34 戦線への思い(苦悩する者、喜ぶ者)
登場人物
グロウ:男主人公。剣の国ブライダの魔法戦士。
エレナ:女主人公。聖獣の国セレスの元公爵家令嬢。
エリュトロス:最強の聖獣らしき小さな飛竜。
オニクス:元魔王軍のダークエルフ。グロウに敗れて従者となる。
フィリス:エレナの妹。聖獣フェアリーパピヨンを召喚できる聖女。
その日、グロウとエレナは帰路の途上にあった。帰り道は観光がてら、馬に強化の魔法などかけず、普通の馬車と同じ速さでゆっくりと。
だがその途中の宿場町で、従者のオニクスが告げる。
「お二方に凶報です」
「へぇ……って凶報!? 一体何なんだ」
戸惑うグロウにオニクスが言うには……
「大規模な魔物軍の侵攻がこの国で起こり、既に陥落した街もあると。方向からして首都を目指しているとの疑いもあるようで。無事にこの国を出たければ、今から急いだ方がよろしいのでは?」
「それって新魔王軍ってヤツ?」
エレナに訊かれたが、オニクスも他の御者達から聞いた話なので詳細はわからない。
しかし推測はできた。
「今この規模で動けるのはそれしかないと思います」
グロウはエレナへと振り向く。
「どうする? 都へ戻って加勢するか?」
「いや、そんな……この国の戦いにグロウを巻き込むなんて……」
戸惑いを見せるエレナ。
だがグロウはその顔を覗き込んだ。
「正直な気持ちは?」
そう訊かれると答えは違う。
親の一存で出る事になった故郷ではある。だがそれでもここで生まれ、今まで生きてきたのだ。
エレナは夫の瞳を覗いた。
「……放って、おきたくない」
――首都ファディス・王城――
突如出現した謎の軍が進軍中。既に複数の街が陥落し、首都へ一直線に向かっている。
その報告を受けた王――厳めしい初老の男――は驚き叫んだ。
「バカな!? 侵攻が早すぎる! 戦力と速度が合っておらんではないか!?」
各街にも常備している軍はある筈だ。それを一蹴できるなら相当の規模の軍であるはず。だが大規模な軍になれば進行する速度にも限度がある。
部下達の報告だと、無数の兵士が不眠不休で進撃して来るような錯覚さえ覚えた。
その速度のせいで、セレス国側はここまで迎撃準備が不完全なまま――それもまた敗因の一つ。
聖女達も王城に召集され、この異常な事態を説明された。
若き聖女には戦など未経験の少女もおり、怯えと不安を露わにする者もいる。
そんな中、エレナの妹・フィリスは表情一つ変えずに落ち着き、内心ではほくそ笑んでいた。
(これは私の出番かしら? この国の救世主は常に高位聖獣を召喚する聖女……私の栄光がやって来たようね)
――進撃中の新魔王軍――
総大将を勤める12真将の一人は、平野を進む軍の中、体長10メートルほどの四足竜の背に乗っていた。屈強な体に纏った黄金の鎧が陽の光を反射して輝く。黄金の兜に隠れ、その顔は窺えない。
そこへ忍び装束の間者が現れ、彼に報告する。
「セレス国は首都の手前、麓に最終防衛線をはるようです」
「どこで決戦をやろうと構わんさ。どうせ都が俺に焼かれる事は変わらん」
総大将は兜の下で笑った。次々と都市を陥落させながら、彼の黄金の鎧には傷一つついていなかった。
その前方に次の……首都へと向かう途上の最後の街が見えた。
――首都ファディスへと登る山地の入り口――
僅かな時間で集められるだけの兵を集め、ファディスの防衛軍は山の麓に陣を敷いた。最寄りの街が陥落した報告は昨日届いている。
果たして、地平線の向こうに大勢の人影が現れ、見た事のない旗がいくつも上げられた。その数は――数千にのぼるだろうが、万はいない。その数なら早い進軍速度も理解はできた。
「あれが新魔王軍か?」
「推定されてた数よりだいぶ少ないな……」
兵士や騎士の間から戸惑いの声が漏れる。数だけならファディス側が明らかに超えていた。
そんなファディス軍の中には、友軍として参加しているエルフ部隊もある。その中にはエレナの友人・ペアーの姿も。
細身の剣と銀の鎧で武装した彼女は、敵を前にしながらも友人の身を案じていた。
(エレナ……もう帰った筈だけど。ブライダ国はほぼ反対側だし、何かの間違いで巻き込まれたりしてないよね?)
どんどんと迫る敵軍を前に、ファディス軍は突撃の準備に入った。
敵が魔物の軍である事はもはや間違いない。ゴブリン、オーク、オーガー……兵士として武装しているのはそれらの魔物達なのだ。
その敵軍の先頭に大きな竜が出ると、その背にいる黄金甲冑の戦士が立ち上がり、大声を上げた。
「初めましてだな、人類側の連中ども。俺は新魔王軍12真将、獅子将軍のミリオボルト=ワンハドレド。まぁ長い付き合いにはなるまいが!」
それが敵将だと知り、ファディス軍から矢と魔法弾が飛ぶ。
弾幕の雨の中、敵将ミリオボルトは……兜の下で笑っていた。
「フッ……こんな雑な攻撃を仕掛けてくるとは。わざわざ挨拶してやったのは、なまなかな攻撃など効かん自信があるからだという事もわからんらしい。攻撃とはどうする物なのか見せてやろう」
敵将は剣を抜かない。呪文も詠唱しない。
だがその右手に稲光が収束してゆく。それを正拳突きのように前方へ撃ち出した。
「【ジゴワット・ボルト】ォー!」
太く膨大な電光が撃ち出される。
それは真っすぐに飛んでファディス軍に突き刺さった。無数の兵を貫き、電光が軍をほぼ二つに割る。
電光を食らった兵士は一たまりもなく吹き飛び、ある者は砕け、ある者は大地に叩きつけられた。それらことごとく絶命……一たまりもない。
その機を見逃すわけもなく、新魔王軍が雄叫びをあげてファディス軍に突進する。いきなりの大ダメージを被ったファディス軍は、慌てて応戦するも明らかに圧されていた。
ミリオボルト軍の進撃速度の速さを真に支えるもの。
それは総大将が初手で敵を半壊させるが故の、損耗度の低さにあったのだ。
やっと妹の本格的な出番だ。




