2 夫の過去(追放)
登場人物
グロウ:男主人公。剣の国ブライダの魔法戦士。
つい数日前の事。
拠点にしている冒険者ギルドの酒場で、グロウは三人の仲間から一方的に別れを告げられた。
リーダーの戦士シグルドがニヤつきながら勝ち誇っていた。
「グロウ。お前はもういらないぜ。新メンバーに渡りがついたからな……最後に紹介してやるよ、僧侶のファムだ。これからは彼女に回復を担当してもらう。クソショボ魔剣なんか有っても、お前はもう不要だ」
セミロングの女僧侶が、不穏な空気に戸惑いながらもグロウに一礼する。
頭を掻くグロウもやはり戸惑っていた。
「やっと回復専門を入れてくれる気になったか。今までは回復魔法を使えるのが俺だけだったからなし崩しに担当してたもんな。だがなんでメンバー追加じゃなくて入れ替えなんだ?」
グロウは冒険者パーティ【ユグドラシル】を駆けだし仲間達と結成してから丸2年、特にヘマをする事も足を引っ張る事も無かった筈だ。
パーティメンバーが4人でなければいけない理由も無い。5人でもいい筈だ。
それがなぜ追い出されるのか?
【ユグドラシル】のメンバーは戦士のシグルド、魔術師のレイ、盗賊のディエン、そして魔法戦士のグロウだ。
グロウは神官戦士というわけではないが、攻撃と回復の初級呪文をいくつか習得していたので、自然と治療を担当するようになっていた。
しかし魔法戦士であり、中級のレベルに至った程度では使える呪文のランクは低い。レベル相応の仕事をやっていくならより高度な回復呪文が必要なのではないかと、グロウ本人も思っていた所だった。
シグルドは腕組みして見下すような視線を送る。
「能力の半端な奴をいれて分け前減らしたくないからに決まってんだろ! お前は魔法戦士、攻撃呪文も回復呪文も初級しか使えない。実家の金で買った魔剣も、とんだ期待外れだ」
魔術師のレイがクールな顔に苛立ちを浮かべて続ける。
「パーティ全体への強化バフ能力がある魔剣との事ですが、実感できない程度の微弱な補正ですからね。君のいない所で呪文を使ってみましたが、威力は変わりませんでした。これでは何の意味も無い」
二人の言う通り、グロウは特殊な効果のある魔法の剣を持っている。冒険者になる前から。
ここブライダ国は剣の神が選んだ勇者が当時の魔王を倒した後で興した国であり、勇者とその仲間達――この国の王侯貴族の先祖――は皆がこの世に唯一の、己が生み出した分身とも言える魔剣を所持していたのだ。
神の加護は血筋にも受け継がれ、その子孫にも魔剣を「生み出す」者がいた。
長い時間の間に勇者達の血は薄れ、魔剣を生み出せる者が稀になっても、魔剣を神聖視する風習はこの国に残っている。持っていなければ前衛職としてまだ半人前だと見なされる程に。
だから戦士達は自分の使う魔剣を欲しがるし、商店ギルドは質の良い魔剣を仕入れるために古くからドワーフ族と付き合いがあるし、実家に金のある騎士は叙勲とともに魔剣を購入していた。
さらに盗賊のディエンが、女受けしそうな端正な顔を嫌味に歪ませて笑った。
「せめてお貴族の実家から金を引っ張って来たりすれば違ったんだけど。最初から魔剣を買って貰ってる恵まれた身分なのに、報酬も経費もきっちり頭割りとか。ケチ臭いんだよね」
それでグロウには察しがついた――似たような事を言われた経験が一度ならず有るからだ。
「なんだ、俺の財布に頼りたかったのか。でも最初に言ったぞ? 実家からの援助は無いってな」
そう、グロウは貴族出身である。だが身分の低い新興の男爵家だ。
家は兄が継いだので、己の腕で食っていこうと家を出て冒険者になった。その時、持ち出す金は最小限にしておいたし、今も現金は同じレベルの冒険者相応にしか無い。
しかしこのパーティに貴族出身だという事を隠していなかったせいで、実際以上に恵まれていると思われていたのだ。
再びシグルドが息巻く。
「それでも魔剣の威力で、魔法戦士ながら専業戦士の俺並に戦闘力があった。だから今まではパーティに入れてやっていたが……俺も魔剣を手に入れたからな。もう専業戦士の俺の方が強い筈だ! 期待した程の旨味も無いし、実力はもう置いていかれるだけのお前なんぞ不要って事よ。さっさと失せな!」
前回請けた依頼はサーベルタイガーの討伐。その巣で【ユグドラシル】は魔法で強化された剣【スラッシングソード】を見つけたのだ。
ここに至りグロウは察した。三人は裏で意見を一致させていた事を。
貴族出身で魔剣持ちのグロウと組んでいたのは下心あっての事だったが、それが期待外れであり、その不満が新メンバーの加入で噴出したのである。
グロウは小さく溜息をついた。
(やれやれ、またか)
貴族といっても最下級。それもあって、グロウは子供の頃から割と好き勝手に町へ遊びに出ていた。が、近づいて来る奴や親切にしてくれる奴にはこういう下心のある奴もしょっちゅういた。
そんな時同様、ここでもグロウはいつも通りにした。
「仕方ねぇな。じゃあ、あばよ」
くるりと振り向き、肩越しに手を振って別れを告げた。そのまま酒場を出て行く。その背を元パーティメンバーが、ある者は勝ち誇り、ある者は苛つきながら見送っていた。
だがグロウはもう振り向かない。明日は明日の風が吹くのだ。
今日も独り立ち去るグロウ。
実は友人の多い人間ではない……むしろいない側だ。何かの諍いや揉め事が起きると、どうも孤立しがちなのである。
地方の成り上がり一家の息子であり、上流階級と平民の間にいる事。無理に受け入れてもらおうとせず飄々と好きにしている事。それらが影響している事は確かであった。
そんなグロウの持つ魔剣だが、実はこれ、家に買ってもらった物ではない。
この国には、今でもごく稀に自ら魔剣を生み出す者がいる。そうした者は剣の神の加護を強く受けた者として将来有望な麒麟児と見なされがちだ。
そう、グロウは今や希少な、自分で魔剣を生み出した者……真の意味での「魔剣使い」なのである。グロウの魔剣【エレクトラー】は、彼が12歳の時、魔術の練習中に雷球の中から出現した物なのだ。
こうして生まれた「真の魔剣」は「魔剣使い」とレベルがリンクする能力を有し、魔剣使いの成長とともにパワーアップしてゆく、魔剣使いの一部なのである。
だがグロウは特別視される事を嫌い、「魔剣使い」だという事を家族以外の者には明かさなかった。だからパーティの仲間三人も実家からの餞別だと勘違いしていた。
途中で酒を買い、グロウは宿へ戻った。
すると玄関の側に馬車が停まっている。キャスタル男爵家の家紋が描かれており、御者はグロウを見るや座席から跳び下りた。
「グロウ様。貴方に娶っていただきたい方がいます。すぐに実家へ戻ってください。説明はそちらで」
「はぁ!?」
こうしてグロウはパーティどころか冒険者も辞める事になった。
別にパーティメンバーの勘違いではなく、彼らは主人公(男)の魔剣から強化バフをほぼ受けていないのだ。
理由はしばらく後に。




