰り広げられる戦場へと自ら乗り込んで行った。



「く、来るわ……」


 聖女の一人が怯えた声を漏らす。

 聖女達は軍の最後方で、召喚した聖獣達を戦わせていた。しかし乱戦が広がる中、ついに最後方にまで敵部隊の一部が斬り込んできたのである。

 狼獣人(ワーウルフ)やブラッドトロール等の、魔物兵の精鋭達が、ファディス軍の兵士や騎士と戦いながらも聖女達に迫る。


 だが聖女達の周囲を虹色の蝶達が舞った。

 それらの翅が輝くと、魔物の兵達が次々と光の中へ粒子となって消し飛んでいく!

 敵味方が驚愕する中、エレナの妹フィリスだけは冷たく微笑んでいた。


 フェアリーパピヨンの驚異的な魔力。その念動力は分子の結合さえ解除し、文字通りの消滅にさえ至らせる。

 だが真に恐るべきは、その力を持つ魔界の蝶が無数の分身を持つ事だ。戦場にいる多数の敵から相手を選んで消滅させ、同時に聖女の周囲を守る事もできる。

 攻防一体、そして無尽蔵。この消滅の魔力に耐えられぬ物が何百何千何万で攻めてこようが、ただ全て消え去るのみなのである。


(私がいればセレス国は無敵。私がこの国といっても過言ではないわ)


 フィリスはこの野蛮で見苦しい(いくさ)を終わらせるべく、先ほど竜から飛び降りた敵将の姿を探した。周囲の敵兵を次々と消滅させながら。

 その時、戦場の中で膨大な稲妻が爆発し、ファディス軍を吹き飛ばした。


 魔物の兵が消滅し、ファディスの兵が稲妻で打ち倒された。戦場の中に空白地帯が生まれる。聖女フィリスと12真将ミリオボルトの間に。

 互いの視線が互いをとらえた。互いが探している相手だと認識する。


「いきなさい!」


 フィリスの意思を受け、フェアリーパピヨンの群れがミリオボルトを囲む。

 その翅が虹色の光を放った。


 黄金の鎧に亀裂が走る。

 だが――それだけだ。

 電撃を帯びた腕がうるさそうに払うと、蝶達が砕けた。


「そんな!?」


 驚くフィリスの前でミリオボルトが拳を突き出す。


「【ジゴワット・ボルト】オ!」


 炸裂する膨大な電光。蝶達がフィリスの前へ集まり結界となる。そこへ電光が突き刺さった。

 爆発!


 煙が収まった時、蝶達は全て消えていた。

 たった一つ、翅の破れた蝶の屍がフィリスの側に落ちていたが、それも粒子となって消える。常に聖女の側にいる「本体」が、電光を止めきれずに打ち砕かれたのだ。


 聖獣は現世の生物と同じ意味では死なない。異界でいずれ蘇り、後の時代に新たな聖女を選んで戻って来る。

 だがそれには長い時が必要となる。この時代、フェアリーパピヨンは「死んだ」のだ。


 そしてフィリスは。

 フェアリーパピヨンが「死んだ」その側で、地に倒れ伏していた。大量の出血に息も絶え絶え……その右腕は千切れとんでいた。


「ひぎぃぃ……!」


 痛みと恐怖で泣きながら呻くフィリス。

 だが彼女を守るべきファディスの戦士は先程の一撃で吹き飛ばされ、誰もいない。他の聖女は悲鳴をあげ、自分の聖獣を慌てて自分の側へ呼び寄せ逃げ惑った。


「こんなのがセレス国の切り札か? なら今日中にこの国は終わりだな」


 無慈悲に呟き、ミリオボルトはフィリスに迫る。


 しかし――


 そこに凄まじい勢いの馬車が割り込んできた。

 戦闘中の兵士や魔物が慌てて逃げて道を譲り、馬車は急ブレーキをかけながらも滑り込んで来る。


 馬車から武装した戦士が二人降り立ち、ミリオボルト軍と対峙した。

 一人はダークエルフのオニクス。

 もう一人は、魔剣エレクトラーを手にしたグロウ。

一応、この時点で敵将に一番食い下がったのはヒロインの妹。

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