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3 妻の過去(婚約破棄というか略奪)

登場人物

エレナ:女主人公。聖獣の国セレスの元公爵家令嬢。

 グロウに比べ、エレナの方は一ヵ月以上の時を遡る。

 婚約を解消され、その元婚約者が妹を選んだ時まで。


 領内に高山を多くもつ天空の国セレスには「聖女」と呼ばれる女性達がいる。他国でそう呼ばれている守護の魔力持ち女性とは大きく異なるが。

 セレスは聖獣達を従えていた108人の巫女が建国に大きく関わっており、動物達の飼育や管理に関する技術・魔術が盛んだ。そして今でも貴族家の女性には、108の聖獣のどれかを召喚・使役する異能に目覚める者が稀に現れる。「聖獣」を召喚できる女性……故に「聖女」なのである。

 特に聖獣達を率いていた大将格の3頭を召喚できたのは、歴史上、建国の英雄達の直系・公爵3家の聖女のみ。その3頭が全て空飛ぶ聖獣だった事も、セレスが天空の国を自称する理由の一つである。


 エレナはその公爵家の一つ・エルシオ家の長女だった。とはいえ聖女の能力は無い。

 だが二ヵ月ほど前、妹のフィリスが聖女としての能力に覚醒した。108の聖獣の中でも特に高位の一つ、フェアリーパピヨンを召喚できるようになったのだ。

 この時代のセレス国にも数人の聖女がいるが、フィリスはその最高位に立った。これはエルシオ家にとって大きな朗報である。


 だがその後しばらくして、エレナの婚約者、ルヴェル侯爵家のリュカがエルシオ家に申し出た。婚約の相手をフィリスへ変えたいと。

 エレナの両親は……ルヴェル侯爵家との交渉の末、これを認めてしまったのである。


 最後に屋敷で会った日、リュカはフィリスを片腕に抱き、悪びれもせずに端正な顔へクールぶった笑みを浮かべて告げた。


「エレナ、君との婚約は破棄する。高位聖獣の聖女となったフィリスという才媛を私の妻とし、生涯大切にするつもりだ」

「ごめんね、お姉さま。でもセレス国の歴史上、50歳になってから聖女へ覚醒した人もいるわ。希望を無くさないでね」


 フィリスは勝ち誇った冷笑を隠そうともせずにそう告げた。左手の甲に蝶の描かれた魔法陣を輝かせ、周囲に虹色の翅をもつ蝶達をこれみよがしに舞わせて。


 確かに高齢になってから聖女へ覚醒した者もいる。だがそんな希少例を含め、聖女へ覚醒する者には共通点がある。

 なんらかの系統の魔術に秀でている事だ。

 聖女へ覚醒した女子はほぼ例外なく、召喚できるようになった聖獣に関する魔術を得意としていた。フィリスも手に触れずに物を動かす念動系の魔術が得意である。


 だが逆は成り立たない――魔術を得意とする女子なら関連する聖獣の聖女になるのかというと、そんな事は無い。フィリス以上に念動系の魔術を使う女性もこの国には一人ならずいるのだ。


 しかし魔術全般が不得手な女子が聖女になった例は無かった。

 そしてこの特徴に、エレナは当てはまってしまうのだ。特定分野に得意や苦手はないが、どの魔術を学んでも45点ぐらいの出来なのである。


(まぁ両親が私に期待しないのもわかるけどね……)


 嬉しそうな元婚約者と、聖獣召喚の魔法陣を輝かせて勝ち誇る妹を前に、エレナはやるせない思いを抱えて黙るしかなかった。


(しかし、まさか結婚相手まで妹にあげる事になるなんて思わなかったわ)


 口には出さなかったエレナの本音。そして薄々感じていた、両親も妹に期待していたからではないかという予感。

 子供の頃から欲しい物を取り合った時、行きたい所がかち合った時、必ず譲る側になるのがエレナだったのだ。「エレナはお姉ちゃんでしょ」という両親の言い分で。


(服とかスイーツとか観劇とか旅行先とか、どれもことごとくフィリスの意見が通ったもんね。父も母も、魔術の成績が優秀なフィリスに期待をかけてて、劣等生の私は後回しという事だったか)


 そんな妹が聖獣召喚に覚醒してから、婚約者と度々会っている事に薄々感づいてはいたが……近い将来、親戚になる二人なのだから変な勘繰りはやめようとエレナは考えた。

 困った事に、その勘繰りが的中していたようだ。



 こうして妹・フィリスと元婚約者・リュカの交際が表に出て急速に進む中、エレナは忘れられた存在として放置される日々となった……のだが。

 ある日、父が別の縁談を持ってきたのだ。


「喜べエレナ。お前を迎え入れたいという家があったぞ。これで妹に先を越されて嫁がれるという不名誉は回避できるな」


 それが隣国ブライダのキャスタル男爵家であった。


 ブライダとセレスの2国は隣り合う国の例に漏れず、距離の近さ故に長年の交易相手でありながら、領土や資源等の利益を巡っての敵対も常にある、友好と対立を同時に行わねばならない関係である。


 聞けばキャスタル男爵家は新興の貴族家でまだまだ地位は低く、所有する土地も小さい。どこか有力な名家と繋がるチャンスがあれば、すぐ飛びついても不思議はなかった。

 エルシオ家としても不出来な娘を順番通りに片付け、関係の難しい隣国へのパイプを1つ増やす事ができるなら、特に断る理由は無い。


(そりゃまぁ貴族の娘なら家の都合で相手が決まるのは仕方ないけど。ここまで露骨なお片付けとは清々しいわね……)


 エレナが感心さえする中、話は急速に進められた。妹の結婚がいつになってもいいように。

 顔合わせもしないまま籍が入れられ、結婚式は隣国でする事に決められ、たった一つの鞄に荷物を入れて馬車に乗せられて国境を越え、「妻」として夫の実家にやってきたのであった。

召喚できる聖獣自体は本人との相性で決まる。

聖獣に必要なハードルさえ超えてしまえば本人の魔力と聖獣のランクに関係は無いし、魔力が上がったからといって高位の聖獣に変わる事も無い。

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