28 認められなかった事実(ラッキー)
登場人物
グロウ:男主人公。剣の国ブライダの魔法戦士。
エレナ:女主人公。聖獣の国セレスの元公爵家令嬢。
エリュトロス:最強の聖獣らしき小さな飛竜。
オニクス:元魔王軍のダークエルフ。グロウに敗れて従者となる。
エルシオ公爵:エレナの父。
エルフの少女は細身の剣を抜くと短い呪文を唱えた。途端に刃が輝く凍気に包まれる。
「汚らわしいダークエルフめ! 受けろ我が必殺剣【ブリザードブラスト】!」
そして恐るべき速度の斬撃をダークエルフのオニクスへ見舞う!
その一撃を、オニクスは白羽取りで受け止めた。
「な、なにィ!?」
驚愕するエルフ娘。
渦巻く凍気はダークエルフが掌に帯びた炎の魔力で相殺されていた。必殺の魔法剣技が完全に封じられていたのである。
大慌てで後ろに飛び退き、彼女は呆然と呟いた。
「ば、バカな……ここまで完全に防げる者は我が里にもいないのに……これほどの達人がなぜこんな所に!」
「こんな所でいきなり剣を振り回さないで、ペアー。一応公爵の前なんだから……」
そう声をかけたのはエレナだ。名前で呼びかけた事で、エルフ娘と旧知の仲である事がわかる。
それでオニクスも「ほっ」と冷や汗をぬぐった。
(危なかった……グロウ様の魔剣で能力が底上げされていなかったら致命傷だったぞ。おのれエルフめ……)
恨みは晴れないが主人の奥方が友人とあっては我慢するしかない。
ではエルフ娘の方は、というと……エレナの存在に気づき、驚き歯軋りした。
「おのれダークエルフ、人質を操るなど汚い手を! エレナを開放しろ!」
「そうじゃなくて……」
呆気にとられる他の人間を他所に、エレナはかくかくしかじかと経緯を説明した。
それを聞くと……エルフの少女・ペアーはがっくりと膝をつく。
「そんな……エレナの嫁ぎ先が、ダークエルフを召し抱えるような邪悪の将だなんて! この世界に救いは無いの?」
世界の敵にされて困るグロウへ、エレナは戸惑いながらもフォローを試みる。
「ゴメンね、ペアーは私がこの街に住んでいた頃の友人で、とても良い子なんだけど……ここまで思い込みが激しい子だったとは知らなかったわ」
「まぁ我々とエルフ族はこんな物だ」
怒りの目を向けながらも抑えて言うオニクス。
それを聞いて、グロウはピンと閃いた。目を丸くし立ち尽くしていたエルシオ公爵にやや早口で話しかける。
「とすると、私の従者は公共の場に出向かない方がいいようですな。この国はあちこちにエルフ族の者がいるそうですから。広く伝えるのは公爵殿に任せ、我々はこれで引上げさせていただきます」
「あ、ああ。まぁ仕方あるまい。新魔王軍の件は私から王に伝え、どうするか慎重に検討しよう」
混乱覚めやらぬ公爵が期待通りの事を言ってくれたので、グロウは丁寧に一礼し、妻と従者を連れてその場から立ち去った。
――街の大通り――
御者を勤めながらオニクス――当然、幻覚呪文でエルフに変装済みである――は馬車の中へ声をかけてきた。
「私が情報源というのは不味かったようですね、グロウ様」
エルフのペアーが騒いだおかげで話が終わった事を言っているのだが、グロウは座席で肩を竦めた。
「なに、これでいいさ。元より適当な所で引き上げて、後はあちらに任せるつもりだった。ちゃんとした立場の人間に信じさせる事ができた時点で、オニクスの仕事は達成されてるよ」
「私達が思っているよりも、エルフとダークエルフの確執は根深いのね」
友人の知らなかった一面を見て困惑しているエレナ。
オニクスは面白くもなさそうに言う。
「まぁこれは前に話した通り。発端は神話の時代ですが、その後も事ある毎に戦い続けているのでね……仲良くなぞできませんよ」
――大通りのホテル――
部屋をとった後、グロウ達は馬車をホテルの庭へ入れ、ホールへ入る。
「ところで、エレナにも聞きたいんだが。聖獣の件を信じて貰えなかったが、なぜ途中で切り上げたんだ? 本来の姿を見せれば信じてもらえたかもしれないぜ」
グロウが気になっていた事を聞くと、エレナは飛竜のエリュトロスを抱いてにこりと微笑んだ。
「うん、私もそうしようと思った。けど、咄嗟に閃いたのよ。信じないのは父の勝手。別に私は騙したわけじゃないし、嘘もついていないじゃない……てね」
そしてくすくすと笑いだす。
「私はセレス国の聖女と認められなかった……ならこの国に留まらなくてもいいわけよね? スロウ村に帰るのを、誰も止めようとしないんだから」
ぽかんとして聞いていたグロウだが、エレナの言い分を聞くと、彼もまた笑い出した。
「た、確かにその通りだ。なんだ……こちとら引っ越しを考えていたってのに、そんなもん要らなかったか!」
「うん、そういう事! この時代に聖獣ワイバーンが蘇ったのは、娘の見栄で誤報。セレス国の公爵サマがそう判断したんだもの、そういう事になっちゃった!」
ホールの片隅で笑いあう二人。
側で聞いていたオニクスもほっと一安心。
エレナは満面の笑顔でエリュトロスに頬ずりした。
「もちろん私はエリューが聖獣だって信じてるわよ。私が勝手にそう思ってるだけだから、信じないセレス国には関係ない事だけど」
頬ずりし返しながらエリュトロスが「ンゲー」と嬉しそうに鳴く。
笑いながらグロウは肩をすくめた。
離婚の可能性も考えていたが、グロウとエレナはまだまだ夫婦。
結局そういう事だ。
それを喜んでいる事に、さて、二人は気づいているのかどうか。
四方丸く収まって我ながらイイハナシダナー。




