33 出陣(魔王軍)
登場人物
グロウ:男主人公。剣の国ブライダの魔法戦士。
シグルド:グロウがかつて所属していた冒険者パーティの戦士。
ディエン:グロウがかつて所属していた冒険者パーティの盗賊。
レイ:グロウがかつて所属していた冒険者パーティの魔術師。
――セレス国内、ネメア山の地下――
神殿のごとき大きな部屋で、屈強な男が豪華な椅子に座っていた。頑健な肉体に鎧を纏っている事はわかるが、その姿も顔も影になっていてよく見えない。
男の前には忍び装束の人影が膝をついていた。その手には一通の密書。
屈強な男が「ククク……」と笑う。
「ほう、伝説に名を残す最強の聖獣か。面白い」
「報告では、そう主張しているだけの魔物の子だそうですが」
忍び装束の人影がそう確認しても、屈強な男は笑っている。
「構わんさ。聖獣の国でそう名乗る奴を、他の聖獣どもごと叩き潰せばセレス国はもう終わりだ。ブライダ国の方に興味があったが……位置と距離から考えて、セレスの方を先にやっちまうか。派手な花火をあげて人類の度肝を抜くにも丁度いい」
ブライダ国で砦を建造していた部隊が音信不通になり、調査に向かった探索隊も戻ってこない……その話がこの男に報告されていた。男はその件に興味を持っていたが、最強の聖獣と聞いてセレス国を優先する事にしたのだ。
より大きな脅威に興味を抱き優先する――それは男が絶対の自信を持つがゆえ。
忍び装束が頭を垂れた。
「わかりました。ならば急ぎ本部に了解をとります」
「そろそろ俺達に侵攻するよう指示が出る頃だと思ってはいたからいいタイミングだ。部下どもに出撃の準備をさせるか」
そう言うと屈強な男が立ち上がった。
――ネメア山の地下基地――
基地内に出陣準備の指令が走った。本部から許可が出次第、セレス国の首都へ向けて侵攻を開始すると。
基地内の兵士達が喜び勇んで武具の手入れを始める。兵糧、矢、騎獣などを集めるために基地の外へ内へと走り回る者も多数。
兵士達の大半はゴブリンやオーク等、下級の魔物だ。だが人類を裏切った人間も結構な数がいた。
そんな人間の中に、かつてグロウとパーティを組んでいた二人の男もいた。
廊下の騒ぎを横目に、盗賊のディエンが高揚した呟きを漏らす。
「いよいよ人類との戦いかあ」
「へっ……他国の奴らならいくらでもやれるぜ」
そういうのは戦士のシグルド。二人は真新しい武器をその手に持っていた。
二人とも隣国ブライダ出身で、スカウトされたのも地元だ。だがそこで与えられた小さな仕事を成功させ、それが認められてこの本部へ案内されて来たのである。新しい武器は報酬として新魔王軍から与えられた物だった。
「レイの奴は残念だったな」
ディエンは生還しなかった元仲間の魔術師を思い出した。
シグルドが小さく肩をすくめる。
「ま、仕方ねぇ。ツキに見放されたらそれまでなんて、戦場や冒険者稼業でも同じ事だからな。だが俺達は違うぜ」
二人は消えた仲間の事は忘れ、自分達の未来への期待で陽気に笑った。
――数日後。ネメア山近くの森――
地元の領主から命令を請け、数人の調査班が山を目指していた。
都から王の名で依頼が来た以上、調べないわけにはいかない。新生魔王軍などという眉唾物の話も、無根拠で出たわけではないようなのだ。
途中、何度か休憩をとりながら魔術師が【視力増強】の呪文で山の様子を窺う。
山のすぐ側まで近づいた時、魔術師が焦った声をあげた。
「これは……! 相当な数がいるぞ。群れというより、もはや軍だ」
他のメンバーは魔術師が指さした方を木陰から眺める。
確かに、魔物の影が無数に集まり、大きな塊となって山中を進んでいた。
「魔王かどうかはわからんが、軍を編成する規模の親玉が潜んでいたのは確定か」
「危険だがもう少し近づくか。念のため、一人だけ街へ報告に戻ろう」
調査班は分かれ、一人の戦士が引き返していった。それを見送り、残りのメンバーは山中の軍へ近づく。
だが少し接近した所で――黒い影が調査班へ樹上から跳びかかった。
「!?」
最初の一撃で神官が首を刎ねられる。
残りのメンバーが叫んだ……ある者は怒りに、ある者は恐怖に。
だが樹上から次々と黒い影が跳びかかり、残った者達を仕留めにかかった。
調査班もそれなりに手練れではあったが、忍者部隊の奇襲をまともに食らっては一たまりもなかった。
戻った一人により最低限の準備はしたが、それでも予想以上の魔物の軍に攻められ、ネメア山最寄りの街はその日のうちに陥落する事になる。
セレス国を襲う、久方ぶりの危機が始まった。
主人公2人にとっては帰ってしまえば無関係……でもない筈。
隣国が戦火に見舞われて、ぼうっとしてるだけとはいかんわな。




